付城
ACU2313 8/21 ブリタンニア連合王国 王都カムロデュルム近郊
ゲルマニア軍はヴェステンラント軍からの妨害に対処しつつ、カムロデュルムのすぐ近くに陣地を構築することに成功した。敵の攻撃に最低限耐えられる塹壕と、大量の武器弾薬食糧を備蓄した野戦築城である。
「大分物資は集まってきたな。師団長殿、そろそろ仕掛けるべきだと思うが」
オーレンドルフ幕僚長はカムロデュルムを双眼鏡で眺めながら、シグルズに問う。因みにカムロデュルム攻撃部隊の司令官はオステルマン軍団長、或いは中将である。
「すぐに動かせるのが30万……。まあ仕掛けてもいいが、やはりあれに突撃するのは勇気がいるな」
「勇気とは、おかしなことを言うな」
「それはそうだろう。どうみてもルテティアより堅い城だ」
カムロデュルムは、都市そのものが要塞と化している、エウロパではよくある都市だ。しかしその武装っぷりが半端ではない。
都市を囲う城壁には胸壁(大量の凹凸が連続しているあれ)が並び、城門の前には深い水堀と魔導弩砲が載った塔がひしめいている。大洋と繋がっている都市だからこそ出来る芸当だ。
「特に水堀は厄介だ。橋がない以上、こっちの戦車はまるで役に立たない。戦車が渡れる程の橋を造る暇を、奴らが与えてくれるとは思えないからね」
「確かにな。では歩兵で突撃するか?」
「あの虎口は歩兵だけで簡単に落とせるものじゃない。大量の犠牲を覚悟の上で、物量で押し潰すしかないだろうな」
「ではどうするのだ?」
「それに困ってるんだ。城攻めは僕の専門じゃない」
シグルズはあくまで22世紀の近代戦の知識で戦っている。こんな16世紀みたいな攻城戦は全くの専門外なのだ。
「君こそ、幕僚長なんだから何か案を出してくれ」
「すまないが、私もあんなものを落とせる自信はない」
「そう、か……。困ったなあ」
どうやら第88機甲旅団には城攻めという概念がないらしい。有力な作戦を提案することは出来なかった。
「まあ、私達だけで作戦を決める訳ではないのだ。ここは他の将官の意見を聞きに行こう」
「そうだな。軍議に期待しよう」
オステルマン中将はまもなく師団長達を集めて軍議を開く予定だ。そこで何か名案が出ることに期待しよう。
〇
「――さて諸君、敵は我々が見たこともない大要塞だが、何かよい作戦はあるか?」
オステルマン中将は諸将に尋ねた。しかしなかなか案は出なかった。
「中将閣下、それではまず状況はもう少し整理しましょう」
第89機甲旅団長、あの親衛隊全国指導者の娘、ヒルデグント大佐は言う。
「ほう。言ってみてくれ」
「はい。まずヴェステンラント大陸からおよそ3万の援軍が迫っています。よって我々は、30日以内にカムロデュルムを落とさねば」
「そうだな。急がないといけない」
「それに加えて、重大な問題は、戦車が使えないことと、この都市が本来味方のものであることです」
「味方のものとは?」
「ダキアのようにカムロデュルムが敵のものであれば、家を焼き払って音を上げさせることが出来ました。しかし今回は、そんなことは出来ません」
ヒルデグント大佐はどことなく残念そうに。仮にも同盟国の首都、今回は民間人を意図的に殺すのはなしである。多少の巻き添えは仕方ないが。
「そうだな。空襲も砲撃も市内には使えん。となると――いよいよお手上げじゃないか」
「ええ、まあ私も答えを導けた訳ではありませんから」
「うーむ……」
この要塞を落とすのは、ゲルマニア軍にとって条件が悪過ぎる。まさに天敵と言うべき城であった。
しかしシグルズは、そこで一つ思い付いた。
「そうだ、軍団長殿」
「何だ、シグルズ」
「カムロデュルムの市民は皆、我々の味方です。彼らを蜂起させることが出来れば、その混乱を突いてカムロデュルムを落とすことも可能ではないでしょうか」
「民衆を立ち上がらせる、か。しかし何の武器も持っていない民衆に、そんな力があるか?」
「武器なら僕達が与えればいいのです。例えば空から落とすとか」
「空から? そんなことをしたらバレるだろう」
「まあ魔法を使うのは前提ですが、地面に落ちる直前で落下速度を緩めるなどすれば、バレにくいかと」
「なるほどなあ……」
地面に激突する直前までは自由落下に任せ、ギリギリのところで魔法を用いて落下を止め着地させる。ほんの一部の魔女にしか出来ないが、それで十分である。
「どうでしょうか、軍団長殿」
「まあ悪くないんじゃないか。武器なら余裕はあるし、爆撃機は暇しているからな」
「はい。それに、失敗してもゲルマニアに大した損失はありませんからね」
「お前もまた随分と言うようになったじゃないか」
失敗しても失われるのは多少の武器とブリタンニア人の命だけだ。それを大したことはないと言うべきかは微妙なところだが。
「よし。いいだろう。シグルズ、準備を頼む」
「はい。すぐに準備を整えます」
シグルズは培ってきたコネを使って爆撃機の要請と武器の横領を行うのであった。
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