上陸戦Ⅱ
「ゲルマニアの戦車が突撃してきます!」
「防衛線が一部突破されました!」
「どうやら、楔を打たれたようです」
「クッソ……やってくれるじゃないか、戦艦とやら」
まさかこうも早く弩砲を吹き飛ばされるとは思っておらず、スカーレット隊長の顔には焦りと苛立ちが如実に浮かんでいた。
「スカーレット隊長、ご指示を!」
「……敵は第二防衛線を貫いているな」
「え、ええ、4ヶ所を突破されています」
「ふむ……」
スカーレット隊長は改めてゲルマニア軍の様子を観察する。戦車を中心とする小部隊が塹壕を4ヶ所貫き、切断した。しかし彼らは、その場で守りを固めるだけで、それ以上の攻撃を行おうとはしていないようだ。
「敵はもっと奥にまで攻め込んで陣地を撹乱することも出来る筈だ。だがそれをしないのはどうしてだと思う?」
「そ、それは……さあ……」
「恐らくだが、敵は援軍を待っているんだ。私達の塹壕を分断しておいて、援軍で一気に叩くつもりだ。あの小型船も艦隊に戻ったようだし」
「え、援軍などあれば我々は……」
「ああ、持たんだろう」
ゲルマニア軍がまさかこんなに迅速に上陸を仕掛けてくるとは思わなかった。もしも戦車が更に送られてくるようなことがあれば、この防衛線は間違いなく陥落する。
「で、では……」
「可能性を捨てるのはまだ早い。敵の増援が到着する前に、上陸してきたゲルマニア軍を殲滅するぞ!」
「こ、こちらから攻撃するというのですか?」
「その通りだ。そうしなければ、我々は押し潰されるだけだ。私に続け!!」
スカーレット隊長は魔女達を率いて空に飛んだ。魔導兵達は彼女の号令で塹壕から這い出て、全力で突撃を始めた。
〇
「し、シグルズ様! 大変です! 敵がこっちに突撃して来ます!」
「何だって!?」
シグルズはすぐさま塹壕から頭を出して状況を確認する。およそ二千の魔導兵、百のコホルス級魔女が塹壕に向けて突進してきていた。
「そんな馬鹿なっ……。いや、そんなことを考えている場合じゃない。総員、小銃で応戦せよ! 距離を詰められたら機関短銃だ! この塹壕に、敵を一人たりとも通すな!」
塹壕戦。ゲルマニア軍が制圧した塹壕とヴェステンラント軍の間で、全く予期しないそれが始まった。
突撃する歩兵に対しては小銃で応戦。しかし鉄量はとても足りず、魔導兵の接近を拒むことは出来ない。
しかしもっとマズイのは空だ。帝国の塹壕に必須の装備である対空機関砲は、今ここに存在しない。彼女らを食い止められる武器はここには存在しないのである。ただ数人の魔導師達を除けば。
「やりたくはないが……僕が出る。オーレンドルフ隊長にも出てもらってくれ」
「わ、私も行きます!」
「ダメだ。ヴェロニカはここで部隊の指揮を頼む」
「そ、そんなあ――」
「じゃあよろしくね!」
シグルズは指揮官としての役目をヴェロニカに押し付けると、両手に突撃銃を召喚して白い翼を広げ、空に飛び立った。
「お前達の相手は僕だ。かかってこい!」
「そんな陳腐な挑発に乗るとでも思ったか!」
「何っ……」
魔女達は十人ばかりでシグルズを素早く取り囲むと、魔導弩で前後左右からシグルズを射撃した。シグルズはすぐさま鉄の壁を前後左右に作り出してそれを防ぐが、完全に動けなくなってしまった。
「時間稼ぎか……面倒な」
『シグルズ様! 大丈夫ですか!?』
「僕は大丈夫。だけど敵兵を食い止められない。オーレンドルフ幕僚長の方は?」
『幕僚長さんは現在、敵の魔女と戦闘中です。ですが、引き付けられているのは一人だけですね……』
「スカーレット隊長か。まああれを食い止められるのはいいが……。とにかくヴェロニカ、対空戦闘は頼んだ」
『な、何とかします……』
ヴェロニカ率いる地上部隊は小銃で対空戦闘を開始する。とは言え、対空機関砲のそれと比べて威力も弾幕も薄く、とても魔女達を撃墜出来るようなものではない。精々が嫌がらせ程度だろう。
「やっぱり厳しいか……。何か、何かいい武器は……」
『シグルズ様! 南から強力な魔導反応を確認しました!』
「何? そんな馬鹿なっ!」
『それと敵が塹壕に突入しました!』
「そ、それは迎撃するとして……」
魔導兵については何とかなる確信がある。機関短銃を使えば塹壕に突入してきた魔導兵を殺すくらい造作もないことだ。
しかし空はどうにもならない。個人の存在を特定出来るくらいの強力な魔力を持った、オーレンドルフ幕僚長やヴェロニカに匹敵する魔女が近付いている。
「ヴェロニカ、接近中の魔女は特定出来る?」
『魔導反応を照合中で……あれ? これは……』
「どうした? まさかレギオー級でも来ているの?」
『い、いえ。これはオステルマン師団長さんのものです! オステルマン師団長が来てくれました!』
「え、そ、そうか。あの人が来てくれたなら、何とかなるな……」
ここ暫く見ていなかったが、第18機甲旅団を率いるオステルマン師団長は魔女としても非常に強力である。まあ魔法を使っている間は比喩ではなく本当に別人になるという欠点はあるのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます