上陸戦

「戦車!? あの小船に戦車を積んでいたっていうのか!?」

「そ、そのようですね……」

「クソッ……やられた……!」


 小型船にギチギチにして積まれた戦車が解き放たれた。小型船から伸ばされた坂から砂浜へと降り立ち、榴弾砲をぶっ放し、歩兵を守りながら前進してくる。


「戦車がいきなり出て来るとは……」

「ど、どうされますか、隊長!?」

「戦車が出たならあれしかない! 準備しろ!」

「は、はい!」


 塹壕線だけがヴェステンラント軍の備えではない。


 ○


「よーし! 歩兵は戦車を盾にしつつ前進! 塹壕線との距離を詰めろ!」


 上陸を仕掛けたのはシグルズ率いる第88機甲旅団である。上陸艇に無理やり詰め込んだ戦車を盾に、一気にヴェステンラント軍の塹壕線に接近する。アトミラール・ヒッパーの攻撃ですら効果的ではなかった以上、榴弾砲はあまり意味がないが、ヴェステンラント軍の矢は戦車に阻まれ、歩兵に届くことはない。


 やがてシグルズは敵兵の鎧の装飾が見えるくらいの距離にまで近づいた。


「突入せよ! 塹壕を制圧せよ!」


 シグルズ率いる突撃歩兵は機関短銃を片手に塹壕へと突入。弩より取り回しがよく、剣より射程が長い機関短銃は、塹壕の中では圧倒的な強さを誇る。たちまち塹壕戦の中の敵兵は制圧されていく。


「やっぱり機関短銃への根本的な対策はまだないようですね」

「そこまでされたら僕達に勝ち目はないよ」


 ヴェロニカとシグルズは呑気にそんな会話を交わしながら塹壕を走り続ける。機関短銃が登場したのはかなり前だしヴェステンラント軍とかなりやりあってきたが、あのオーギュスタンですら機関短銃と正面から戦う方策を見いだせていない。まあ近距離に接近しないと使えないし配備数もまだまだ少ないが。


「オーレンドルフ幕僚長からも順調との報告が入っています!」

「よし。このままいけば今日中に橋頭保を築けるな」

「ヴェステンラント軍の塹壕は多くても3重のようです。計算上はいける筈ですね」

「まあ計算通りにいった試しがないんだけどね」


 シグルズはまず第一防衛線の制圧を進めた。そして思った通り想定外のことが起こる。


「シグルズ様! 戦車が吹き飛びました!」


 それは唐突に。歩兵を護衛していた戦車が3両ほど、一気に爆発炎上したのだ。ただでさえ20両程度しか揚陸出来ていないこの状況でその損害は大きい。


「何? 弩砲が配備してあったのか……。まあいい。後続が到着するまで歩兵隊は塹壕の中に隠れているように」

「はいっ!」


 今しがた奪い取った塹壕線はゲルマニア兵を守る盾になる。兵士達はヴェステンラント軍が掘った塹壕に身を潜め、増援の到着を待つ。


「ヴェロニカ、増援を出来る限り急いで送るように伝えてくれ。特に戦車を」

「分かりました!」


 上陸艇は使い捨てな訳では全くない。兵士と戦車を降ろした後はグンテルグルクと合流し、それらを再び載せてから海岸へと再び向かう。


 とは言え、それはそう簡単なことでもなく時間はかかる。それまでは耐えなくてはならない。


「ヴェロニカ、弩砲の場所は判る?」

「無理です、すみません……。敵がもう一発撃ってくれないと特定は難しいかと……」

「了解。待つしかない、か」


 地球の火砲と比べて魔導弩砲の秘匿性は非常に優れている。発砲炎も砲声もなく、大きさも簡単に隠せる程度のものだ。それを見つける手段と言えば、貫かれた装甲の穴を逆に辿るか、魔導探知機を使うしかない。


 しかし前者は正確に敵の位置を探れるとは言い難く、後者も魔導反応が発射の一瞬しか出ない以上、それを捉えるのは難しい。とは言え、どちらかと言うと後者の方が有望だ。


「来るか…………」

「来ました! 反応です!」


 ヴェロニカが魔導反応を捉えると同時に2両の戦車が吹き飛んだ。


「場所は? 見つけられた?」

「それが……他の多数の魔導反応に紛れてしまった上に一瞬でしたので、完璧には分かりません……」

「大体の位置は?」

「ここから11時30分の方向、400パッスス辺りです」

「十分精確だよ。じゃあアトミラール・ヒッパーに砲撃を要請してくれ」

「なるほど。戦艦を使うのですね」


 戦艦アトミラール・ヒッパーの火力であれば、大体の位置さえ把握出来れば火力で吹き飛ばすことが出来る。


「砲撃、始まります!」

「よし。これで終わりだ」


 6門の主砲から放たれた炸裂弾は、弩砲が存在すると想定される領域一帯をことごとく吹き飛ばした。焼け野原を作り出したところで、機甲旅団は突撃を再開する。


「時間はないぞ! 次の防衛線を速やかな制圧せよ!」


 戦車は失われ不十分であるが、上陸作戦を成功させるには一刻を争う。多少の犠牲は覚悟の上で、シグルズは突撃を命じた。


「て、敵の攻撃は激しいです!」

「増援を待った方がよかったか……。いや、戦車の充足している部隊だけ前進せよ! 敵の防衛線を切断するぞ!」


 防衛線全体を制圧するのは厳しいが、まだ無事な戦車を使って穴を穿つことは出来る。そして防衛線を弱体化させた後、増援で一気に防衛線を突破するのだ。

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