鶴山城の戦いⅢ
ACU2313 6/24 大八州皇國 薩摩國 鶴山城
「ドロシア、依然として敵が疲弊している様子は見られません。反対に、私達の方が暑さと轟音によって疲弊してきています」
「……そう。本当にロクでもないことになってきたわね……」
夏が近づいてきた。勝手知ったる土地ならまだしも、全く慣れていない異国の地。大八州の暑さはヴェステンラント兵を確実に疲弊させていた。それに絶え間ない銃声は兵士達に休む暇を与えなかった。
恐らくそれこそが大八州軍の策略なのだろうとは思いつつ、ドロシアもオリヴィアも有効な対策を打てないでいたのだ。
「オリヴィア、食糧の方は?」
「補給は問題ありません。ここで城攻めを続けることは出来なくはないですが……」
「あまりもたもたしていると曉が滅ぶ、か」
「はい。あちらは私達と違って、一刻の猶予もありません……」
武田樂浪守信晴は平明京に向けて全速力で進攻しており、都に辿り着くのにあもう半月もかからない。平明京の金陵城で籠城したとて、曉が都を追われるまでの残り時間は二ヶ月程度だろう。
曉が滅ぼされては、いよいよヴェステンラント軍は大八州侵攻の大義名分を失う。故にヴェステンラント軍はその前に筑紫洲を制圧し、潮仙半嶋の背後を突かなくてはならない。
因みに、中國の曉に直接援軍を送るのは、仮にも味方である上杉領では略奪が出来ず兵站が維持出来ないというのと、上杉と武田を潰し合わせて両方の勢力を削ぎたいとの思惑により、却下された。
「しかし、信晴はどうして背中をがら空きにしているのでしょうか? 私達が嶋津を倒したら、そのまま攻撃出来るのに……」
「嶋津が勝つと疑ってないんじゃない? 癪に障るけど」
「そ、そうですね……はは……」
それはヴェステンラント軍が勝つわけがないと信じ切っている、合州国を舐め切った行動だ。そう考えてみるとドロシアは無性に腹が立った。
「……そろそろこの戦いも終わらせないといけないみたいね」
「そ、そうですね」
「こっちが仮に5万の兵を失おうとも、5万が残る。大八州軍を壊滅できれば私達の勝ちよ」
「そ、そんなデタラメな……」
「勝たなければ、ここまで攻め込んだ意味がないわ。ひいてはこの戦争の意味も」
「そ、それはそうですが……」
これまで兵士だけでも二十万人近い犠牲を出して来た。それに報いるには勝たねばならない。
「だったら、総攻撃よ。準備を整えなさい」
「わ、分かりました……」
いずれにせよ、この一戦で勝敗が決することになりそうだ。
○
「嶋津殿、敵が総攻めの構えを見せています。すぐにでも動き出すかと」
立花肥前守義茂は嶋津薩摩守昭広に報告する。
「ほう。やっと来たか。思ったよりは遅かったな」
「そうなのですか?」
「ああ。奴らは出来るだけ早く決着をつけなければならねえ。だからすぐにでも全力で攻めてくると思っていたが、存外忍耐があったって訳だ」
「なるほど」
昭広はヴェステンラント軍が短期決戦を仕掛けて来ることは読んでいた。そして、それを待っていた。
「嶋津殿、この機を待っていたのですね?」
「ほう? これを機と言うか」
「はい。紛れもなく、好機です」
普通の武士ならば五倍の敵が一斉に攻めかかってきたとなれば絶望するだろう。だが嶋津と立花はこの状況を寧ろ喜んでいた。
「言うじゃねえか。鎮西一の武士とは、ただの噂じゃなさそうだな」
「そのあだ名は……」
「まあいい。お前がいれば鬼に金棒ってものよ。この戦、勝ったな」
「ご自身を鬼と称されますか」
「ふはは、そうだな! 勝つ為ならば、鬼にでもなってやろうじゃねえか!」
昭広が最早、自分の勝利を疑っていなかった。
○
「全軍、突撃せよ! この一撃で城を落とす! 有色人種どもに思い知らせてやれ! 我々白人こそが世界を支配するに相応しい人種であると! 奴らの姑息な作戦程度で我々と止めることなど出来ないということを!」
「「「おう!!!」」」
ドロシア率いる三万の軍勢は城門に向けて突撃を開始した。
たちまち砲撃や銃撃が開始され隊列が乱れる。そこにすかさず大八州の矢が飛んできて、兵士達を次々と貫いた。しかし、ドロシアはいかなり犠牲を出しても城を落とすと覚悟している。
「進め進め! 敵を根絶やしにするまで、歩みを止めるな!」
ドロシアは最前線に立ち、自ら居場所を明かすように軍旗を掲げながら突撃する。その姿は名実ともにすっかり歴戦の将軍だ。
「あれは堀かしら。でもそんなものが効くとでも?」
城門の前に掘られた、兵士の勢いを殺す為の深い堀。だがドロシアは土を司る黄の魔女である。
「埋まれ。今だけでいい」
ドロシアは魔法の杖をかざし、その堀を片端から一瞬で埋め立てた。魔法で作り出した以上夜が明ければ消滅するものだが、今だけ堀を越えられれば良い。
「城門はすぐそこよ!! 工作隊、突入!」
破城槌を持ち複数の魔女に護衛された小部隊が城門に迫る。一気に城門に張り付き、それを打ち破るのだ。
だが、そうしようと工作隊が走り寄った時であった。城門は彼らの手を煩わせることなく、自らその口を開いた。
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