エデタニア攻城戦Ⅱ
ヴェステンラント軍は一時撤退したものの、城門の前に陣を固めていつでも攻撃出来る体制でいる。ルシタニア軍もまた戦車と装甲車で壁を作って、考え得る限り最大の防御陣地を整えている。
「何とか勝ったな……」
「ええ。取り敢えずは予定通りです。損害も軽微ですからね」
「うむ……」
ルシタニア軍は一先ず勝利を掴んだ。だが、アルタシャタ将軍もシグルズも全く気を抜くことは出来なかった。敵も味方もまだまだ戦力を残しており、同じような戦いを何度もすることが出来るだろう。
そして、その全ての戦いで勝利出来るとは限らない。
「とは言え、我が軍で出来ることと言ったら防備を固めることだけです。後は、ヴェステンラント軍が消耗しきって撤退すれば一旦は我々の勝利と言えるでしょう」
「ああ。だが、一度勝ったとて我々の勝利ではない。少なくとも前線のヴェステンラント軍が立ち枯れするまでは、我らは勝ち続けねばならぬのだ」
「ええ……ですから、戦力を失う訳にはいきません。戦力を失わず、圧倒的な勝利を掴まねばならないのです」
「うーむ……」
先を考えると気が重くなる。彼らが掴まなければならないのは、完璧な勝利だ。それも戦闘を継続する為、都市に被害を出すことすら最小限に抑えなければならない。完璧な勝利を延々と掴み続けて初めて、エデタニアを攻め落とした意味があるのだ。
そうして初めて、ルシタニア軍はヴェステンラント軍を撃退することが出来るのだ。
「……先を憂いていては仕方がないな。とにかく、最善を尽くそうじゃないか」
「ええ。そうしましょう」
だが、先を憂う気持ちは最悪の形となって返って来ることとなる。
○
「……親父、今度も何とかしてくれるか?」
『ああ、もちろんだとも。我が娘が望むのならば何でもしよう』
ノエルは再びオーギュスタンに助けを求めた。恥を忍んで、というやつである。
『で、状況は?』
「ああ。それだが――」
ノエルは一通りの状況と戦況を説明した。ルシタニア軍は城門を一つだけ残して塞いでおり、その先には戦車と装甲車で構成された強力な防御陣地が構築されている。
空は対空機関砲でガチガチに守られており、エデタニアを落とすにはこれを真正面から突破するしかない。ノエルの思考力では、真正面から突撃する以外の手段を思い付かなかった。
『なるほど。よく分かった。では結論から言おう』
「は? もう結論が出たのか?」
ノエルが説明したいる間に戦術まで考え付いたらしい。
『ああ。まあ、結論はお前と同じだ。敵の策は非常に優れており、我々に残された手は真正面から突っ込むしかない』
「はあ? じゃあ大損害が出るのは仕方ないってか?」
『まあな。だから私が提案できるのは、損害を最小にする策だけだ』
ここまで状況を制約されると、流石のオーギュスタンでも大胆な作戦に打って出ることは出来ない。
「なるほど。じゃあ聞かせてくれるか?」
『ああ。こうするのだ――』
オーギュスタンは数十秒で考えた作戦をノエルに伝えた。
○
「アルタシャタ様、敵軍に動きがあります。再びここを攻撃する気でしょう」
「そうか。全軍、防備を整えよ」
「はっ!」
ヴェステンラント軍の動きの前に。アルタシャタ将軍は全ての戦車、装甲車、兵士、重火器を最前線に集めさせた。
「ここを一歩も通してはなりません。それが僕達に許された勝利です」
「まったく、君は無茶を言ってくれる」
「上官の癖が移ったのかもしれませんね」
「どういう上官を持っているのだ……」
ともかく、戦闘は始まった。ヴェステンラント軍は騎兵を先頭に鋼鉄の壁に向かって突撃する。
「敵に特に変わった様子はないようですね。無策に突っ込んで来ます」
「うむ。作戦通り、迎え撃て」
騎馬隊の先陣に砲撃を加え、その憩いを削ぐ。砲撃と銃撃が敵騎馬隊に加えられた、その時であった。
「飛んだっ! 閣下、敵が飛びました!」
「何っ!?」
騎馬隊の馬は吹き飛んだ。だがその上に乗っていた魔導兵の背中から翼が生え、騎馬の勢いを残したまま、矢のごとくに弾け飛んだ。そして戦車の車高より僅かに高い高度で飛翔し、一気に戦車隊を飛び越える。
「何だこいつら!」
「なるほど……馬の勢いを利用して考えられないほどの初速を出すとは。考えたな」
飛行魔導士隊は地上の障害物の一切を無視して移動出来るから機動性に優れているのであって、純粋な速度で比較すれば戦車よりも遅い。だから基本的にはあまり精確ではない対空機関砲でも落とすことが出来た。
だが今回の敵は違う。馬の速度を殺さずに飛行することで、圧倒的な速度で対空砲火を飛び越えるが出来るのだ。
「て、敵が戦車隊の背後に回り込みました!」「回り込まれました!」
背後に回り込んだのはコホルス級の魔女達。それが全く以て脆弱な機甲部隊の後背で暴れ回るのである。
「後方では陣が乱れています!」
「このままでは我が軍は総崩れに……」
組織的な抵抗が出来ない軍隊は脆かった。結局のところゲルマニア式の軍隊は距離を取って集団で戦うから何とか魔導兵に抗えているのであって、このように乱戦にもちこまれては全く不利なのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます