エデタニア攻城戦

 ACU2313 2/19 エデタニア郊外


 侵攻を進めていたノエルはエデタニア陥落の報を聞くと直ちに軍を引き返させ、エデタニアへと急行した。その用兵の迅速さは、ヴェステンラントの諸将の中でも特筆すべきものであった。


「まったく、面倒なことしやがって」

「しかしこれは好機でもあります。ここで勝てば、我々は敵の主力部隊を一気に壊滅することが出来るのですから」

「そうだな、ゲルタ。今度は逃がしはしない。私達に降伏するか、死ぬかしか許さん」


 ノエルはやる気だ。マフティアのように敵を逃がす気はなかった。


「それじゃあ早速エデタニアを包囲して――」

「殿下、申し上げます!」

「何だ?」

「エデタニアの城門がことごとく塞がれております。開けることが出来るのは、北門ただ一つであるかと」


 ルシタニア軍はほとんどの城門を二度と開けられないように完全に塞ぎ、ヴェステンラント軍が攻め込める経路を一つに絞っていたのだ。


「ほう……逃げ場を自ら断ってくれたんだ。いいじゃないか」


 ノエルにとっては好都合。エデタニアを包囲する手間が省けた。


「全軍を北門に集結させ、一気に攻め落とすぞ!」

「まあ、それしかないようですね……」


 ○


「殿下、用意出来ました!」

「よーし、城門を吹き飛ばせ!」


 城門の手前に置かれた魔導弩砲。ノエルの合図でそれは鋼鉄の巨大な矢を放ち、エデタニアの城門を軽く空に舞わせた。エデタニアの城壁は一重しかなく、その先にいくらかの砦はあるものの、すぐに市街地にぶち当たる。


「全軍突撃! 一気になだれ込め!」

「「おう!!」」


 ノエルは突撃を命じた。兵士達は騎馬隊を先頭にエデタニアに突入する。もちろん、ノエルとゲルタもほとんど先頭を走っている。ルシタニア兵が健気に機関銃で抵抗してくるが、魔女が盾を作っているし、何より数の差が大きい。


 あっという間に歩兵の抵抗は打ち砕かれた。だが、その時だった。またしても爆音と共に兵士が空を舞った。


「今度は何だ!?」

「戦車です! っ、来ましたね」

「ああ……」


 これ見よがしに表れた戦車と装甲車。ルシタニア軍としては本来の数よりかなり削られているが、一つの城門を塞ぐには十分な数くらいは残っている。鋼鉄は壁を為し、ヴェステンラント兵が先に進むことを許さない。


「敵の戦車が続々と現れています!」

「恐れるな! 勢いはこちらにある! このまま戦車の間に入り込み、白兵戦で撃破しろ!」

「は、はい!」


 勢いは削がれていない。このまま戦車の陣形に潜り込めれば十分に勝機はある。ノエルはそう踏んで、多くの将兵を失いながらも、戦車に肉薄した。そして魔導剣を抜くが――


「何っ」


 その剣は銃声と共に弾き飛ばされた。


「ノエル様!!」


 ゲルタが直ちに壁を作ると、それに無数の銃弾が飛来した。そして兵士達は次々に銃弾に貫かれていく。


「クッソ……歩兵も紛れていたか」

「そのようです。敵は、ここで私達を何としても食い止めるつもりのようです」


 戦車や装甲車の後ろに隠れた数万の歩兵が、陣形の中に潜り込んだ魔導兵に銃弾を叩きつける。戦車と歩兵を巧みに組み合わせた。ゲルマニア軍の戦訓の詰まった防衛線である。


 ヴェステンラント軍はその前に歯が立たず、徒に兵力を消耗するばかりであった。


「……いや、まて、ここで炎は効くんじゃないか?」

「あ、確かに」


 敵の陣形は言わば、戦車や装甲車で出来た細く狭い道だ。ノエルの炎ならばそれを埋め尽くし、敵兵をことごとく焼き殺すことも出来るだろう。


「あまり好きじゃないが……やるしかない。ゲルタ、手を貸せ!」

「はい!」


 ゲルタは盾にほんの僅かだけのぞき穴を開けた。ノエルはそこから魔法の杖を突き出し、煌めく炎を想起した。


 そしてその思考は現実となり、ゲルマニアの火炎放射器では到底実現出来ないような巨大な炎が洪水のように、ルシタニア兵に押し寄せる。


「うっ……熱い……」

「すまない、ゲルタ。だがもう少し我慢してくれ」

「む、無論です!」


 鉄ですら赤くなり溶け始めるほどの炎。1分ほど放ち、ノエルは炎で焼かれたであろう先を見た。


「何っ」


 だが次の瞬間、無数の弾丸が何事もなかったかのように飛んできた。


「どうなってやがる……」

「こうなってるんだ」

「っ!?」


 上から聞こえた若い男の声。それと同時に氷の槍が投げ落とされる。ノエルは辛うじて回避することが出来た。見上げると、ゲルマニアの軍服を着た見覚えのある人間が、白い翼を広げて滞空している。


「お前、シグルズか!」

「ああ、そうだ。君の炎は消させてもらった。こちらには何の被害も出ていない」

「チッ……やりやがったな」

「そっちがレギオー級の魔女を出してくるなら、こっちもそれ相応の対応をさせてもらうだけだ」


 シグルズは基本的に個人の力に頼った戦術を好まないが、相手がそれをしてくるなら話は別だ。シグルズはノエルの存在を既に察知しており、彼女が魔法を使うと同時に氷の壁を作って、その炎を完全に掻き消したのである。


「の、ノエル様……どうしましょう……」

「……撤退だ。態勢を立て直す。クソッ」


 ノエルは不利を悟り、全軍に撤退を命じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る