エデタニアへの逆撃

 ルシタニア軍は道程にある砦をいくつか陥落させつつ、エデタニアへと迫る。


「あれがエデタニアだ。見たところ、特にヴェステンラント軍が防備を整えているようではないが……」

「そうですね。ヴェステンラント軍の兵器は見受けられません。とは言え、彼らがダキア戦の教訓を得ている場合、かなり巧妙に兵器を隠している可能性も否定出来ません」


 ダキアは市内のあらゆるところに地下壕を建造し、そこに大量の魔導弩砲を隠していた。それは見た目には判別出来ないものだ。だから、遠目に見て特に異変がないのであっても、敵の罠がないとは限らない。


「それはどうすればいいのだ?」

「正直言ってどうしようもありませんね。撃たれてみるまでは」

「魔導探知機も使えぬか」

「はい。あれは魔法が使われているのを検知する装置です。魔法を使用せずに置かれているだけの魔導弩砲を検知することは出来ません」

「ふむ……困ったな……」


  戦車に対する唯一の脅威。それがあるのかないのか、判別する手段がないのである。これは問題だ。


「時間が経って敵の大型兵器が減ることはありません。ですが敵の増援は時間が経てば経つほど来ます」

「となれば……取るべき策は明らかか」


 いくら時間が経ったとしても魔導弩砲を探知出来る訳ではない。だが敵の兵力は少しずつ増えていくだろう。であれば、いち早く攻め込むのが上策だ。


「では、最速で攻め込むとしよう。全軍、エデタニア北門を攻撃せよ!」


 最低限の偵察だけを済ませると、ルシタニア軍は早速攻勢を開始した。


 ○


「敵の射撃です!」


 城壁の上から魔導弩による攻撃。当然、戦車にも装甲車にも効きはしない。


「城門上の敵から制圧しつつ、距離を詰めよ」

「はっ!」


 榴弾砲で城壁の敵兵を吹き飛ばしつつ、戦車は距離を詰める。


「城門を捉えました!」

「よし。徹甲弾に切り替え。城門を吹き飛ばせ!」

「はっ!」


 徹甲弾を鋼鉄の城門に叩き込む。一撃で城門を跳ね飛ばし、戦車隊は城内に侵入した。城壁の向こう側には多くのヴェステンラント兵がおり、戦車に集中して射撃を開始したが、全くの無駄である。彼らは逆に密集していたところを榴弾砲で殲滅された。


 ヴェステンラントからの目立った反撃は潰え、ルシタニア兵は悠々とエデタニアに侵入することが出来た。


「あっさりだな……」

「そうですね……」


 あまりにもあっさりとした勝利。だが、だからこそ、アルタシャタ将軍とシグルズは何か嫌なものを感じざるを得なかった。


「閣下、周辺に敵影はありません。後は本城に引き籠る少数の敵兵だけかと」

「ふむ……」


 残るは敵の司令部に立て籠もる敵のみ。それを制圧することは大して難しくはないだろう。


「……進むしかあるまいか。全軍、街道に守備隊を配置しつつ、司令部を叩け」


 ルシタニア軍は慎重に守りを固めつつ進軍する。だが、その時だった。最前線の戦車隊が一斉に爆発を起こしたのだ。


「んなっ……何が起こっているのだ……?」

「クソッ、弩砲か! やはり地下に隠していたか!」


 ヴェステンラント軍は無策ではなかった。彼らはルシタニアの精鋭部隊を市内に引き込み、それを囲い込むように配置された弩砲で一気に叩いたのである。


「どこに逃げようが弩砲に狙われている、という訳か……」

「こうなれば、一刻も早くエデタニアを落とすしかありません。弩砲の位置は歩兵で探せば分かります。戦車隊は全速力で敵の司令部へと進攻しましょう」

「……分かった。そうする他にないだろうな」


 時間を掛ければ次の一斉射で更に戦車が吹き飛ばされる。その前に歩兵で弩砲を制圧しつつ、戦車隊で司令部を叩くのだ。


 弩砲は家屋を貫通して攻撃する為、その位置を逆に探るのは容易だ歩兵隊が。戦車が全速力で走れば弩砲でもそれを追うのは困難であり、数両が大破したが、敵司令部に乗り込むことに成功した。弩砲は浸透した歩兵が制圧した。


「閣下、城内を完全に制圧しました」

「よくやった……」


 目標であったエデタニアを奪還することには成功した。だがアルタシャタ将軍は全く嬉しそうではなかった。


「我々はここの奪い返すだけではダメなのだ。近くここを奪還しに来るであろうヴェステンラント軍から、ここを守り切らねばならん」

「機甲部隊は壊滅してしまいましたね……」


 ここを奪い返されては、ルシタニア軍はただ無意味に兵力と機甲部隊をすり減らしただけになってしまう。何としてもエデタニアを守り切らねばならないが、その為の機甲部隊は六割以上の車両を失ってしまった。


「シグルズ、どう思う? この損耗した機甲部隊と10万の兵力で、エデタニアを守り抜けるか?」


 マフティア守備隊の兵力は20万近くあったが、簡単に落とされてしまった。それにエデタニアの防御力はそう高くはない。機甲部隊があるとは言え、守り切るのは厳しいかもしれない。


「そうですね……正直言って、厳しいかもしれません」

「やはりそうか」


 兵士達相手にはそんなことは言わないが、アルタシャタ将軍相手なら素直な感想を言う。


「とは言え、最善は尽くします。少数の機甲部隊だけで何とかする方法を」


 シグルズにはまだ一筋の希望が見えていた。

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