大反攻作戦

 ACU2313 2/12 ルシタニア王国 エデタニア北西


 国王は最後の希望に賭け、ヴェステンラント軍に対する反抗作戦を開始した。アルタシャタ将軍率いる50両ばかりの戦車、100両ばかりの装甲車、10万の歩兵による精鋭部隊が今ここに集結した。王国各地に守備隊は散らばっており、それらを集めるだけでも一苦労であった。


「諸君、この作戦は、ルシタニア王国の運命を決める戦いである! 我々が勝てばルシタニアは生き、我々が負ければルシタニアは死ぬ! 私はこの精鋭部隊が必ずや、ヴェステンラント軍の防衛線を完全に突破し、王国に勝利をもたらすと信じている。怯むな! 敵を撃滅するまでは、一歩も退くことは許されない!!」

「「おう!!!」」


 機甲部隊を先頭に、ルシタニアの最大戦力は海岸線に向けて進軍を開始した。目標はヴェステンラント軍の前線基地と化している海沿いの都市エデタニア。これを奪還し、確実に確保することが出来れば、それより南にいるヴェステンラント軍の補給線を完全に断絶することが出来るだろう。


 そうでなければ、ルシタニア軍は反撃の為の最後の戦力すら失い、緩慢な死を待つことしか出来なくなる。ルシタニア軍の命運はアルタシャタ将軍の双肩に懸かっているのだ。


 ○


 同日。エデタニア郊外、ヴェステンラント軍防衛線にて。


「な、何だこの音は……」


 不気味に響く戦車の駆動音。赤の国の兵士の多くは未だにゲルマニアの戦闘車両と遭遇したことがなく、その音が何なのか判断が付かなかった。地球の戦車に比べれば遥かに制音性に劣っているとなる訳だが、逆に敵を威嚇する効果もある。


 エデタニア近郊の砦を守る兵士達は、その音に怯えることしか出来なかった。


 そして、巧妙に彼らの視界から隠れながら接近した軍団が、ついに姿を現した。


「な、何だ、あの鉄の塊は……」

「あ、あれは戦車だ! 間違いない!」

「あ、あれが……」


 始めて見る戦車だが、その特異な姿は、伝聞だけでも十分にそれだと判別出来た。


「――はっ、ぼうっとしている暇はないぞ! 全軍、撃ち方始め! あれを蹴散らせ!」

「は、はいっ!」


 ヴェステンラントの魔導兵は櫓や塹壕から魔導弩を用いて無数の鉄の矢を撃ちかけた。だがそれらはことごとく戦車の装甲に阻まれ、全く効果がない。


「き、効いていません!」

「やはりか……こうなれば、白兵戦で勝負を決するしかない。騎兵隊を――っ!?」


 背後で爆発が起こった。


「う、馬が吹き飛ばされました!」

「な、何てことだ……。こうなれば、我々が突撃するしかない、か」

「ほ、本当に、やりますか?」

「我々はエデタニアに接近する敵を撃破しなければならないのだ。……エデタニアに状況は知らせてあるな?」

「はい。無論です」

「ならば、玉砕して敵に可能な限り損害を与える。突っ込むぞ! 我に続け!」


 騎兵を失ったヴェステンラント守備隊は、戦車隊へ自らの足で突撃を開始した。


 ○


「将軍、敵が突っ込んできています!」

「落ち着け。同軸機銃と榴弾砲で撃退せよ」

「はっ!」


 戦車はその場で止まると、榴弾で敵兵を吹き飛ばしつつ、運よく爆発から逃れた兵士を機銃で薙ぎ払う。騎兵ほどの速度もなく、数も少数のヴェステンラント兵の突撃など、歩兵隊の援護を受けるまでもない。


「これでいいんだな、シグルズ君」

「ええ、完璧な対応です、閣下」


 ルシタニアから作戦を知らされ、ゲルマニアからも援軍が送られていた。まあシグルズ一人だけではあるが。とは言え、アルタシャタ将軍は恐らくこの地上で最も戦車戦に秀でた彼の助力を大いに頼りにしていた。


「閣下、敵が敗走し始めました」

「おお、よくやった」


 指揮官を失い、一人として戦車に到達することも出来ずに殲滅され、ヴェステンラント兵はついに統制を失って逃げ出し始めた。


「追撃しましょう、閣下。ヴェステンラントの戦力を少しでも削り、なおかつ機甲部隊の恐ろしさを教えてやるのです」


 シグルズもあまり無用な殺生は好まないが、必要とあればいくらでも殺す合理性も持っている。それはアルタシャタ将軍も同じだった。


「……そうだな。全車、敵軍を追撃せよ」

「はっ!」


 戦車の足は、騎馬隊が全速力で走っている時よりも速い。逃げ惑う兵士に追いつくのは簡単なことであった。そして戦車隊は彼らの背中に榴弾を機関銃弾を撃ち込み、たちまち殲滅した。


 その後、歩兵隊が残存するヴェステンラント兵を制圧し、ほんの20分程度の戦闘で砦が一つ陥落した。


「よし……。最初の一歩は成功と言ったところだな」

「とは言え、僕達の目的はエデタニアです。この程度で喜んではいられません」

「そうだな。敵は備えを今まさに固めていることだろう。その前に一気にエデタニアに仕掛ける。それしか我々に勝機はない」

「電撃戦と行きましょう」


 何が起こっているかを敵が把握する前に、その喉元に刃を突き付ける電撃戦。機甲部隊があるとは言え、ヴェステンラント軍が守る拠点に攻め込むとなれば、とにかく敵を撹乱することが求められる。


 ほんの少数の部隊だけを残し、ルシタニア軍打撃部隊はエデタニアを目指して進軍する。

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