邁生群嶋海戦
ACU2312 12/16 邁生群嶋内海
大友勢からの奇襲をシャルロットの魔法で撃破し、なおも艦隊は北上を続ける。あれから2日ほど経ったが、敵の姿は見えない。
「――ははは、奴ら怖気付いたのかもね」
「それはどうでしょうか。大友家はあんなものではない数の軍船を擁しております。くれぐれもお気を付け下さい」
甘粕蘇祿太守は丁寧に警告する。その態度はとても裏切っているようには見えない。
「そうね。でもシャルロットを見せられたら、誰でも裸足で逃げ出すんじゃないかしら」
「姉様……」
「大八洲の武士はそんな軟弱ではありませんよ」
「どうかしら」
「大友家と言えば、天下に名を馳せる武士が一人おります。立花肥前守義茂という者です」
大友家に代々使える武家である立花家の若き当主らしい。そして大八洲の武士の中でも取り立てて優れた剣の腕を持っているという。
「そいつ、伊達陸奥守より強いのかしら?」
その時、噂の青の魔女シャルロットが話を聞き付けてやって来た。
「伊達殿ですか。そうですね……恐らくは伊達殿と互角、或いは上回る程度かと」
「ふふ、それは楽しみね。是非とも殺したいわ」
「くれぐれも油断なきよう」
「私は首を落とされても死なないのよ? どうやったら負けると言うのかしら?」
「それは、私のような凡将には分かりません」
シャルロットは昂っていた。ここ数ヶ月、殺してきたのは雑魚ばかり。たまには張り合いのある人間を殺したいのだ。
「とは言え、そんなのがいるのは少し厄介ね」
「どうして?」
「あなたが拘束されるじゃない。その間に艦隊が燃やされるわ」
ヴェステンラント軍の問題は、大八洲勢に対する有効な戦術がシャルロットくらいしかないことである。そのシャルロットと同格の相手がいた場合、シャルロットは動けなくなり艦隊はやられるがままになるだろう。
「ああ、確かに」
「あなたなしでも何とかする方法を考えなくてはね」
「私にはそういうのは無理。ドロシアに任せるわ」
「ええ。そのつもりよ」
そうして更に2日後。ついに決戦が勃発する。
〇
「ドロシア様、北方に敵船団を確認しました! 数は40ほど! いずれも小型船です!」
「へー。大したことないわね。じゃあとっとと叩き潰しに――」
「ドロシア様、南からも敵が! 50隻ほどの小型船です!」
「西からも敵が!」
「東からも敵が来ています!」
「なっ……」
四方八方から大友の艦隊が出現する。ヴェステンラント艦隊はこの狭い内海で敵に完全に包囲されてしまったのだ。
「こうなったらシャルロットの手にも余るか……」
流石のシャルロットでも一人で二百隻を超える軍船を相手取ることは出来ないだろう。となると、やはり真面目に戦うしかないらしい。
「しっかし、イズーナが無用の長物なのはムカつくわね……」
このイズーナは間違いなく世界最強の魔導戦闘艦であるが、その戦闘能力は大型艦との先頭を考えて設計されている。よってこのような小型船相手にはほとんど攻撃手段がないのである。
まあ焙烙玉程度には全く揺るがない訳だが。
「ど、ドロシア、どうしましょう……」
「昔ながらのやり方でやるしかないわ。全軍、移乗攻撃の用意をせよ!」
弩砲で沈めるのは非現実的だ。であれば、敵船に乗り移ってその乗員を殲滅するしかない。ヴェステンラント軍は二度も同じ手にかかるほど愚かではない。
「まあ、これ三度目なんだけど」
〇
大八洲の軍船は先日の攻撃と同じくヴェステンラント艦隊の隙間に侵入し、焙烙玉を四方八方に投げ飛ばす。
対してヴェステンラント軍はコホルス級の魔女で魔導兵を運び敵船に投下するという荒業で対抗し始めた。
「て、敵!?」
「俺達を舐めるなよ!」
投下されてきた魔導兵は剣を抜き、辺りの大八洲兵を見るや否や斬り掛かる。
「殿! 敵が乗り移って来ております!」
殿と呼ばれた若く精悍な男は、ドロシア達が噂していた立花肥前守義茂その人である。彼は自分の船に敵兵が乗り移ってきても一切動じることはなかった。
「狼狽えるな。大八洲の武士がヴェステンラントの弱兵に負ける訳があるまい」
「……はっ!」
「まあいい。私も出ようではないか」
「と、殿!?」
義茂は家臣達の制止を無視して船外に堂々と歩き出た。
「我こそは立花肥前守義茂! この首とって手柄にして見せよ!」
「お前が件の武将か! かかれっ!」
少し身分が高いような兵士が命じると、ヴェステンラント兵は目の前の敵を放り出して義茂に飛びかかってきた。
「一騎討ちをしようとも思わぬとは、臆病者共め」
義茂は腰に提げた二本の刀を抜いた。大八洲人でもそうそう見ない二刀流、しかも太刀を二本だ。魔導兵達は一瞬怯む。
「か、かかれっ! 敵は一人だ!」
義茂の左右から魔導兵が迫る。逃げ場はない。普通なら迎え撃つことの困難な状況だが、義茂は違う。
「この程度!」
「ぐああっ!」「うぐっ……」
義茂は二本の刀を振り下ろし、一瞬にして二人の敵兵を打ち倒した。魔導兵が持っていた刀は真っ二つになって海に落ちた。
このようにして、義茂はあっという間に乗り移ってきた敵兵を殲滅したのであった。
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