ヴェステンラントの侵攻
ACU2312 12/5 マジャパイト王国
ヴェステンラント軍は大八洲軍の去った東亜各地へ侵攻を再開。広大な占領地では有色人種が奴隷も同然の扱いを受けているが、彼らに合州国の支配に抗う力はなかった。
彼らは邁生群嶋(フィリピン)の手前まで到達した。邁生群嶋は大八洲の本土である。そして今、ついに大八洲本土への侵攻を開始しようとしていた。
「甘粕に送り付けた最後通告はどうなってる?」
軍船に揺られながら、黄公ドロシアは横柄な態度でラヴァル伯爵に尋ねた。邁生群嶋南部は上杉家の直轄領となっており、それを支配しているのが甘粕家だ。
「はい。甘粕は曉に付いています。我らに道を開け、同時に道案内もするとのことです」
「ふふ、物分かりのいい奴ね。これより我が軍は邁生群嶋に上陸する。向こうとの取次は任せたわよ」
「ははっ。お任せ下さい」
〇
翌日。ヴェステンラント軍は邁生群嶋に上陸した。港には甘粕側の軍勢が待機しており、甘粕蘇祿太守本人もいた。
「お初にお目にかかります、ドロシア殿下。私は上杉の代官としてこの邁生群嶋を治めております、甘粕蘇祿太守と申します」
「随分と若いのね。思ってたのと違うわ」
大八洲の武将はどいつもこいつもむさ苦しい男ばかりと思っていたが、存外そうでもないらしい。
「それを言うなら、殿下の方がお若いでしょう」
「まあね」
ヴェステンラントの指導者の平均年齢は25歳くらいだろう。力のある魔女が最高の権力を握るヴェステンラントでは当然のことではあるが。
「これより我が
「そう。じゃあよろしく頼むわ」
ドロシアは全軍を太覇とやらに向かわせることにした。
「ドロシア、信用していいんでしょうか……」
青公オリヴィアは不安そうに尋ねた。大八州人をそう簡単に信用してもよいものかと。
「別に私だって信用している訳じゃないわ。でも、裏切ったら滅ぼすだけよ。甘粕が持っている戦力なんて大したことないわ」
「それはそうですが……うーん……」
確かにこれが甘粕の罠だったとしても8万の大軍をどうにか出来るものではない。だが、論理的ではない不安がオリヴィアの中に渦巻いていた。
「或いは、私達を誘い出して殺そうとしているのかも」
「あなたの姉がいるでしょう。シャルロットがいれば何も問題ないんじゃない?」
「確かに、姉様ならまあ……」
「安心して。あなたを殺そうとする奴がいたら私が八つ裂きにしてあげるわ」
「え、ええ……ははは……」
兵士を移動させつつ、ドロシア、オリヴィア、そしてシャルロットは太覇城に招かれた。甘粕蘇祿太守は彼女らを可能な限り丁寧に迎え、和やかな面会の場を作った。
「皆様方、今度は我が城にお出でになったこと、感謝申し上げます」
「私も城に招いてくれて感謝しているわ。で、何の話をしに呼んだのかしら?」
「殿下は気がお早いようです。では本題に入りましょう。地図を」
甘粕蘇祿太守が小姓に指示すると、ドロシアと蘇祿太守の間に大きな地図が置かれた。無数の島々が記されたその地図は、この邁生群嶋の地図である。
「ここの地図、ですね……」
「はい。皆様方はここ、太覇におります」
甘粕蘇祿太守は最も南にある大きな島のかなり南の方を指さした。そこが南部で最大の主要都市、太覇であり、甘粕家による支配の中心地だ。
「そして、この線」
甘粕蘇祿太守は邁生群嶋を東西に横切る太い線を示した。
「これより南が我ら上杉の領地。これより北が大友の領地となっております。大友は知っての通り曉様に従う気などなく、ヴェステンラントの皆様方にはこれを討伐して頂きたいと思っております」
「そうね。私達は上杉に逆らう者を討伐しに来たわ」
名目上、ヴェステンラントは曉の政権の同盟国であり、それに帰順せぬ者を討伐することが目的だ。決して大八州を侵略する意図などない。あくまで名目上は。
「皆様方には感謝してもしきれません。ですから皆様方にはこの地図をお渡ししようかと思った所存です」
「そうね。邁生群嶋の島々を私達は知らないもの」
「その一助となればと」
世界地図なんてものは存在しない。敵国の地勢はこうして情報を得る他に知る手段はないのだ。だから甘粕蘇祿太守の協力はドロシアとしてはかなりありがたいものであった。
「当然ながら、船を用いて大友領に攻め入ることとなりましょう。ですので、流れの穏やかな海を選んでおきました」
「ほう。ありがたいわね」
甘粕蘇祿太守はもう一枚の地図を手渡す。それには海上の情報が所狭しと書かれ、比較的安全な水路が何ヶ所か特記されていた。
「へえ。じゃあこの
邁生群嶋のかなり北の方にある舞新羅は大友家の本拠地である。これを叩けば群嶋はすぐに落とせるだろう。
「流石は殿下。その道を選ばれるかと思っておりました」
「あっそう。で、道案内は当然してくれるのよね?」
万一にも裏切られない為の布石だ。
「無論です。我らがこの海を案内致しましょう」
「本当に大丈夫なのでしょうか……」
オリヴィアは不穏な空気を感じざるを得なかった。
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