絨毯爆撃の建議
「やはり、こういうのはカルテンブルンナー全国指導者とシグルズに頼った方がよさそうだな」
ヒンケル総統は言った。
民衆を統制することにかけてはゲルマニアで第一人者であるカルテンブルンナー全国指導者と、爆撃という概念を提唱したシグルズ。空襲について議論するにあたって必要不可欠な人材が欠けている。
という訳で、この議題については一旦置いておくこととし、また後日に引き延ばされることとなった。
○
1週間後。東部戦線からシグルズを、レギーナ王国からカルテンブルンナー全国指導者を呼び戻し、再び会議が行われた。二人にはここまでの経緯が軽く説明され、早速意見が求められた。
「ではまず、カルテンブルンナー全国指導者、どう考える?」
「どう考えると仰られましても大雑把に過ぎると思いますが――それではダキア人が屈服しない理由について私の所見を述べましょう」
「ああ、頼む」
「では、我々が愚民共を取り締まる際の原則からお話ししましょう」
「ふむ……続けてくれ」
カルテンブルンナー全国指導者にきちんとした意図があるのは、総統も分かっている。
「我々の原則は、逆らう者は一人残らず殺し尽くすこと、ただそれだけです。逆、つまり従順な者には平穏を保証することもまた然りです」
「それで?」
「ではこの問題について考えます。ゲルマニアに逆らっているのは誰でしょう?」
「それは……ダキア人ということになるな」
「はい。もっと言えばダキア人の全てです。故に、この問題を解決する手段は、ダキア人を根絶やしにすることとなります」
「いや、まあそれはそうだろうが……」
確かにダキア人を皆殺しにすればこの戦争は終わるだろうが、それは総統の望むところではない。
「ええ。とても現実的ではありません。ですので、代案として考えられるのは、ダキア人全員に死ぬような思いをさせることです」
「ほう……しかしそれは、今でもやっていることではないか?」
ダキアの主要都市には無差別爆撃を仕掛けている。ダキアの人口の半分以上がいつ死んでもおかしくない状態に置かれているのだ。
「理論上は、確かにそうです。しかしいつも申し上げている通り、人は感情で動くものです」
「感情?」
「はい。つまりは、自分がいつ死んでもおかしくないと恐怖させることが必要です」
「それは……どうせよと?」
ヒンケル総統にはいまいちカルテンブルンナー全国指導者の言いたいことが掴めなかった。それこそ今の時点で達成出来ているのではなかろうかと。
「では簡単に申し上げましょう。現状では、ダキア人を殺していなさ過ぎるのです」
「ほ、ほう?」
「ローゼンベルク司令官閣下、我が軍が空襲で殺害したダキア人はどれほどですか?」
「ん? おおよそだが、2千人といったところだな」
「ありがとうございます。しかし、それが問題なのです。この2ヶ月でたったの2千人しか殺していないとなれば、ダキア人が死ぬ確率は極めて低い。つまり大半の市民は空襲も他人事だと思っていることでしょう」
「そうだろうか……」
「そうと考えるのが妥当かと」
まさか自分か運悪く空襲を受けて死ぬことはあるまいと、ダキア市民の多くが考えている。カルテンブルンナー全国指導者の予想はこうだ。
ヒンケル総統はなおも懐疑的であったが、それ以上に妥当な説明もなく、納得することにした。
「では、それを事実と仮定した上で、ゲルマニア軍はどうすればいい?」
「簡単なことです。ダキア人の大半に、いつ死んでもおかしくないと恐怖を植え付けるのです」
「……つまり?」
「つまりは、これよりの空襲は、殺戮を目的としたものになるべきということです」
「殺戮、か……」
これまでの爆撃は、物的にも人的にも被害を最小限に抑えるように行ってきた。空襲という能力を示せればを十分だと考えられていたからである。
だがそれでは不十分だ。実際に大量虐殺を行わなければ、戦争に沸き立つダキア人の意志を削ぐことなど出来ない。
「どの道、この戦争は数十万の犠牲がなければ終息しないのです。そしてその犠牲になるのがゲルマニア人かダキア人か、我が総統ならば、答えは決まっておりましょう」
「それは無論、ダキア人だな」
「ええ。ですからこれは、ゲルマニア人を守る為の仕方がない犠牲なのです」
「……よかろう。カルテンブルンナー全国指導者の意見はかなり妥当であると見える」
「ありがとうございます」
無用な流血は総統の好むところではないが、ゲルマニア人を守る為の流血は有用だ。
カルテンブルンナー全国指導者の主張は理解出来た。
「では次、空襲の発案者であるシグルズの意見はどうだ?」
「はい。まずはカルテンブルンナー全国指導者の方法に関してですが……僕としてはあまり賛成出来ません」
「そうなのか。何故だ?」
「軍人を殺すのならまだしも、一般市民を虐殺するというのは……」
実際のところ、あまり論理的な理由ではない。前世の祖国大日本帝国アメリカに受けた大量虐殺、それが頭に浮かんでしまうのだ。
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