総括
ACU2312 7/2 黑尊國 黑鷺城
戦闘は完全に終結した。晴虎率いる本陣は黑鷺城へと移り、諸大名も同様に城内に入った。そして今後を決める軍議を開こうとしていた時、晴虎に衝撃的な報せが入った。
「晴虎様、一大事にございます!」
「どうしたのだ、朔」
「北條常陸守様、討ち死になされたとの由にございます!」
「何……? 真であろうな?」
「はい。間違いは万に一つもございません」
「で、あるか……」
大八洲第三の大名にして大八洲でも随一の武将が死んだ。それは間違いなく大八洲全体に波紋を広げるだろう。
「しかし、何故に北條が討ち死にした時、北條の者は我に申さなかったのだ?」
「はい。あまりに混沌とした戦場でありましたし、北條の家臣達も多くが討ち死にしておりますから、今の今まで確かならざることだったと、申しております」
「で、あるか。よかろう。このことは無闇に広めるでないぞ」
「無論、承知しております」
まだ公表する訳にはいかない。混乱を最小限に抑えられるようになるまでは公には隠すこととする。
ではまず誰に言うべきかと言えば、ここに揃う大大名達であろう。
「北條殿がおらぬようですが、これはいかに?」
武田樂浪守は晴虎に尋ねた。北條常陸守以外の大名は皆、ここに揃っている。
「……北條常陸守晴氏殿は、先の戦いで討ち死にした」
「……何と?」
「討ち死にしたと申しておる。自ら敵陣に突っ込み、見事な最期であったと聞く」
「左様でしたか。まさか北條殿が……」
歴戦の武田樂浪守も動じている様子。まさか関八州六百万石の大名が戦場に散ることになろうとは、信晴とて思わなかった。
「これは我が軍配が拙かったが故のこと。北條の諸将には詫びねばならぬ」
「それは……」
誰も非難も賞賛もしなかった。
「されど、我らには死者を弔っている猶予はない。この戦でどれだけの将兵が失われたか、各々申せ」
石高の高い大名から順々に報告していくこととなった。
「それでは儂から。武田は二千の兵を失い申した。また名のある部将に至っては、二百ほど、失っております」
「で、あるか……あの武田がそれほどとは……」
先行きが暗くなる。諸大名による報告が続き、程度の差はあれ全ての大名が大損害を被っていた。
「朔、合わせればいくらになる?」
「はっ。全ての大名家を合わせまして、おおよそ一万三千の兵を失ったこととなります。また名だたる部将は六百ばかりが討ち死にしたかと」
「で、あるか……」
多くの者が肌感覚で分かってはいたが、改めて聞くと極めて甚大な損害である。実に全兵力の四分の一が死んだことになる。
絶対数ではヴェステンラント軍の死者の方が多いが、割合では大八洲の方が多い。それも全滅の一歩手前だ。
「これで、大きく軍を動かすことは叶わなくなりましたな」
伊達陸奥守晴政は言った。
「で、あるな。これだけ将兵を失えば、兵を動かすことは叶うまい」
ヴェステンラント軍と同様、大八洲軍が受けた損害はその兵の損耗だけではすまなった。多くの部将が失われたことにより、指揮系統に致命的な損傷を負ったのだ。
「我らから仕掛けることは出来ないでしょう。ですが、それはヴェステンラントとて同じ筈。敵が動き始める前に、我らが体勢を整えることが肝要でしょう」
晴政は言う。
「うむ。しかし、いかにして兵を立て直す?」
「日出嶋に押さえの兵だけを残し、各々の軍勢を一度国許に帰し、体勢を整えた後に日出嶋に戻せばよいかと」
「なるほど。よき策であるな」
大名の兵を本国へ帰し、本国に残してきた将兵を前線に連れてくる。本当なら大名がここにいるままで本国から兵を呼び寄せられればいいのだが、そうはいかないのが大八洲の不合理な仕組みだ。
大名が自ら率いていかなければ兵は動かない。それに大損害を負った部隊を再編し休めるのにも、一旦帰国するのはいいだろう。この地はあまりに熱い。
「皆皆、異論はないか?」
晴政の意見に特に反論はなかった。まあ特に奇をてらったこともない普通の提案だからだろう。
「晴虎様、付け加えたきことがあります」
「何だ、武田殿?」
「どうせなら、マジャパイトにある兵を日出嶋に呼び寄せるもいいでしょう。今なれば日出嶋まではお味方のもの。兵を動かすくらいなら出来るものも多いでしょう」
「で、あるな。それも時を同じくして進めるとしよう」
日出嶋までの経路は完全に大八洲勢の占領下にある。安全な道を通って兵を送るくらいなら出来るという大名もいるだろう。まあやってみないと分からないが。
「――しからば、我はマジャパイトに赴くとしよう。我が自ら行かねば、大名共も動くまい」
「それはよきお考えかと。どの道暫くは戦うこともありますまい」
戦況が落ち着いたことで、晴虎が前線を離れる余裕も出来た。ここは晴虎が一度マジャパイトに下がり、大名達の指揮を執るのがいいだろう。
「後は誰がここに残り誰が国に帰るかを決めねばなりませんな」
「我は特にこだわりはない。適当に分ければよかろう」
「であれば、儂は残りましょう。武田の損害は、他の大名と比べればそう大きなものではありません」
「うむ。武田殿がおれば、日出嶋の守りも万全であろう」
かくして、武田樂浪守を筆頭とする居残り組を除いた大名が一度帰国することとなった。
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