先入観
私が死ぬと、世界は終わる。これは傲慢で、自分勝手な発言かもしれないけど、事実であることだ。明日、わたしが死ねば、わたしが目に映す世界は二度と映らなくなる。映画館でもう何も映らないスクリーンを眺めて君は、まだ映画は続いていると馬鹿げたことを言えるだろうか?
「だからこそ、私は何度でも言う。私の死とともに世界が終わるのだから、明日は紛れもない世界の終わりなのだ。きゃっ。これ言ってみたかったの!!」
終わりはいつだって突然やってくるもので、誰も終わりには気が付かないものだ。ただ、自分自身だけは本当のすべての終わる瞬間を知っている。
「さて、何をしよ〜。」
世界の終わりの日に何をするか。そんな質問は話題のなくなった友達の間でかわされる他愛もない雑談の一つだったりする。ただ実際に終わりを体験しようと思うと、何も思いつかない。したいこと、やってみたかったこと、ノートの書き出してみた。おしゃれなお店でパフェを頼む。いつもはお母さんと一緒に行くから、一人では行ったことがない。ほしかった可愛いピンクのワンピースを買う。貯金をすべて使って買ってみたかった。だが、どれもパッとせず、結局はしなくても良いものとして鉛筆に消される。
「まぁ、もししたいことがあるなら、自分自身で明日世界を終わらせる必要なんて最初からないんだけどね。」
そう思いながら、気がつくとしたいこともないままに私は花屋の前まで歩いてきていた。そこで一つ思いつく。
「そうだ。目をつむって花の香をかぎながら一本だけ花を盗ろう。その花言葉で世界を終わらせるかどうか決めよ!」
ちょっとした遊び心であったが、今になってこんな考えが浮かぶということは、自分は世界を終わらせたくはないのかもしれないと思いつつ、なるべく床を見つめながら店内に入る。
「いらっしゃいませ。」
店内から男の人の声がするが、勿論顔は見えない。そのまま、私は下を向いた状態で手を空に晒す。フラフラと歩きながら、周りを確かめながら、花の中のゆっくりと歩るく。
「きゃっ。」
躓いて転びそうになったが、前に机でもあったのか、机に手をつくことで倒れずに済んだ。一本でいい、どれか花を盗ってしまえばいい。手に吸い込まれるように、茎が触れて、私はそれを掴み取る。
「とった。」
目を開けると、私はひまわりを掴んでいた。というより、掴まされていた。丁寧に茎を切って、手入れされた一輪のひまわりだった。
「え、ちょっと…。」
「こちらを、どうぞ。」
私は優しい笑顔の男の人にひまわりを手渡されていた。
「あ、ありがとう、ございます?」
手渡されたひまわりを手に持ちながら、私はそのまま店をあとにする。掴むはずが、掴まされて、突拍子もないハプニングでひまわりの花言葉が、どうしても思い出せなかった。
「でも…」
もし私が世界を終わらせて、映画館のスクリーンに何も映らなかったとしても、あの人が、いつまでも席に座ってちゃ不憫だな。そう思うと、不思議と体に熱が走って、太陽の日差しがやけに眩しく、暑く感じられた。世界は一つ、救われた。
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