第12話
田舎の子供の行動力とやらはズバ抜けていて、僕達四人はあっという間にスーパー田中にたどり着いた。
ちょうどその頃流行っていたアニメのキャラをイメージしていたのか、僕以外の三人は子供だけの探偵団気取りで意気揚々と店内に入る。残念ながらこの中に肝心な切れ者がいないということは口にはしなかったけど。
店内は相変わらず閑散としており、閑古鳥なんか必要ないくらい客がいないのはすぐにわかってしまう。
レジカウンターの奥の一段上がったスペースが居間になってるようで、いつも田中のお婆ちゃんは
用がある人は呼びに行くのがこの村の常識でもある。売り物のはずの塗れ
今日も変わらずにテレビを眺めているようで、真琴が何度もそうしてるようにお婆ちゃんを呼びにレジカウンターを越える。
「おばあちゃん!ちょっと話聞きたいんだけと!」
「うん?なんだい真琴ちゃんじゃないか。お買い物かい」
「今日は違うよ。あのね、おばあちゃんのところに刑事さんがやって来たって本当?」
ああ……そのことかい。と、恐らく何度も村人に尋ねられたのだろう。辟易しているのが顔に出ていた。
「刑事さんなら午前中に来たよ。でもそれがどうかしたんだい?」
「その刑事さんって、おばあちゃんに何を聴きに来たの?」
何度も説明したからだろうか、返答はすらすらと出てくる。
「それがねぇ。一枚の写真を見せられてから、その写真に写っている人がこの村にいないかって聞かれたんだよ。もちろんこんな小さな村に知らない人間なんて来たらすぐにわかるよって答えてやったがね」
「その写真の人ってどんな人だったの?」
「四、五十代くらいの男性だったかねぇ……なんだい探偵ごっこでもしてるのかい?」
「田中のばあちゃん。刑事はもっと詳しく話してなかったんか?」
「えーと……なんだったかね。あ、そうそう。その写真の男性は家族から捜索願が出されてるって言ってたよ」
捜索願が出されてるってことは行方不明ってことなんだろうけど、だとしたらこんなド田舎に訪れることなんてあるのだろうか。
――僕だったら誰にも見つからない都会の中で紛れようとするけどなぁ。
小学生なりに頭を働かせてみても得た情報から答えが導き出されるわけもなく、噂以上の情報は何も聞き出せないと判断した少年探偵団は、目的地もないまま雪が残る畦道をぶらついていた。
すると、「あ!」と、崇が急に叫んだ。
僕も真琴も流星もビクッと肩を震わせて一斉に崇を睨むと、崇は顔を青白くさせていた。
「どうしたのよ。いきなり叫んじゃって」
「急に驚かせるなよ!崇の癖に」
特に普段からすかしてる流星は驚かされたことを恥ずかしがってるのか、少々八つ当たり気味だった。
「……学校に宿題置いてきちゃった……」
その瞬間、その場にいた全員の顔がお悔やみ申し上げるとでもいうように暗い顔になっていたと思う。
かくいう僕も崇には同情心が芽生えた。
小学生が一番嫌いな宿題はもちろん椿村の小さな小学校にだって存在して、朋子先生は人一倍、いや、人十倍は宿題を忘れてくると容赦なく怒ってくるのだ。
幸い僕は宿題を忘れずに提出するのでその雷からは逃れられているのだが、真琴、崇、流星の三人は既にその怒りの制裁を何度も受けている。
普段優しい人こそ怒ったときは怖いもので、朋子先生は怒髪天を衝く、という表現がぴったりな姿に変貌する。崇がこの世の終わりを迎えたような顔になるのも頷けた。
「なら、今から学校に取りに行けばええやん」
「そうね。取りに行きましょ」
日も傾き、山間の椿村は一足早く夕闇が訪れていた。
流星の提案で次の行き先は小学校に決まったが、
もともと数えるほどしか生徒がいない校舎は放課後ともなると
廊下の軋む音がいつもより大きく反響し、外からカラスの鳴き声が聴こえる。その時になって少しだけ三人についてきたことを後悔した。
教室に入ってお目当ての宿題のノートを手にし、さっさと校舎を出ようと足早に僕達は校舎から出ようとしていた。
すると、職員室の前あたりに差し掛かったときに一枚のポストカードのような物が落ちているのに気がついた。
それを拾うと、どうやら写真の裏側が表になっていたらしく、顔をあげると前を歩く三人は写真の存在にも気が付いてないようで誰も振り向くことはなかった。
なんの写真だろうと気になって裏返すと、何処かの遊園地で撮ったものだろうか――被写体は二十代にも三十代にも見える男とその隣の女の子で、察するに男は女の子の父親であり、隣の女の子は父親の娘だと推察した。
特に手を繋いで満面の笑みでピースサインをしている女の子が印象的な一枚で、まだ小学一年生程度の幼さを感じさせる女の子だった。
――いったい誰だろう。結構昔の写真っぽいけど。
カラー写真だけど肝心なカラー部分が若干色褪せていたので、写真自体が古そうな代物には見える。
ただ、写っている女の子の面影はどこかで見たことがあるような顔立ちをしていた。
誰だったかなぁと頭を回転させていると、やっと後をついてこない僕に気がついた三人に声をかけられ、我に返った。
やっぱり人気のない校舎は怖く、何処かから視線を感じた僕は怖くなって早々にその場を後にした。
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