第三十五揺 ロアナ・マール


 今から、十五年ほど前のことだ。

 西暦としては、2070年。悪夢ナイトメア症候群シンドロームによって、世界の秩序が完全には取り戻されていなかった時代の話。


 大国であるアメリカ合衆国には、かつて国家防衛の中枢として設立された軍事建造物を継ぎ、ある防衛機構が建てられていた。


 アメリカ国防総省本庁舎『五角塔ペンタゴン』―――改め、新庁舎『六角塔ヘキサゴン』。

 アメリカ合衆国の防衛をつかさどり、国家機密の情報が集約する超重要施設だ。

 サイバーセキュリティは最新式で難攻不落を誇るとされ、世界中の名だたるハッカー達が侵入不可能と断定した最高の軍事機密管理施設。


 ……の、筈だったのだが。


 2070年2月28日。

 その不可侵性は、あっさりと突破されることになる。


 突如としてヘキサゴンを襲ったのは、新種のコンピューターウイルス。

 新種であるが故に既存のウイルスバスターでは対応しきれない。ヘキサゴンに在中する凄腕のホワイトハッカー達が総出でウイルスの駆除に携わった。


 しかし、今までの常識を覆すような『ある特性』を持ったウイルスの対応にヘキサゴンは追われ、結局は完全な駆除をすることができず、ウイルスを設計した何者かに軍事機密情報が盗まれてしまったのだ。


 結果だけ言えばサラリとしたものだが、ことの重大さは恐ろしいものである。

 世界の中心ともなっているアメリカ合衆国の最高機密が外部に流出すれば、それを悪用する者や合衆国との交渉手段、もとい脅迫に使う者も出てくるだろう。当時、急速に力を伸ばしていた『帝国』などはその最たる例であった。


 予測不能すぎる緊急事態に大統領は肝を冷やし、軍の上官達は自身の首が飛ぶであろうことを恐れ、ホワイトハウスの職員達は最悪を予感して失神したことだろう。

 無論、ヘキサゴンの情報が流出したことには箝口令が布かれた。世界の権威たるアメリカが個人製作のウイルスに機密情報を盗まれたなどと知られたら、国民からの国に対する信頼が失墜するのは目に見えていたからだ。


 そして、事件から3日が経った日。

 2070年3月3日。事態は急展開を迎えた。


 その日突発的に始まった、業界最大規模の動画投稿サイトでの一本の生配信。


 タイトルは、『ヘキサゴンのサイバーセキュリティー突破したったwww』。


 それを見てタイトル詐欺かお遊び企画か何かだろうとタカをくくるネット上の住民だったが、それは見掛け倒しの企画でも何でもなく。


 正真正銘、ヘキサゴンを突破したハッカーが開いた生配信だったのだ。


 それを裏付けるように、配信主は動画上で次々に軍事機密情報を出していく。それが本当にヘキサゴンから漏出した情報なのかの確信が持てない者も多くいたが、確信できる者も一定数いた。

 というのも、当事者と専門家達だ。


 当事者であるヘキサゴン職員にとっては、それが本当に機密情報であるかどうかが分かる。配信主が出していく情報は確かに秘匿されていた軍事技術であり、配信主の喋る内容からも、その人物が実際にハッキングをした人間であることが理解できたのだ。

 そして、それが理解できるのは当事者以外にもいた。専門知識を蓄えている有識者達にとっても、この配信がどれだけ凄いものであるかが分かる。


 とんでもない生配信が行われているとSNSで拡散された結果、生配信に野次馬が殺到し、多岐にわたる人がその配信を固唾を飲んで見守った。

 普通の学生、家事休み中の主婦、昼休み中のサラリーマンから、各国の重鎮、犯罪組織のトップ、世界中のハッカー達まで、様々な人間がその配信を見ることとなる。


 それは、軍事機密が暴かれているからだけではなく、他にも理由があった。


 その配信主は、どこからどう見てもだ。


 覆面はしているが、体格・声の高さ・言葉遣いで大体の年齢は分かるというもの。推定するならば、13歳程度。

 13歳の少女1人にヘキサゴンが敗北するという異常事態に、人々は震撼したのだ。


 こうして注目を集めた少女の生配信はみるみると視聴者数を伸ばしていき、驚異の同接100万人に達した。あまりの集中度にサーバーが落ちるのではないか、という声もあったほどだ。

 100万人到達を見届けると、少女は二ヤリと笑って行動に移る。


『随分と人が集まったじゃん。この数なら頃合いだ』


 そう少女は言うと、傍らから一つのSDカードを取り出した。

 曰く、そこには少女が厳選したとびっきりの機密情報が詰まっているらしい。その情報が他国に渡ればアメリカ合衆国の地位は滑落するであろう、特大級のトップシークレットだ。


 他国の上層部にとっては垂涎ものの一品であり、合衆国にとっては騒然ものの一品。

 少女はひらひらとSDカードを見せびらかしながら、画面の向こうにいる人間達を煽る。


『欲しいよな? バラまいてほしいよな? あぁ、分かるよ、分かる分かる』


 国の地位が一気にひっくり返るであろう予感に、他国の政府は歓喜し。

 国の威厳が今を以って失墜するであろう予感に、米国の政府は絶望し。



『だから、壊すよ』



 そして、指で挟んだSDカードをパキッとへし折った。


 唖然とする視聴者達。

 対して、快活に笑う1人の少女。


 その笑みを見て、画面の前の彼らは気づく。


 ―――今、自分達はこの年端もいかぬ少女に踊らされていたのだということに。



 国の運命を少女に握られ、あらゆる者が彼女を絶対的な決定者だと思い込んでいた。彼女に全てを委ね、彼女の一挙一動を凝視し、自国にとって有利になるように彼女の采配を願った。


 一時的ではあったが。

 国を、操られた。


 遅れて認識し始めた彼らに、少女は述べる。



『 こんな娘1人に弄ばれた各国首脳さん達――――ねぇねぇ、今どんな気持ち?』



 ブツンと、そんな音が聞こえた気がしたのは幻聴ではなかったはずだ。

 各国の上層部がその嘲笑にブチ切れたのは言うまでもないだろう。


『それじゃ、アタシに突破されないセキリュティ作り、頑張んなよ』


 そうして、生配信は唐突に終わりを迎えた。


 自身らのプライドをズタズタにされた各国は以降、サイバーセキリュティの強化に努め、ヘキサゴンも多大な労力を以って最高傑作のセキリュティを完成させたそうだ。


 事実として、これを境にヘキサゴンのセキリュティが突破されることはなかった。

 少女に愚弄された経験が、国を強くしたのだ。


 彼女の目的も正体も、15年経った今ですら解明されていない。

 しかし、一部の人間は彼女の目的について、こう語っている。

 彼女が生配信で暴露した情報は、機密であるとはいえ、合衆国にとって致命的なものではなかった。結果、彼女はアメリカの情報保持態勢をより堅固なものにしたわけだが。

 、という説を唱えたのだ。


 彼女は、合衆国や多くの国に警告したのではないだろうか。

 サイバーテクノロジーが急発達している今、そんなセキリュティでは生温いと。物理的防御だけでなく、もっと電子的な防御を強化しろと。彼女は、そう伝えたかったのではないか。


 真実は、当人以外誰も知らない。

 ただの愉快犯だという意見もあるし、本当は茶番だったのではないかとする意見もある。


 こうして世界に旋風を巻き起こした少女だが、その後の行方は知られていない。

 合衆国に捕縛されて牢屋に監禁されているとか、国のエージェントに危険視されて殺されたとか、今も飄々とどこかで生きているとか。


 しかし。事実は、はっきりとしている。


 彼女はその後、現叛乱軍隊長オズウェル・キルガーロンとを結び、彼の組織する反政府部隊の副隊長として責務を果たしていたのだ。



 その頭脳で世界中を手玉にとった、『至高の知能犯』。



 ロアナ・マール。

 それが、かつての少女の名だった。




 ***




「出て来いよぉ! ここに巣食ってんだろ?! 素直に出て来てくれたら、苦しまないよう殺してやっからよぉ!!」


 情報室に侵入してきた大女が馬鹿でかい声で中へ呼びかける。

 返答はない。しかし、叛乱軍のハッカーがここにいるのは分かっていた。


「……おいオメェら、行くぜ」


 返事が何もないことに苛立ったのか、小さな舌打ちをしてから入室するレオノール。

 情報室にはコンピューターから出る光以外の光源が無いため、非常に暗い。比較的近い所は普通に見通せるが、奥の方となると中々に見えづらく、ハッカーがどこに隠れているかが分からない。


「ちっせぇ真似を……仕方ねぇ、暗視スコープつけてろ」

「え、普通に電気を点ければいいんじゃ」

「ばっか、ハッキングされてるに決まってんだろ。スイッチ押したところで点きやしねぇぜ」


 それもそうか、と2人の傭兵達も暗視スコープ機能付きのゴーグルを頭からずらし、目の前に装着する。


 ハッカーからの応答は依然として無く、戦闘に繰り出してくる様子もない。


「とはいえ、侵入者に対して何の対策もしてないとは思えねぇ」


 レオノールは周囲に警戒をしながら、ゆっくりと歩き出す。体勢を低くし、脇に抱えた銃は体の向く方向へと突き出す。突入時の基本体勢だ。


(……全く音がしねぇぜ。なんだ、本当に反撃する気がねぇのか?)


 哨戒中の隊員を2人も殺されていながら、全く動ずる様子もないとは、些か非情過ぎる気もしたが―――



『おいアンタ達。なんて物騒なもん構えてんだい』


「……!!」



 響いた声に警戒を強めたレオノール。


 肉声ではない。

 おそらく、天井につけられたスピーカーから合成音声を流しているのだろう。


「ハッハァ! 物騒だぁ?! なんだお前、銃にビビってるガキかよ!?」

『馬鹿いうんじゃないよ。これは警告さ』


 スピーカーを通して喋るハッカーは、鷹揚とレオノール達に言い放つ。


『そんなもん撃って誤射でもしたら、?』


「――――……ちっ、そういうことかよ」


 ハッカーの言わんとすることを理解し、レオノールは銃を下げた。


 誤射が敗北に繋がる。それはつまり、誤射することがルール違反に繋がりかねないということ。

 なぜルール違反になり得るのか。それは、この場所が関係している。


「こんな精密機械だらけのとこで誤射でもしたら、銃弾がコンピューターを壊しかねない……ってか! ハッハァ! そりゃ『施設破壊の禁止』に接触するわけだ! めんどくせぇ!」


 ルール5。

『爆薬の使用を禁ずる。また、施設の過度の破壊を禁ずる』。


 本来なら銃弾一つが壁を撃ち抜いた程度では、過度の施設破壊にはならないであろう。

 だが、場所が場所。精密機械にとっては、傷一つでどんな不具合を生むか分からないのだから、誤射による機材の破損は最も恐るべき事態である。精密機械が近くにある場合、銃の扱いに関しては慎重になるべきであろう。


 そして、その精密機械が所狭しと横にも縦にも並べられているのが情報室だ。

 いわば、『直立する地雷原』。それがこの場所なのである。


「ハッハァ! だが、それはお前も同じだろぉ?! 銃が使えないってのに、どう対抗するつもりだ?!」





「……ギャアギャア煩いね」


 高らかに吠えるレオノールに、ロアナは不快そうに顔をしかめた。

 戦場に赴くとテンションが異常に上がる戦闘狂バトルジャンキーの類いだろうか。とはいえ、それに付き合う必要はない。


「けど、情報室襲撃とは……随分と思い切ったじゃないか」


 戦闘員―――しかも、明らかに幹部レベルの人間を派遣するとは、流石に読めなかった。

 そこまでの手数を割いて重要度の低い情報室を襲撃した理由。それを改めて考えてみるならば―――


「……アンタだね。コウ」


 傍らで眠る少年を見やるロアナ。


 敵の目的は、おそらくハッカーの命ではない。

 傭兵達が狙っているのは、煌の身柄だ。


「ルール6があるから人質にはできないけど……それでも、確保する理由はある」





「聞いてる感じ、随分と息子に入れ込んでるじゃねぇか、あのバケモンは」


 バナードが考えるに、石見凛の中での最優先事項は煌の保全だ。話ぶりを見るに、実利的な考えに基づいてはおらず、単純に感情的な理由だろう。

 息子を守りたい。その想いが、ありありと見てとれたのだ。


 一方、バナードは思考過程で石見凛が抱えるジレンマに気付いていた。


、か……。そいつはまた、殊勝なことで」


 先ほど凛が言っていた、叛乱軍の力量をこのゲームで試すとの発言。それを試したのは、叛乱軍に息子を守れるだけの力があるかを判断するため。

 息子を反政府組織に引き渡すのは『守りたい』という思想と一見逆行していそうな考え方だが、凛にも思うところはあるのだろう。凛自身が息子を守ってあげられない理由でもあるに違いない。

 しかし、注目すべきは『何故そWhy うしたかdone it』ではなかった。


「つまりだ。結果はどうあれ、『息子を敵に易々と奪われた』って事実があれば、お前らの立場は怪しくなるよなぁ?」


 煌を守りきれなかった事実。


 たとえ叛乱軍がこの戦いに勝利しても、その事実があるだけで叛乱軍の評価はガタ落ち。

 平等なゲームを称しているが、そこには当たり前のように凛の存在がバックにある。


 全ての裁定が彼女次第な時点で、バナードは勝敗の先へと目を向けていたのだ。


「あとは簡単だ。非戦闘員のガキを戦場に連れ回す訳がねぇ。一番安全な位置……つまり、最も襲撃を受けにくい場所に置かせるだろ? そこを不意打ちで突けばいい」


 バナードは、『クレイドル』の存在を知らない。

 ましてや、『アーキタイプ』など知る訳がない。


 煌が情報室にいたのは、あくまでアーキタイプに接続するため。その点において、バナードは予想を微かに外してはいたが。

 結果だけ見れば、その予想は大方おおかた正しかったのである。





「……ま、そんな感じだろうね。全く、キレる司令官が相手じゃ肩の休まる暇がない」


 絡め手によって叛乱軍を翻弄せんとするバナードの作戦に、ロアナは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「――――かたきはとる。助けてやれなくて悪い」


 既に斃されてしまったのであろう2人の部下を想い、ロアナは静かな怒りを発露する。

 しかし、喪に服している時間はない。


 なんせ、ロアナがやられれば後がないのだ。煌を相手側に渡してしまうことになる。


 3対1。

 身体能力の差。


 数的不利と肉体的不利を背負ってはいるが、



「はっ、不利がなんだい。上等だよ、覚悟しな」



 超人的頭脳が、いま作戦かいとうを弾き出す。






(……まだ攻めてこない。様子見かぁ……?)


 侵入から既に2分ほど経っているのに、一向に攻撃を仕掛けてこないハッカー。レオノールが対応の遅さに疑問を持つのは、なんら不思議なことではない。


「けどな……ここまで静かだと、逆に怪しいぜ?」


 警戒を最大レベルまで高めた傭兵三人。

 暫くの沈黙。

 それを打ち破ったのは、音ではない。

 暗い空間に申し訳程度に引かれた細い光。



 そして、機械の合間を縫うように放たれたが無音でレオノールに迫った。



「ったぁ! ハッハァ! 危ねぇなぁ、オイ!」


 頭を逸らして紙一重で光を回避したレオノール。

 赤い線はレオノールを通りすがった後も、機械に当たることなく空中に軌跡を残していった。

 回避はしたが、レオノールの鼻は少し焦げ付いている。その証拠に、鼻孔に肉の焦げた匂いが香った。

 それを見て、赤い線の正体を確信するレオノール。


「なるほどな、レーザーか!!」



 目の前を今も通り続ける光線の正体は、熱線レーザー



「銃は跳弾するが……レーザーは跳弾しねぇし、狙った場所だけを通せるぶん使いやすいもんなぁ! 理にかなってるぜ、ハッハァ!」


 銃弾と違い、レーザーは狙った軌道だけを通せる。機械が放つので、そこに寸分の狂いもなく、跳弾もしないので扱いやすい。

 熱線なので銃弾程ではなくとも殺傷力がそこそこにあり、発砲音もしない。レオノールの言う通り、レーザーは銃の使えない場では罠として最適だ。


「だけど、周囲を傷つけないような位置にセッティングするのも大変だろぉ? 罠の数には限りがある……違うか?」


 ロアナがここに潜伏を開始していた時間は少ない。

 故にハッキングの準備を進める中で同時に罠を仕掛けるのは負担が大きく、罠の数は限られていた。


 罠が少ないのは、奇襲によってロアナの隙を突けた成果だ。罠が大量に生産される前に、レオノールはなんとしてもロアナの下へと辿り着く必要がある。



「そうとくればスピード戦だぁ! アタイがお前を見つけて殺すのが先か、お前の罠がアタイ達を殺すのが先か! 勝負だぜ、叛乱軍リベリオン!」



 戦意を滾らせたレオノールは傍にいる二人の部下を横目で見て、にやりと笑う。


「突破するぞ!! 死にたくなかったらついてこいッ!!」

「「了解Yes, sirッッッ!!」」


 狂暴な面貌を矢面に、三人は闇を疾走した。

 同時、動きを感知して各所に仕込まれたレーザーが放たれ、暗中に赤の包囲網が布かれていく。


「ハッ! 来るとわかってりゃ、屁でもねぇんだよ!」


 しかし、レーザーがある中でも傭兵達の走るスピードは全く落ちない。

 足元のレーザーを腿上げの跳躍で飛び越え、上下二本のレーザーを飛び込むようにして潜り抜け、そのまま転がって頭上のレーザーをも軽々と躱した。

 軽快な身のこなしでレーザーなど歯牙にもかけず、何もないのと同じようなスピードで走り抜けていく。傍から見ればスタイルはパルクールに近いだろうか。


 レオノール・フェルナンデス。

 ブラッドハウンド傭兵団の幹部を務めるとだけあって、その実力は伊達ではなかったのだ。


 レオノールだけではない。他二人の傭兵とて、それは同じ。

 彼ら二人も百戦錬磨の傭兵、実力は並大抵の軍人とは比較にもならない。グリーンベレーにも匹敵する―――否、それすらも超える実力を保持しているのが、レオノールの両腕たる彼らだ。


 そして当たり前だが、彼らを従えるレオノールもまた優れた能力の持ち主である。

 2人の部下より前を走り、率先して罠を起動させ、その避け方の手本を目の前で披露する。レオノールが先鋒を務めることで、2人がレーザーを躱しやすいようにしているのだ。


(罠の数が増えた……! ハッハァ! こりゃ方向がドンピシャだな!)


 徐々に罠としての難易度が上がっていくのを感じ、レオノールは目標に接近していることを実感する。

 罠が多いということは、その先に行かせたくないということ。つまり、ハッカーがいる場所に近づいているのだろう。


「それに、分かってきたぜぇ……これだけ罠を仕掛けるってことはよぉ、!」


 レオノールは、どこかに隠れているであろうハッカーをそう嗤った。






「当たり前だろ……アタシをアンタらみたいな超人と一緒にすんじゃないよ……!」


 冷や汗を浮かべ、罠の設置を急ぐロアナ。その顔には焦燥が微かに滲んでいた。


 ロアナは、軍人としての能力が高いわけではない。

 身体能力でいえば、叛乱軍の兵士の平均を下回る。まして、今回のように選りすぐりの戦闘員を集めた場合には、ロアナの戦闘力は煌につぐ最下位だ。


「そんなアタシがタイマン張って、怪物みたいな身体能力の人間どもと渡り合えるわけないだろ。馬鹿か」


「けど」と、続けるロアナ。



「アタシの武器は力じゃない、知略だからね。元々、土俵が違うのさ」



 そして、ロアナはレオノール達を追い詰める為の更なる一手を打ち込んだ。





「さ、難易度UPだよ。付いてこれるもんなら付いてきな」





 ――――かくして、情報室での戦闘は加速していく。


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