第九揺 叛乱軍


「それじゃあ、今日の授業はここまでです。各自、レポートを今日9時までにクラスウェブに提出するように」


 数学の教師がそう言って教室を立ち去ると、クラス内が喧騒で満ちる。


「駅前の新しいカフェ行こうよー!」「「賛成!」」「今日は待ちに待ったユキシロちゃんのライブだぜー!」「あぁVRライブのやつ?」「ファン勢はむこうで集合なー」「部活だりー」「あ!ちょっと!今日掃除当番でしょ!」


 様々な声が飛び交う中、浮かない顔をした人間が一人。


「…今日も、来なかったな」


 更科紅葉は、ここ暫く顔すら見せない一人のクラスメイト、その席を見つめる。


「夜野君、どうしちゃったんだろ」


 紅葉の心配の対象である夜野煌は、4日間連続で欠席していた。

 いや、日曜日を挟んでいるので、正確には学校を休んだ日数は3日なのだが。


 屋上で共に昼ごはんを食べた2日間。

 紅葉はその時間を何よりも楽しみに毎日を過ごしていた。積年の想いが募った結果、年甲斐もなく、彼の前ではしゃいでしまった気もする。思い出すと少し恥ずかしくなった。


「けど…」


 彼は、突然学校に来なくなった。


 真賀里に理由を聞いたが、

「さぁねぇ、知ってても個人情報だから簡単には教えらんないし、そもそも知らないからなぁ」

 と言われてしまった。あの教師は、どこか捉え所がない。何を言っても、のらりくらりと躱されてしまう印象があるのだ。結局、煌が来ない理由を紅葉は知ることができなかった。


 クラスメイトも、太田を除いて、煌の欠席を特に気にしている様子もない。

 クラスの人間は煌が学校に来ていないという事に何も思っていないようだが、紅葉と太田はその異常性に気づいている。


 夜野煌は、決して学校を欠席しない。


 彼はどれだけ体調が悪くとも必ず学校に来るし、実際中学3年間は皆勤だったはずだ。


 そんな彼が、無断で学校を休む。

 周りに何も言わなかったのは、単純に彼が周りと交友をしていないからだろうが、まがりなりにも数日間、一緒にご飯を食べた人間にも何一つ伝えない、なんてことがあるだろうか。


 そこまで紅葉が信用されていなかったか、もしくは―――


「誰にも言えないほど、緊急の事態だったとか…?」


 流石に考えすぎだ、と首を横に振る紅葉。


 だとすれば、やはり自分は彼からの信頼を勝ち得ていなかったのか。

 ならば、きっと。


「脈なし、だったのかなぁ…」


 小さく寂しげに、ポツリと呟く。


 窓の外では、曇天の空が湿った風を吹かせていた。



 ***



 少し暗めの無機質な廊下に、足音が響く。


 夜野煌は、見知らぬ場所を一人で歩いていた。


「立ち入り可能区画は…ここまでか」


 施設のマップが映し出されている携帯デバイスを片手に、煌は溜息をつく。


「行動範囲狭くないか…?あと1週間もいれば本当にノイローゼになるぞ…」


 節電をしているらしい、明るさの足りない廊下で一人、煌は棒立ちになっていたが、こんなことをしていても仕方がないと、与えられた部屋へと戻る。


「何でこんなことに…」


 この言葉を、ここ1週間で何回口に出しただろう。


 最近は身の回りで理解の追いつかないことが大量に起こっている気がする。いや、実際起こっている。


 記憶は、3日前に遡る。





『リベリオン』。

 そう名乗った男は、外したガスマスクを部下に渡す。


「…私たちは一応、君の名前を知っている。けれど、どうか君から名前を言ってほしい。確認の意味も含めて、な」


 煌は逡巡する。


 Rebellion。

 確か、英語で「政府への反逆・抵抗」を示す意だったはず。


 脳内マイクロチップが政府により悪用されている可能性を見抜いた煌にとっては、政府は敵である。

 その政府に対抗する、そして煌をわざわざ助けに来るとなれば、おそらく彼らは『クレイドル』関係の人間だろう。


 先程、政府を名乗る男達に拉致されかけた煌だ。政府に対抗する組織、となれば信頼をすべきだが―――


(「味方」って言ってたけど…そうとは限らない)


 敵の敵は味方、なんて言葉があるが、それはこの場合では通用しない。


 彼らは叛乱軍。政府に対抗する、犯罪組織。


 そう、犯罪組織だ。正義の組織とは限らない。


 もし、


 政治組織を壊すことのみが目的で、人々を救うことが目的でないならば、彼らは可能性がある。


 果たして、人々を救うことを目的とした「正義の組織」か。

 それとも、人々を救うという建前の、政府を倒すためだけにある「犯罪組織」か。


 後者ならば、煌が協力する理由がない。

 彼らに与するとなればいずれにしろ犯罪だが、その行為に積極的に関われるかどうか、というのは重要な点だ。


 リベリオンがどういった組織なのか、現段階ではあまりにも情報不足で把握ができない。


 現状で彼に問うべき最重要の質問。それは―――


「…貴方は、何を目的に叛乱軍を?」


 シンプルだが、その分、本人の資質が出る質問だろう。


 問われた男はというと、少し驚いた顔をして、すぐに表情を真剣なものに戻した。


「子供達の未来を守るために」


 迷わず、即答。


(決まり、だな)


 ここで、「政府を倒すため」、「悪夢ナイトメア症候群シンドロームを撲滅するため」などと言ったなら、煌は手を組まないつもりでいた。目的達成までの過程で、一般人の犠牲をいとわない可能性が高いからだ。非力な高校生ができる抵抗など限られているが、


 しかし、彼は「倒す」ではなく「守る」と言った。

「一般市民を守る」ことに重点を置くのならば、その過程で犠牲者を生むことを良しとしない組織のはず。


 彼が嘘をついている可能性は勿論あったが、その言葉に嘘は無い。何となくだが、そう確信が持てた。


 そして、煌の中で暫定の指針が決まる。


「…夜野煌、16歳です。は、身をあずけます」

「…あぁ、今はそれでいい」


 完全ではないが、ある程度の信頼はする。


 現状の判断はそうであると、煌は男に暗に伝え、男はそれを理解する。

 

「君が私達に味方すると決めたのなら、その時は言ってくれ。こちらも君を正式に叛乱軍の一人として認め、情報を公開する」

「…えぇ」

「私の名前も明かさないが…一応、この叛乱軍の指揮官をしている者だ。リーダーだと思ってくれていい」


 膝をつき、手を差し伸べるリーダー格の男。


 煌がその手を取ろうとした時。


「あぐっ…」

「…!」


 胸部に唐突な激痛を覚え、身を縮こまらせる煌。

 男は何かを察したように、「失礼」と言って、煌の胸の部分をさする。


「いっ…!」

「…痛いのはここか?」

「は、い…」

「…酷いことをする。さっきの黒服が強引に地面に組み伏せたせいだろう。おそらく、肋骨に罅が入っているな」


 軽い触診で煌の負傷を見抜いた男は、背後に声をかける。


「エロイ!」

「はいはーい」


 エロイと呼ばれた、癖っ毛の目立つ男性が手を挙げて近づいてくる。

 その手には医療箱が提げられている。


「ほーい、立てるー?後ろに治療室あるから、とりあえずそっちに移動しよーか」

「す、すみません…」

「いーのいーの」


 肩を貸されて、煌は痛みに耐えながら治療室に向かった。


 その後、煌は簡易的なベッドの上でエロイに診察を受けたが、肋骨に罅が入っていた以外には特段大きな怪我は無く、あって打撲程度のものだった。


 ベッドの上で安静にしているように言われ、眠れはしなかったが、落ち着かずに転がっていること5時間以上。


 どうやら本拠地に到着したらしく、煌はベッドに乗せられたまま運ばれた。


 運ばれている時にも思ったが、道幅、天井の高さ、人間の多さを見る限り、意外と大きな組織らしい。

 窓のような物は一切見られない。地下なのだろうか。


 部屋に着いてから、正式な治療を受けて、ついでに色々と説明を受けた。



 まず一つに、この組織は政府と敵対していること。


 そして、煌を強制的に連行しようとしたのは、本当に政府の連中であること。


 最後に、煌を助けた理由の一つが、煌が『無職』であること。



「今は混乱しているだろう。気持ちの整理がついたらでいい。声をかけてくれ。側に人を置いておく」


 そう言って、リーダー格の男は煌を部屋に残して出て行った。


(さて、部屋に一人になったわけだが…)


 ぐるりと室内を見渡す。


 あまり物は多くない部屋だ。観葉植物、本、トイレや風呂、ベッドはあるが、全体的に空白が目立つ。

 とはいえ、元々煌は部屋に置いている物が少なく、男子高校生にしては無機質な自室であった自覚はあった。自室といい、この部屋といい、大した差ではないだろう。


(監視の目がないわけじゃない。多分、監視カメラぐらいなら何処かにあるし、盗聴器だって仕掛けてる。部屋の前に人を配置したのだって、自由に動かないためだろう)


 監視は絶対に切らない。なぜなら、煌の人物像の把握をし、そして逃走・情報漏洩の防止をするためだ。


『クレイドル』の記憶を持つ人間。


 それが、いかに重要なのかは、まだ悪夢ナイトメア症候群シンドロームの原因を人々が知らなかったり、政府やリベリオンが煌を取り合っているあたりで、なんとなく察しはつく。


 少し扱いが雑な気もするが、仕方のないことだ。

 多分だが、煌が

「リベリオン嫌だから政府に寝返りまーす」

 と言う可能性があるからだ。


『クレイドル』の記憶を持っていて、敵対組織の内情も知っている子供。


 政府の人間から見れば良いカモだ。何の力も持たないガキがノコノコとやってくるのであれば、それを拒む理由はないし、利用するだけ利用するだろう。


 つまり、煌が元々リベリオンの人間だろうが、寝返ろうと思えば政府側になれるのである。


「難しいところだろうな…」


 冷遇すれば寝返られるリスクが、好待遇をしすぎても情報漏洩の可能性が。


 この組織としては、どちらも避けたい事態であり、煌をどう扱うかには板挟みになっているはず。


 つまり、煌を扱いあぐねている状況になっていることこそが、彼らの思考力の高さを示しているのだ。


 まだ味方になると公言してすらいない煌にポンポン情報を与えるようでは、組織としてのが知れる。この扱いは妥当だろう。


 部屋が無機質めなのは、「完全な味方ではない」という意思表示か、煌の部屋の趣味をあらかじめ把握していたか。

 あるいは―――


「財政難か…?」


 …そうでなければいいが。


 思考が悶々としていたが、情報が少ない以上どうしようもない、と匙を投げ、改めて部屋の散策を始める。


 と、煌の目に、ベッドの横に置かれた引き出しが止まった。


「…中、入ってんのかな」


 がらり、と引き出しの最上段を開ける。


『名冊 〜日本の刀 50選〜 刀身に秘められたエロス』


「なんだ、これ………?」


 一瞬、目を疑った。

 叛乱軍なんて、物々しい名前をしている組織からは連想できない本に、一時的な混乱状態に陥る。


「エロスってなんだよ……」


 頭を振り払い、次の段を開ける。


『ガン○ムの常識 機動戦士大百科』


「……………」


 …まともな本が出てこない。

 いや、まともな本かもしれない。

 けれど、この場にふさわしい本か、と言われれば、全力でノーと答えられるレベルである。

 なぜ、煌のいる部屋に置く本がこれなのか。正気とは思えない。こういったジャンルのものが好きだと思われているのだろうか。


 もしそうなら、この無機質な部屋はリサーチに基づくものではなく、完全な味方でないことの示唆、または財政難―――


 …やめよう。

 雑誌を手に取って、裏側を見る。


「2005年刊行…嘘だろ…」


 表紙のレイアウトからも察していたが、80年前の年代物とは。もはや古文書の一種である。


 というか、ガンダ○って…時代遅れにも程があるだろう。


「古くさ…」


 そっ、と引き出しを戻して、一番下の段を見る。


 この展開。嫌な予感がする。一方で、少し楽しみにしている自分がいるのも怖い。


 煌は小さめの深呼吸で息を整えて、最後の引き出しパンドラの匣を引き出す。



『催眠能力?!ドキドキ☆HENTAIハイスクールっ!② 〜目が覚めたら女の子だらけの学校だったので、催眠駆使して全校生徒奴隷に



 バンッッッッッッ!!



 音速を超えたかと思うぐらいの勢いで、思いっきり引き出しを閉めた。


 16歳がいる場所に、明らかにR18の作品を置く神経。


 何故か①ではなく②を入れた意図。


 地雷臭たっぷりの作品を選んだ思考。


 …監視も盗聴もされているだろう状況をふまえて、一つ、あえて言おう。



「意味分かんねぇよ畜生ッッッ!!」



 少年の絶叫が木霊した。



 ***



『財政難か…?』


「…何言ってるんだコイツは」

「…まぁ、実際当たってる。金は出来るだけ節約したいってだけだが…」


 機械類が敷き詰められた部屋で、一人の男と女がマイクを耳に当てている。


 煌は部屋の中に監視カメラや盗聴器があると予想していたが、それは正解だった。

 現在、リーダー格の男と、そばかすが特徴的なブロンドのショートの女、そして他複数人がカメラと盗聴器を通じて、煌の動向を観察している。


「…金欠にしろ、流石に物が少なすぎないか?私は暇を潰せる物を置いてくれって言ったはずだが…」


 リーダー格の男はモニターを眺めながら、ぱっと見で部屋の中に娯楽の類いの物が無いのに気づき、周りの隊員に問いかける。


「あの本だって学術書だろう。もっと高校生が読みそうなもの、無かったのか」

「…なあ、隊長」

「なんだ?」

「どうして、あのガキに入れ込む?『無職』だからってのは分かる。だが、はずだ」

「…」

「戦力になるか分からない存在、加えて寝返る可能性が高い人間だぞ」

「…寝返るかは分からないだろう」

「…隊長だってわかってるはずさ。現状では、あっちにいた方が、ここに居るよりマシかもしれない」

「それでも、分からないだろう」


 目はモニターから離さず、言葉を続ける男。


「少しでも可能性があるのなら、それを手放してはならない。彼は『切り札』に成り得る。味方にする努力はある程度すべきだ。それに…」

「それに?」

「政府側になれば、彼は道具にされて、青春を失ってしまう。若人から未来を奪うことは許されない。利害は関係ない。未来の自由を考えれば、この組織にいさせてあげるのが一番だ」

「…でも、ここは自由の可能性はあっても、命の危険がつきまとう。そんな場所が、本当にいちばんなのかい?」


 反論を受け、かすかに笑う男。


「それが申し訳ないから、できるだけ好待遇しようとしているんだろう?」

「―――は。ひどい男だね」

「ああ。知っているとも」


 軽口をたたく2人だったが、咳払いを一つして、男は話を戻す。


「ところで、お前達が選んだ本はどこにある?選んでおくように言ったはずだが…」

「ああ。サプライズってことで、引き出しの中にしまってあるよ」

「…それ、大丈夫か」

「ご安心なされ、隊長」


 答えたのは、60代くらいの、髭をたくわえた老人。部屋にいた隊員の一人である。


「種類が偏らぬよう、儂とロアナ、シュティーネが1冊ずつ選んだのでな。できるだけ、あの年代が好きそうな物を取り揃えましたぞい」


「なんですよぉ。私の好みではあるんですがぁ、多分あの子も好きだと思うのですぅ」


 サイドテールにした赤毛が印象的な、垂れ目の女性――シュティーネがのんびりとした表情で笑う。


「……悪い予感しかしないな」

「ま、シュティーネとノリツグは特異な人間だからね。アタシは安パイだよ。あの年代の子は絶対好きなやつさ」

「…私が言ったのは、ロアナ。お前だ」

「はぁ?冗談よしなよ、なんでアタシなのさ」


 ロアナ、つまり例のブロンドの髪の女性が、心外だとでも言うように、眉をひそめる。

 リーダー格の男は肩をすくめ、モニターを見た。

 丁度、煌が目線を引き出しに向けている最中だ。煌は引き出しの最上段に手をかけ、ゆっくりと引いた。


『名冊 〜日本の刀 50選〜 刀身に秘められたエロス』


「……………おい。誰だ、置いたの」


「はぁい。私ですよぉ」


 力なく手を挙げ、にへら、とするシュティーネ。


「…なんで刀なんだ」

「えぇ?だってぇ、刀ってかっこいいですよねぇ!すらりと伸びた刀身。そこに走る美麗な刃文。軟鉄の柔さを鋼鉄の堅さで包み込んじゃう、いじらしいところとか…うへへぇ…♡」

「相変わらずの武器マニアね…アタシは使えればなんでもいいけど」


 顔を桃色に染めてクネクネと身を捩らせるシュティーネを見て、呆れたように息を吐くロアナ。


『なんだ、これ………?』


「…困惑されてるじゃないか」

「あれぇ?おかしいなぁ?」

「刀ならば仕方あるまいて。儂の用意した本は高校生には垂涎物じゃからな。ロボットは漢の浪漫であると1000年前から決まっておる。喜ぶこと間違いなしであろうよ」


 肩を落とすシュティーネを横目に、老人はクツクツと笑う。モニター上では、煌が最上段の引き出しをしまい、二段目を引き出して、『ガン○ムの常識 機動戦士大百科』を見つける。そして、感想を一言。


『古くさ』


 ガタッッッ!!(勢いよく立ち上がる音)


「待て待て待てどこに行くッッッ!?」

「離せィ!!あのガキっ、儂の聖典をッ…!許さん、許さんぞ!!野郎ぶっ殺してやらぁぁぁあ!!」

「落ち着け!!そんなにキレたら脳の血管ちぎれるぞ!!」

「ぬかせ!儂はまだまだ現役じゃい!そこまで血管も老化しとら」

「おじいちゃん。昂ぶっちゃダメだよぅ」

「あふんっ」


 無音で背後に迫り、ストッ、と首当てをするスティーネ。老人は意識を刈り取られ、白目を剥いて倒れる。


「エロイぃ、運んでぇ」

「僕は運び屋じゃないんだけどなー」


 エロイが老人を引きずって退出した。

 なんとも言えない気まずい沈黙。それを断ち切るように、リーダー格の男は話題転換をする。


「さ、さて。つぎ、は………」

「アタシだね」

「弁明しに行くか」

「なんで空振りする前提なんだい」


 おもむろに立ち上がった男に、すかさず突っ込みを入れるロアナ。自信満々なロアナの姿を見て、シュティーネが怪訝そうにする。


「ちなみにぃ、何入れたのぉ?」


「『催眠能力?!ドキドキ☆HENTAIハイスクールっ!② 〜目が覚めたら女の子だらけの学校だったので、催眠駆使して全校生徒奴隷にしてやった件~』だけど」


「弁明に行くぞ拒否権はない」

「…同意ぃ」

「な、なんでだい?!」


 ロアナを拘束して部屋から連れだし、煌の元へ向かうシュティーネとリーダー格の男。


 煌の居る部屋に仕掛けられた盗聴器の音を流していたヘッドホンから、煌の絶叫が響いた。



 ***



 これが三日前に起こったことであり、そして3日間の軟禁の後、現在に至る。

 煌はというと、暇すぎて本も読み切ってしまっていた。中でも、刀の本は一言一句覚えている。

 ちなみに、一番下の段は、最初以外一度も開けていないのだが。

 煌とて、思春期真っ盛りの高校生である。

 少しだけなら問題あるまい。R18なんだから違法とか、そもそもこの組織自体が犯罪組織なのだから今更だ。

 だから仕方ない。そう、仕方のないことだ。



「……(そーっ)」



 音を立てぬよう、ゆっくりと引き出しを開け―――



「すまない、待たせたな」



 バンッッッッッッ!!



 音速を超えたかと思うぐらいの勢いで、思いっきり引き出しを閉めた。(take2)


「…?どうした?」

「い、いえ。何でも」

「そうか。ならいい」


「付いてきてくれ。話したいことがある」と言って、部屋を後にするリーダー格の男。


「三日も暇だっただろう。調査が手間取ってしまってな」

「いえ…意外と本が面白かったので」

「…催眠か?」「違います」


 食い気味に否定し、黙って廊下を歩くこと10分ほど。


「入ってくれ」


 作動音と同時に扉が開き、煌は中に入る。


 そこは、細長い円卓が置かれた大きな部屋。


 十分に距離を取る形で、ブロンドヘアー、赤髪の女性や、白髪の老人、煌を治療してくれたエロイという男など、様々な人間が座っていた。


「…これは」

「過度に心配する必要はない。君に話す内容が決まったからな。それを今から伝えるだけだ」


 椅子に座るよう促し、男は円卓の反対側の席に座った。

 煌も目の前にある席に座って、正面を見る。

 円卓に座っている全員が煌を見ている。

 …流石に、これ程までに注目されるのは気まずい。


「では、始めよう」


 手を組み、男は荘厳な面持ちで口を開く。


 その言葉を皮切りに、男の口が真実を織りなされた。




 叛逆軍の幹部達が集まる円卓会議。


 ―――そこで、煌は『クレイドル』の本質の一片を知ることになるのだった。

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