第5章 第20話「バトルフェスタ②:裕也のif」

 一次予選が終了し、行きにも使った馬車は王都へと戻っていく。


『とりあえず、お疲れさん』

『うん、ありがとう』


 裕也が声をかけるも、アレンの口数は少ない。

 ややあって、アレンが裕也に尋ねた。


『裕也、君だったら今回の一次予選、どう戦ってた?』

『うーん……既に結果を見てしまっている後だからなかなか答え辛いが……質疑応答から作戦タイム終了くらいまでなら、試験が進む中で俺もシミュレーションしていたアイデアがあるから、そこを話す、でもいいか?』

『ああ、頼むよ』

『まず質疑応答のところだが――』


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 質疑応答により、ゼッケンの奪い合いという隠しルールが確認されたところで、裕也・・も手を挙げた。


「奪ったゼッケンを破棄することは可能か?」

「ゼッケンに修復が不可能なほどの破損が認められたり、ゼッケン自体が行方不明になったりした場合、そのゼッケンはないものとして扱います。予選終了時に残ったゼッケンについて、チーム全体での獲得枚数が多い方が勝利となります」

「なるほど。あと、フィールドの破壊等に何か制限は?」

「フィールドへのダメージは評価の対象外です。試験官がどうにかできますので、気にしないでください」

「承知した。もう一ついいか?」

「どうぞ」

「予選開始時の初期陣形はどうなっている?」

「それはですね、皆様、こちらをご覧ください」


 試験官は荷物袋から、大きめのプレートを取り出した。

 そこには1~10までの番号が振られた○数字が、不規則に配置されている。


「作戦タイム終了後、皆さんにはくじを引いてもらいます。くじには1~10の番号が書かれており、くじで引いた番号に従って、このプレートに書かれた所定の位置についていただきます。それが初期配置となります」

「なるほど、例えば、この5番と6番の間の距離はどのくらいだ?」


 裕也は、プレート上でいちばん近い距離にあると思われる番号を指して尋ねた。


「およそ二十メートルくらいです」


 結構広めの配置だな、と裕也は考えた。一番遠いと思われる番号同士では百メートル近く離れることになる。


「番号の位置に正確に配置できるのか?」

「ええ、予め番号を書いた木の札を地面に固定しておりますので」

「なるほど」

「このプレートは今から開示しておきますので、作戦タイムも必要ならご参照ください」


 そして裕也は確信する。やはりこの予選、ルールを意図的に隠していたのだ。とは言え、もう一つ気になっていたことは、ほぼ解決しただろう。一応質問してみることにする。


「作戦タイムから予選開始まで十五分も取っていたことも気になっていたのだが、それはこのくじ引きと移動のためか?」

「ええ、その通りでございます。移動が確認でき次第、一次予選開始となります」

「わかった。俺からもういい」



 質疑応答終了後、チーム分けが発表され、各チームに分かれて、作戦タイムが開始された。

 ビルディアと名乗った豹人に促され、各人が自身の名前と、現時点で自分の力をどれだけ開示するかについて意見を述べていく。

 ゼッケン番号の若い順に進み、裕也の番が来た。


「378番、アレンだ。一応、考えている作戦があるから、聞いてくれないか?」

「俺は問題ない。異論のある奴はいるか?」


 仕切り役となったビルディアが確認するも、反対する者はいない。


「先のルールで、ゼッケンの破損について確認しただろう?

 この予選、奪取よりも破損を狙う方が効率的だ」

「ああ、それは俺も考えていた」


 未だ自己紹介が回ってきていない一人が言う。質疑応答のときに、ゼッケンのチーム内所持枚数について尋ねていた人物だ。


「カバ人のエルキアだ。単純な算数だ。この勝負、ポイントは「いかに自チームのゼッケンを増やすか」じゃない。「いかに相手チームのゼッケンを減らすか」だ。自陣のゼッケンが奪われては元も子もない」

「その通りだ、話が早くて助かる。

 実は俺は、割と強力な火魔法を使える。

 そこでだ、予選が始まったら、なるべく敵を一か所に集めてほしい。そうだな、半径三十メートルの範囲程度で大丈夫だ。俺はなるべく気付かれないように、戦線の外側に位置取るようにする。準備が整ったら合図をするから、皆も全力で離れてくれ。

 その後俺は火魔法を放って、ゼッケンの燃焼を狙う」


 エルキアが反論する。


「危険すぎないか?相手が死亡したら元も子もない。質疑応答の時に、ペナルティのことも言ってたろう?」

「ああ、だから火魔法の後は、消火を手伝ってほしい。誰か、水魔法か回復魔法が使える人はいるか?」

「……私はまあ、使えるが」


 カバ人であるエルキアが告白すると、


「俺もだ」


 鰐人のキャットンも、渋々といった感じで名乗り出た。


「よし、じゃあ二人は死んでしまいそうな奴がいれば応急処置を頼む。俺も水魔法が使えるから、そっちに回る。

 他の七人は、火魔法から逃れた奴と戦ってくれ。うまく決まれば、こっちに数の利があるはずだ」

「初期配置からどう動くかと、火魔法を使う際の合図については?」


 エルキアが突っ込んで質問してくる。


「この作戦で一番ネックなのが初期配置だ。こればかりは運でしかないが、そうだな……」


 裕也は初期配置が設定されたプレートを眺めた。


「やはり、敵が多い所に集まるのが一番効率的だろう。敵味方がある程度固まる配置になった場合、敵をその位置に留めるようにしてくれ。

 ばらけた場合は、逆にこの初期配置の5、6番を基準とする」


 5、6番は、先ほどの質疑応答でも確認できたように最も選手同士の距離が近くなるところだが、同時に全体のおよそ中央に位置する番号でもあった。


「合図についてだが……これは相談したい。

 まず一点、例えば手を挙げるなどの目視で確認する合図がいいか、声かけや風魔法などの目視が不要なタイプがいいか」

「後者の場合、相手の中でも勘の良い奴には警戒されるかもしれんな」

「ああ。目視でいいんじゃないか。戦闘中でも、それくらいはできるレベルの集まりだろ。逆に、四獣傑クラスが相手にいるわけでもない」

「了解した。もう一点、俺が合図を出すか、他の者が出すか」

「合図と実行者が分かれている方が作戦に気付かれにくい、というわけか」

「そういうこと」

「俺は、そこまでするのは反対だな」


 これはビルディア。


「正式な連携訓練を積んだチームならまだしも、俺たちは今日会ったばかりの即席チーム。作戦はあまり複雑化させすぎない方がいいだろう」

「私も賛成だ。今回はアレン、君が合図を出してくれ」


 ビルディアとキャットン、二人が意見を述べ、反対する者は出ない。それを確認すると、裕也も首肯した。


「了解だ。

 あとはそうだな、仮に相手全員を射程圏内に捕らえられない場合でも、三人以上を巻き込めると判断したら作戦決行する。一挙殲滅がベストだが、目的はあくまで数を減らすことだからな。

 それと作戦の中止に関しても、基本的には俺が出すのがいいだろう。これは声で伝える。ただし……」


 そこでエルキアが遮った。


「アレンが作戦中止の合図を出すのが困難な状況の場合、か?」

「おう、その通り」

「その場合は私が判断しよう。そうだな、五分だ。五分待ってもアレンが状況打破できない場合は、私が作戦中止を叫ぶ」

「了解、それは頼む」


 そこまで話したところで、作戦タイムの終了が近付いていた。


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『とまあ、こんなところだな』

『うへえ、俺とは全然違う作戦だ。火魔法で殲滅なんて、思い切るね』

『まあ正直、ガチの戦闘となるとおそらく勝ち目がないからな。バトルフェスタに出場してくる時点で、相手は相当の腕自慢しかいないだろうし。

 効率よく数の利を作り出すのが良策と考えた結果だな』

『なるほど……。あと、初期配置のことも予想していたんだね』

『予想というか、確認すべきとは思ってたよ。くじ引きとまで予想しきれてはいなかったが』


 アレンは作戦タイム終了後のことを回想した。



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 作戦タイム終了後、両チームはまたもや一か所に集められた。


「試験開始前に、最後のルール説明です」


 この前置きに、選手たちはややざわめく。


「最後の、だと?」

「まだ追加事項が?」

「作戦タイムは終わったが……」


 試験官は構わず続ける。


「まず、こちらのプレートをご覧ください。

 これはこの草原を模しており、1~10番の位置が、戦闘開始時点の皆さんの初期配置です。

 予め、番号が書かれた木の札を地面に固定しておりますので、そちらに全員が立ったのを確認後、試験開始の合図をいたします」


 もう一人の試験官が箱を持ってきた。


「こちらの箱には、1~10の番号が書かれたカードが入っています。

 順番に引いていただき、引いたカードの番号がそのままプレートの初期配置番号となります。

 それでは早速、試験番号の若い順にカードを引いてください。純粋なくじ引きですので、カードを引く順番は有利不利に関係ありませんよ」


 言われるがままにカードを引く選手たち。


 アレンが引いたカードは、5番。


 選手たちが所定の位置についたことを確認し、試験官の声が草原に響き渡る。



「それでは、バトルフェスタ一次予選開始、五秒前。

 五、四、三、二、一……始め!」

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