第3章 第8話「警備ロボに対処せよ!」

 警備ロボは淡々と近づいてくる。

 途中で右腕を上げると、その先端が伸びた。


「まずい!」


 ナタリーが叫び、警備ロボに対して剣を振りかぶる。

 ガキン!

 警備ロボが、伸びた腕の先端部でナタリーの振り下ろした剣を受け止め、大きな金属音がする。

 その瞬間、


「ぐああああああ!」

「ナタリーさん!?」


 ナタリーは大きな叫び声を上げ、その場に崩れ去った。警備ロボの腕の先端から、バチバチと小さなスパークが飛んでいる。



『ちくしょう、こっちも電気か!』



 警備ロボたちは、倒れたナタリーには目もくれず、アレンとタイガをまたターゲットに定める。


「タイガ、いったん外へ逃げるんだ!遠距離攻撃の手段を持たない君がいちばん危ない!」

「いやだ!」

「頼むよ!」

「アレンも、あいつらには勝てない!」

「やってみなくちゃ分からない!」


 意見が対立する一人と一匹。

 そうしているうちにも警備ロボは迫ってくる。



「【炎矢フレイムアロー】!」



 逃げながら、アレンは今度は炎魔法を放った。細い矢状の火が二本、警備ロボに向かって飛び、命中する。


「「……」」


 しかし、炎の矢は虚しくも霧散し、警備ロボの歩みを止めることはない。


「全然効いてない!」

『おそらく並大抵の炎じゃ、あの装甲は破れないだろう!

 と言うか五属性全て、ダメージを与えられるビジョンが見えん。

 電気は効くかもしれん、テーザー銃を使ってみろ!』


「とりあえず、分散しても勝ち目はない!タイガ、かたまって動こう!」

「がう!」


 警備ロボとの距離を何とか保ち続けるアレンとタイガ。

 アレンは奪ったテーザー銃を取り出した。


『俺も撃ったことはないが……。

 銃口を真っ直ぐ相手に向けて、引き金を引く。おそらく引き金を引くときに狙いがブレないよう気を付ければ、あとは当たるはずだ!

 むしろ弓矢の腕がある分、俺よりお前の方が上手いかもしれん!』


 裕也もできる限りのアドバイスをする。


「このまま逃げているだけじゃ埒が明かない!

 タイガ、いったん離れてくれ!撃つぞ!」

「わん!気を付けて!」


 タイガはいったん壁の方へ離脱。


『まずは距離を取るぞ!動きながら撃つのはリスクが高い!』

『うん!』

『足に【強化エンチャント】だ!』


 アレンはまた足に【強化エンチャント】をかけ、裕也もそれを補助する。

 爆発的に加速。更に警備ロボから逃げると、二体もアレンを追いかけてくる。

 十分に距離を取ると振り向き、腕を真っ直ぐ伸ばしてテーザー銃を構えた。


『付属のテープを先端につけろ。

 おそらく、針が刺さらないような対象にも、粘着して紐を貼り付け、電気を流すことができるようになっているみたいだ』


 慌てて指示通りテープを貼るアレン。


 歯を食い縛り、銃を構える。

 極度の緊張に、額から汗が一筋流れ落ちた。



「ふっ!」



 紙一重の狙いと、刹那のタイミング。


 金属紐が飛び、そのまま警備ロボの一体にまで延びていく。



「やった!」



 腹部辺りに見事に命中し、先端がくっつく。



『ボタンを押せ!』



 ボタンを押すと、バリバリッ!と派手な音。

 警備ロボからシューシューと音が出て、煙が一筋立ち上がっている。



「倒せた、のか!?」

『みたいだな!油断するな、あと一体!』

『でも、どうすれば!?』

『スタンブレードしかないだろう!』

『……ちくしょう、やるしかないか!』



 アレンはスタンブレードを引き抜く。



「うおおおお!」



 スタンブレードと警備ロボの腕が交わる。

 スタンブレードに絶縁加工が施されているおかげで、電撃のダメージを受けることはない。

 とは言え、



「速いし、重い!」



 防電服で守られていないところに当たれば、その時点で気絶確定。

 しかもアレンの技量・腕力では、正確に腕を振るう警備ロボの攻撃を捌き切ることは難しい。


『【強化エンチャント】を両腕にかけ直す!』

『頼む!』


 裕也はアレンの魔力を調整して、【強化エンチャント】を両腕に移動。


「だいぶ楽になった!」


 こうして何とか、力でも速さでも警備ロボに肉薄することができるようになる。


『だが相手は機械だ。持久戦はこっちの体力が持たないぞ!』

『でも、どうすれば!?』

『一撃だ!

 一撃だけでも当てろ!特に関節駆動部を狙え!』

『ああ、また無茶を言って……!』


 そう言いながらスタンブレードを振るうも、やはり相手の攻撃を受けるので精いっぱいになりがちだ。

 アレンと裕也は、だんだんと疲れを見せ始めた腕に焦りを覚える。


 そのとき。


「アレン!」


 タイガが猛スピードで突進してきた。


「ガウゥゥゥ!」


 そのまま警備ロボに体当たりして、警備ロボの体勢を崩す。


「今だ!」


 その隙に、警備ロボの首筋にスタンブレードを当てるアレン。


 バチン!と大きな音がし、スタンブレードが反動でふっ飛ばされる。

 警備ロボの首がぐるぐると回り、動きが止まると、そのまま頭部の光が消えた。


「……何とか、やったかな」

「わん」


 アレンとタイガはその場にへたり込んだ。

 ハアハアと息をつく。


「アレン、おれのわざ、つかったな。いつのまに」

「ああ、【部分強化エンチャント】か。

 俺の場合、やっぱり魔力の出力が少ないせいか、普通に全身を強化しても、そこまで強くならなかったんだよね。タイガと初めて会ったとき、急に脚を強化しただろう?それを思い出して、修練中に試してみたんだよ。一点しか強化できないけど、その部分に対してはより魔力を込められる分、俺には向いているみたいだ」


 アレンはそう説明したところで、ふと思い出す。


「……そうだ、ナタリーさん。大丈夫ですか!ナタリーさん!」

「くっ……」


 アレンが声をかけると、ナタリーは目を覚ました。


「……気絶してしまったのか。すまない。

 電気の力とやら、恥ずかしながら甘く見ていたようだ」

「身体に異常はないですか?」

「攻撃を受けたところが火傷しているようだが……これくらいは魔物と戦っていれば、よくある傷だ」

「後で、ソニアかレナに治してもらいましょう」

「うむ。皆無事だとよいが……。

 アレンとタイガこそ、動けるか?ここは危険だ。撤退するか、早く探索を終えてしまおう」

「わかりました。

 ……もう少し奥まで行って、目途が立たなさそうだったら、一度戻ります」


 アレンたちは、警備ロボのいた部屋を後にした。


 先ほどのT字路まで戻り、今度は分岐の反対側へ走る。


 突き当りにはドアが。


「このドアの向こうに何もなかったら、戻ることにします」

「ああ」


 そう確認すると、ゆっくりとドアを開ける。



 その向こうには、広めの空間が広がっていた。


 アレンは部屋を見渡すと、奥の方に小部屋を発見した。遠くて見辛いが、中に何か機械のようなものが見て取れる。



 「あれ、転移装置っぽい!」

 『ああ、アルトリアで見たのに似てるな!』



 しかしその部屋から出てきたのは、一人の猿人。


「よーう、お前ら。

 好き勝手暴れてくれたようだな」


 猿人はゆっくりとこちらへと歩き、アレンたちに相対した。


「俺はヒヒマ。この部隊の隊長をしている。これでも国ではちったあ有名人だ。

 しかしあいつら、こんなガキ共にやられるとはな。鍛え直さんといかんか……」


 ヒヒマと名乗った猿人は、腕や足を伸ばして体をほぐしている。

 どこか飄々とした雰囲気に、どう反応すべきか、アレンたちは困惑した。


「……で、だ。

 それはそれとして」


 しかし、ヒヒマの漂わせている気配は、途端に冷たいものに変わる。


「悪いが、落とし前はつけさせてもらうぜ。

 あと、そこの狼の牙もな!!!」


 ヒヒマは最後にそう叫ぶと、アレンたちに襲い掛かった。

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