第109話 AIモードは、ポンコツ!?
「ユキから連絡はあった?」
レンは、アイミッタに訊ねた。
「ぴくし、やったらだめ」
アイミッタが首を振る。
「ピクシーが駄目?」
「ばしょわかるからだめ」
「ばしょわ……?」
レンは助けを求めて、ミルゼッタを見た。
「ピクシーメールは、目立ってしまって居場所が敵に分かる……だから、緊急の時以外は使わないようにと言われたのよ」
ユキがアイミッタに対してだけでなく、ケイン達にも戦闘中は、無闇にピクシーメールを使用しないよう注意したらしい。
「なるほど……」
レンは、補助脳の探知情報に目を向けた。
(でも……連絡が無いのはおかしい)
新種のゴブリンを追って行ったらしいが、ユキであれば容易く追いつくことができるだろう。
(ユキが苦戦している?)
アイミル号で遭遇した新種のモンスターは、"マカブル"という名称だった。
名称からして、ゴブリンとは別種だと思うが、エネルギー皮膜による防御力以外、これといった能力は確認できなかった。
(そんなに強くない)
あまり時間をかけられなかったため、銃弾を転移させて頭部を内部から破壊するスキルを使用したが、普通に近接戦闘を行っても問題無く倒すことができたと思う。
(ユキが追ったのは、マカブルじゃないな)
何を追いかけて行ったのだろう?
レンの視界に、第九号島内の映像が表示されている。地下街や
(アイミル号の他に、貴重なものは……)
島の地下にある"卵"か、地下街の"島主の館"だろうか。
ポータルゲートがある"島主の館"の屋上は、渡界者でないと立ち入れない。地下の"卵"があるエリアも同様だ。
(ゴブリン達は、あそこに侵入できるのか?)
何か、侵入するための
(周囲の反応は?)
『船内にモンスターの反応はありません』
補助脳のメッセージが表示される。
(船外は?)
『機銃雀蜂が42体、岩塊の周囲を移動しています』
岩塊の様子が映し出された。動かない岩塊の周りを、スズメバチが飛び交っている。
(……あの岩、まだ動くの?)
『ハープーンによる動力炉へのダメージが回復していません』
(つまり……もう動けない?)
『修理が必要です』
(修理か。ゴブリンに技士がいるのかな?)
レンは、アイミッタを見た。
「何か見える?」
「ユキ……いない」
アイミッタが不安げな顔で首を振る。
「いない?」
レンは、マキシスと船の修理について打ち合わせをしているケイン達を見た。
「何かあった?」
視線に気付いて、キララが顔を向けた。
「アイミル号は大丈夫ですか?」
「こうして浮かんでいるだけなら何日だって大丈夫よ。銃弾が魔力の導線を壊したから、交換修理に4時間くらいかかるわ」
キララが苦笑する。自分達が撃った銃弾で、船の設備を破壊してしまったのだ。
「船に近づくモンスターは居ません。ファゼルナのスズメバチは、岩塊を護っているだけで、こちらには来ないようです」
レンは周辺の状況を伝えた。
「レン君、あの銀色はどうやったら倒せるのぉ?」
マイマイが訊いてくる。
"マカブル"に押し切られそうになったことが悔しかったらしい。
「僕達のフェザーコートと一緒です。銃弾を当て続けて、バリアを削り切れば弾が当たります。距離を取りながら撃つ必要があるので……ここでは難しかったですね」
レンは操縦室を見回した。床面積は15畳ほどあるが、計器パネルや座席があるため自由には動けない。
「俺達が撃った弾で、どのくらい削れたか分かるか?」
ケインが訊ねた。
「分かりません」
レンは首を振った。補助脳が測定する前に、
「それで、何かあったの?」
キララがアイミッタを見ながら話を戻した。
「ユキの居場所が分かりません」
「ユキさんが?」
「確かに……遅いわね」
ケインとキララが顔を見合わせた。
「捜してきます」
レンは、手早く装備を確かめた。
「とうしゅ……」
不安げに肘を掴んで見上げてくるアイミッタを見て、レンは笑顔を作ってみせた。
「ユキは大丈夫。たぶん……地下だと思う。あそこは見えないだろ?」
島内で、アイミッタが見えない場所は地下の"卵"があるエリアだけだ。
「設置しておきます」
レンは通路に銃座を据えて、M2重機関銃を設置した。横に、弾箱を並べてケインを見る。
「弾込めは、やれるようになったぜ」
ケインが白い歯を見せた。
「敵が来たら、とにかく弾を浴びせ続けて下さい」
「分かった」
答えるケインの横で、キララとマイマイも頷く。
(たぶん、もう来ないと思うけど……)
転移ができるゴブリン・レイスやマカブルは、数が多くないはずだ。アイミル号と島内の重要施設に振り分けて襲撃してきたのだと思う。
レンが装備の確認を終えて、操縦室を出ようとした時、
ビィィィーーー……
大きな音が船内に鳴り響いた。
「わっ!?」
マイマイが声をあげて、64式小銃を構えた。
そこに、黒っぽい霧のような亡霊が浮かんでいた。
『報告します! 地下街に侵入した敵の排除が完了しました!』
黒い亡霊の頭上に吹き出しが現れた。
「……機能してたのか」
レンはぽつりと呟いた。
『
「同時に複数エリアを防衛できないの?」
『居住区の防衛を優先しました!』
「ふうん……まあ、よろしく」
現在、居住区には白い亡霊しかいないのだが……。
『敵の排除を継続します!』
黒い亡霊が消えていった。
直後、
リリリン……
着信音が鳴った。
『防空隊から、お手紙ですぅ~』
のんびりとした声と共に、ピンク色の髪をしたピクシーが現れた。
「防空隊……どこにいるんだ?」
レンは、補助脳の探知情報に目を向けたが、それらしい映像は見当たらない。
『お返事、書きますかぁ~?』
「ちょっと待ってて」
レンは、ピクシーから小さな封書を受け取った。
(……居留地の外港?)
<防空隊> の団長ダルフォスからの報告書だった。外港で、イーズの商船相手に砲撃戦を行っているらしい。
「だれからぁ~?」
マイマイがレンの横に来た。
「防空隊からです。イーズの商船が禁止区域へ侵入しようとしたため、砲撃を行ったようです」
レンは手紙の内容を伝えた。
「イーズかぁ……あの子達が手引きしたのかなぁ~?」
マイマイが腕組みをして首を傾げる。
(イーズなんかより、アイミル号の直衛をやって欲しかった)
レンは溜息を吐いた。
衛兵も防空隊も、上手く機能していない気がする。
「細かく指示しないと駄目そうね」
キララが言った。
「お任せモードだとポンコツなのかもぉ~」
マイマイが笑う。
(とりあえず、継続指示かな)
レンは眉根を寄せつつ、防空隊宛てに返事を書いた。
(第九号島が広くなって、補助脳が探知できないエリアが増えたな)
探知可能な10キロメートル圏内を超えてしまっている。<黒鉄> の時は全体を把握できたのだが……。
『お預かりしましたぁ~』
嬉しそうに言って、ピクシーが消えていった。
「……じゃあ、ちょっと行ってきます」
レンは、アイミッタの頭に軽く手を置いてから操縦室を出た。
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まだ、ユキが戻らない!
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