第43話 黒いゴブリン
(……来た)
レンの視界に光点が9つ点った。
追って来た9機全てが、補助脳の探知範囲内に入っている。威嚇射撃に全く反応しないため、強引に接近して乗り込み、船内の制圧をするつもりなのだろう。
(3体は、操縦室上の艦橋に向かった)
残りは、レンが待機する船尾側に集まっている。
(ゴブリンは、こっちを探知する手段を持っているのかな?)
富士山で戦ったゴブリンは、特別な装備などは持っていなかったようだが……。
整備用の簡易橋の端にある防護扉の裏に身を潜め、レンは視界に表示された光点の動きを観察していた。
船尾側に集まったゴブリン達は、まだ船の外壁の上にいる。
爆破して進入路を作ることを予想していたが、どうやら扉を探しているらしい。
(ユキ達は……)
レンの思考に応じて、補助脳が艦橋周辺の透過図を表示した。
3つの光点が艦橋にある開閉扉に集まっている。ユキは艦橋から入って操縦室へ向かう通路で待ち伏せているようだった。
(やっぱり、あの扉を見付けた)
ゴブリン達を示す光点が、最後尾にある扉付近に移動し始めていた。
レン達が船に入る時に利用した扉を見付けたようだった。機銃雀蜂に撃たれて歪んだ扉だ。特に塞いでいないので簡単に開けることができる。
(爆弾とか持ってたら困るけど……)
ゴブリン達は船内を制圧するために来ているのだ。船内で戦闘になっても、いきなり爆弾を使うようなことはないだろう。
- 122.1m
黒色のゴブリンが後部の小部屋に侵入してきた。小部屋から整備用の通路へ入るための扉は開けてある。照明が消えた船内は暗く、開いた扉から差し込んだ外光が、黒々としたゴブリン達を暗中に浮き上がらせていた。
レンは、動力炉の上に渡された整備用の橋の突き当たりで床に膝を突いてHK417を構えていた。通路上の扉を開けてあるため、移動してくるゴブリン達との間に遮蔽物はない。
(小型の魔導銃……拳銃みたいな形だ。剣だけの奴もいる)
HK417を構えたまま、レンはゴブリン達の観察を続けていた。
ゴブリン達はまだレンに気付いていない。待ち伏せを想定していないのか、無警戒に行動しているように見える。
(まず3体か)
3匹が壁面の梯子を使って動力炉のある床面へ降り始め、残る3匹が整備橋の上を走って向かって来る。
- 91.6m
黒色のゴブリン達が、整備橋の中央近くまで到達した。橋のようになっている狭い通路だ。
レンは引き金を絞った。
ドンッ! ドドドッ! ドドドッ!
HK417が連続した発射音を鳴らし、先頭を走ってくるゴブリンが頭部を弾かれて仰け反った。
ドドドドドッ……
後続のゴブリンが何かをしようとする間も無く 7.62×51mm 小銃弾が頭部を貫通して破砕音を鳴らす。
レンは、倒れたゴブリン達を狙って
(やった?)
レンは、HK417を構えたままゴブリン達に近付いた。
******
プレデター [ ゴブリン・トルーパー ] を討伐しました!
******
目の前に、銀色に光る字が浮かび上がった。
(やっぱり、ゴブリンタイプは生命力が低いのか)
防御力が低いのか、銃弾数発で斃すことができるようだ。富士山で遭遇したゴブリン・スポッターも弱かった記憶がある。
続いて、獲得ポイントが表示された。
討伐ポイント:150
異能ポイント:5
技能ポイント:3
採取ポイント:0
(3体分? なんか、ポイントが多い)
富士で斃したゴブリンとはポイントが全く違う。
(あっ!?)
やや位置をずらして、別の文字が浮かび上がった。
******
プレデター [ ゴブリン・トルーパー ] を討伐しました!
******
討伐ポイント:20
異能ポイント:1
技能ポイント:0
採取ポイント:0
(ユキだな)
船の透過図を表示すると、操縦室に近付いていた光点が2つ消えていた。
残る光点は1つ。
どうやらユキと交戦中らしい。光点は、かなりの速度で船内を移動していた。
(キララさんが言ってたように、参加していないと貰えるポイントが少ないんだな)
レンは、斃したゴブリンに近付くと、魔導銃や剣など装備類を【アイテムボックス】に収納した。
(こっちの残りは……)
通路から動力炉の並んだ床を見下ろすと、下に降りたゴブリン達が見上げていた。
- 41.9m
『魔素子が凝縮しています』
補助脳のメッセージと共に、ゴブリンの輪郭が赤く囲まれた。
動力炉が並んだ床へ降りたゴブリンの内の1体が魔法を使おうとしているらしい。
(何の魔法か知らないけど……)
レンは、整備橋の上からHK417で狙い撃った。初弾を当てて、倒れるところへ連射を浴びせる。
赤く強調表示されていたゴブリンが胸部を撃ち抜かれて床に倒れた。フルフェイスの被り物が床に打ち付けられて乾いた音が鳴る。
『魔素子が凝縮しています』
別のゴブリンが魔法の準備を始めた。先ほど同様、輪郭が赤く囲まれて強調表示される。
ドドドッ!
ドドッ!
整備橋の上を小走りに移動しながら、レンは残る2体を狙い撃った。
1体は為す術無く銃弾を浴びて床に転がったが、最後の1体は小銃弾が命中する寸前で見えなくなった。
(消えた?)
『上方で、魔素子が凝縮しています』
(えっ!?)
慌てて見上げた先で、黒いゴブリンが大型の拳銃のような物を構えていた。その筒先が赤く色づいている。
咄嗟に、レンは床を蹴って前へ転がった。
パキュゥ……
奇妙な音が鳴り、レンの背中すれすれを赤い光弾が奔り抜けた。先ほどまでレンが居た場所で赤光と熱が飛び散る。
(あいつ、飛ぶのか!?)
レンは、空中に跳び上がっているゴブリンを狙って引き金を絞った。
(……また!?)
天井近くに浮かんでいたゴブリンが視界から消えていた。
『左方です』
- 8.3m
(左……どうやって?)
床から天井付近へ、そして左手の壁際へ……。黒いゴブリンが、一瞬で移動している。
「くっ!」
レンは大きく後方へ跳び退った。
赤い光弾が顔の前を奔り抜け、焦げた臭いが鼻に残る。ほぼ同時に、レンもHK417を応射した。
『下方です』
- 9.6m
ドドッ……
パキュゥ……
今度は、レンのHK417が先に銃弾を放っていた。
やや遅れて、ゴブリンの銃が発射音を鳴らす。
(後ろ!)
光弾を回避しながら、レンは後方へ銃口を向けた。
『後方です』
補助脳のメッセージが表示された時には、レンの指が引き金を引いている。
今度は当たった。
1発だけだが、腹部に命中した。
(消えた……次はどこだ? どこへ行った?)
レンは上下左右を忙しく見回しながら、周囲へHK417の銃口を巡らせる。
『船外に反応です』
補助脳のメッセージが視界に浮かんだ。
(……は?)
一瞬、何の事が分からなかったが……。
事態を理解すると、レンは後部の扉に向かって走り始めた。
- 18.2m
(壁を抜けて外へ……あんな魔法があるのか?)
レンはゴブリン達が侵入してきた扉から外へ出ると、機銃雀蜂に穴だらけにされた外装甲を上って上部へと駆け上がる。
(居た!)
甲板上で、黒いゴブリンが魔導銃を構えている。その向こうに、ゴブリン達の機体だろう、ミサイルのような形状をした物体が並んでいた。
パキュゥ……
予想していた射撃音を聞くと同時に、レンは斜め前へ跳んでいた。肩口ぎりぎりを熱塊が掠めて抜ける。間を置かず、レンはHK417を応射しながら走った。
- 41.3m
黒いゴブリンが手にしていた魔導銃を捨てて、腹部を押さえながらレンに背を向けて走り始めた。
(武器を捨てた?)
レンはHK417を構えると、ゴブリンの背を狙って引き金を絞った。
ドンッ!
反動でHK417が肩に食い込むみ、ゴブリンが頭部を揺らして前へ倒れた。
(もう、消えないのか)
レンは、しっかりと狙いを付けて、弾倉に残っていた銃弾全てを浴びせた。
******
プレデター [ ゴブリン・レイス ] を討伐しました!
******
目の前に、討伐表示が浮かび上がった。
討伐ポイント:300
異能ポイント:8
技能ポイント:150
採取ポイント:12
(ん?)
ポイントが表示されて終わりかと思ったら、続いてアイテムの表示が出た。
(ゴブリンもアイテムを出すのか)
[レイスの魔導布:1]
[空兵用信号珠 :3]
動かなくなったゴブリンから2枚のカードが浮かび上がり、応じるように現れたレンのエーテルバンクカードに吸い込まれていった。
(もう1体は……)
操縦室を狙ったゴブリンの内の1体が、船内を逃げ回っていたはずだ。
HK417の弾倉を取り替えながら、船体透過図を見ようとした時、銀色の文字が浮かび上がった。
******
プレデター [ ゴブリン・レイス ] を討伐しました!
******
討伐ポイント:50
異能ポイント:2
技能ポイント:0
採取ポイント:0
(……さすが)
ユキが最後の1体を仕留めたらしい。
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レンは、ゴブリン・トルーパー×5を討伐した!
レンは、ゴブリン・レイス×1を討伐した!
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