第2話

 着いてきてください、と言い階段を上がっていくピクシーの後を、慌ててついて行くエリアス。何かを訪ねようとしたが、どうせこの後説明されるだろうと思い、そのまま黙って後を行く。


 約2分ほど、ピクシーの後をついていくとその先に一つの扉が見える。


 それが見えたら、ピクシーはくるりとエリアスを見る。


「この扉の先が、訓練場となっております。頂上までは五十層ありますが、脱出したい時はいつでも脱出出来ますのでご安心を」


「五十層……到達したら何かあるのか?」


「いえ。この塔は『己を鍛えるためだけに存在している』ものですので、そういったものはありません。………強いて言うならば、強くなった自分がご褒美です」


「なるほどな……シンプルで、分かりやすくて丁度いい」


 フンっ!とエリアスは気合を入れると、ピクシーの横を通り過ぎる。


「早速挑戦させろ。一分一秒でも早く自分を鍛えたい」


「では、チュートリアルを始めさせてもらいます」


 そう言うと、ピクシーの言葉に連動するように扉が開く。まだ完全に開ききっていないまま、エリアスが特攻しそうになったのでピクシーはそれを慌てて止めた。


「お待ちください。急ぐのは分かりますが、慌てないでください」


「………」


 フワリと目の前に現れたピクシーを見て、助走の構えを解いたエリアス。それを見たピクシーは、ゆっくりと扉の先へと入っていった。


「ここは、この塔の建設者である私のマスターがあくまでも『鍛えるためだけ』に作ったものだけあり、いくら致命傷を受けても死ぬことはありません」


「あぁ、それは知っている」


「話が早いですね。それを知っているならば早速トレーニングを開始しても大丈夫そうです」


「そうなのか?」


「はい。ここでは『死なない』ということが一番重要ですので――――来なさい」


 ピクシーがそう言うと、フロアの真ん中に光が差し込み、空から何かが降ってきた。


「………あれは?」


「チュートリアル敵です。いくら死なないと言っても、死にすぎれば心は摩耗し、廃人となってしまいますので、を持つまではこれと戦っていただきます」


 スタッ、とフロアの中心に降り立ったのは――――


「次層の敵をダウングレードさせたゼウスです。それでは、頑張ってください」


 ――――筋骨隆々な、上半身裸のいい歳したおっさんだった。


「………は?」


 そして、次の瞬間にはエリアスの視界には、自身の顔面に向かって思いっきり拳を伸ばしてくるおっさんの姿だった。


 パァン!


 そして、エリアスは死んだ。


「おお勇者よ、死んでしまうとは情けない」


「………おい、なんだあれは。それとそのセリフはなんだ」


「いえ、お気になさらず。一度死んだらこう言うように設定されてますので」


 私のマスターは変人です、というピクシーを横目に、ゆっくりと立ち上がるエリアス。先程まで、中心に近い位置にいたと言うのに、一瞬意識を失い目覚めた時には壁にめり込んでいた。


「俺はどうなった」


「聞きたいですか?」


「……いや、やめとく」


「賢明です」


 先程のエリアスは、ゼウスのパンチにより、首と頭が綺麗にパッカーンとちぎれた上に、壁まで吹っ飛ばされていた。かなりマイルドに表現したが、実際見たらグロい。


(だがしかし、これは――――)


「おもしれぇ……」


 自然と、エリアスの口角は上がっていた。


 五分後、ここに挑戦したことをちょっと後悔した。






「……あなた、よく壊れなかったわね」


「いつでも脱出できるんでな。やべぇと思ったらレジーナに癒されにいった」


 エリアスが話初めて約10分ほど。これだけでメルジーナの頬はぴくぴくと引くついており、思っていた内容よりも数倍もやばい事に軽く引いていた。


「半日を過ぎたら絶望よりも、あのクソジジイにイラつく方が多かったな。死んだらいちいち煽ってくるし、分裂するし、唾吐いてくるし………やべぇ、思い出しただけでもイラつく………っ」


「お、落ち着きなさい……?ほら、紅茶を入れてあげるわ」


「すまない」


 イラついた故に、無意識のうちに殺気が漏れ出るエリアスに、急いで紅茶を飲ませるメルジーナ。流石に暴れ出されたら勘弁である。


「……まぁ、あのクソジジイのおかげで強くなったのは事実だ。めっちゃムカつくけどな」


「……そろそろ終わりにしましょうか。主役も帰って来ることだしね」


 転移の魔法を感知したメルジーナは、この話を無理やりぶった切った。


 現れたのはもちろんティルファ達。その姿を見たメルジーナは、クスリと笑った。


「おかえりなさい、ティルファ、ルーナ、アリス、エリメラ。よくやった――――あら?」


 目線を向けると、何やら1人増えていた。今まで見た事のない女性の登場に、一瞬思考が止まったが、直ぐに理解した。


「なるほど、また新しいお嫁さん?」


「違います!!」

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