第4話
ジャパニカの街がディルクロッド領地となったことは直ぐに伝わった。
もちろん、帝国のように戦争ぶっかけて無理矢理領地にした訳じゃなくて、話し合いで平和的に終わったと言うことが広まっている。その手柄はとりあえず全部メルジーナ様のおかげってことにしといた。
そして現在、マイの頼みを断りきれず、マイの館で一夜を過ごした俺は、ディルクロッドへと戻ってきていた。
寝る前に、メルジーナ様に任務を達成したという報告はしておいたが、きちんと己の口からも報告しないといけないため、アリス達に会うのはもうしばらくあと。
それに―――――
「……随分懐かれたのね?」
「ティルファくんは恩人ですから!」
「おかしい……」
現在、何故か俺の腕に抱きついているマイも一緒にいる。これまでの経験から、俺に好意を持っていないということは何となく分かるが……おかしい。これはおかしい。
だってさっきまで普通にしてたじゃん……なんでこの部屋に入る直前に急に抱きついてきたのほんと、なんで?
「……まぁいいわ。とりあえず、災難だったわねマイ」
「言わないでメルジーナ様。本当に言わないで」
メルジーナ様の言葉に、目のハイライトを消して応答するマイ。どうやら、昨日の館の屋根ぶっ飛び事件は相当心のトラウマとなっているらしい。
「一生懸命あのお家おっきくしたのに、一夜でぜーんぶ吹っ飛んじゃった……ふふ、ふふふふ……」
「おい、戻ってこい戻ってこい」
「あた」
何やらどこかに行きそうだったマイの頭を叩いて正気に戻す。どうやら目もいつも通りになってきたみたいだ。
「ほらマイ。本題言わないと」
「あぁそうだった……えと、メルジーナ様。昨日は私のSOSに応えて下さりありがとうございました」
「いいのよ。ジャパニカにはこの街もお世話になっているから、それくらい当然よ」
と、微笑みを返して言うメルジーナ様。その微笑にやられたのか、マイの頬が多少赤くなった。
「や、やば……あの人の微笑み凶器すぎ……っ」
「マイ」
「こほん!失礼、少々取り乱しました」
一々どこかに行きそうになるマイのストッパー役になっている俺。このままだと本題に入るだけで時間がかかりそうだ。
俺は、一応この後の流れをマイから聞いている。御礼を言い終わったあとは、吹き飛んでしまったマイの館を修理している間、メルジーナ様の家に泊まらせて貰えないかの交渉だ。
一階部分で寝泊まりは出来るとはいえ、屋根がない家に住みたいとは思わないだろう、誰でも。
「なんかこれ以上脱線するの怖いので、早速本題に入ります――――メルジーナ様、私達の街は戦争で取られることになるのですよね」
「……まぁそうね。いくら平和的にこちらに来たとは言っても、あの時は既にディルクロッドとアレシオンの戦争は始まってたもの」
「そう、ですよね……」
あれ、なんか俺が知ってる流れじゃねぇな。
いつの間にか俺の腕から離れていたマイを見つめる。一体彼女は何を言い出すの―――――
「それでは、私は責任を取ってティルファくんの奴隷になります!」
…………………………………………。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!???」
マイのとんでもビックリ発言についつい大声を上げてしまった俺。理解するのに数秒を要した。
「え?だって敗戦国の末路って大体そうじゃないの?」
「なんだその偏った知識!いや、確かにそうなるケースもあるけど!?」
「うーん……面白そうね、許可します」
「やった!」
「メルジーナ様!?」
面白そうって何!?あとそこ!喜ばないの!
「待ってください!俺はマイを奴隷にするつもりなんてありません!」
「いいじゃないの別に。領地を取られた領主というのは、形だけでも何か責任を取らなければいけないのよ?」
「確かにそうですけどなんでそれが奴隷になるんですか!?」
発想が極端過ぎる!
「大体、マイも自分から奴隷になるなんて言うな。俺ジャパニカの住民に殺されちゃうよ」
「それじゃあメイドさん?」
「却下」
メイドは既にティルで間に合っている。これ以上俺専用メイドとかいうちょっと意味不明な役職を持ったメイドはティルだけで充分だ。
「それじゃあ……お嫁さん?」
「なんで?後マイは別に俺の事好きじゃないでしょ」
「そりゃあ合ってまだ何時間しか経ってないから分からないけど……でも、ティルファくんならいいかなーって」
「人生を左右する決断を軽く決めるな」
あと、これ以上嫁は増やせん。アリス、ルーナ、姉さん、メリウス、ラミュエールと既に五人もいるのだ。怪しいと思ってる人物を除いても五人いるのだ。流石に多すぎ。
「とりあえず、マイはティルファの傍にいたいようだから、ひとまずはティルファ預かりということで問題ないわね」
「………もうそれでいいです」
「よろしくね、ティルファくん」
アリス達になんて説明しよう………。
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『神殺し悪魔のラプソディア』
『勇者学院聖剣ナシ≠落ちこぼれ?』
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