第9話
一つ階層を下に降りればそこからは明かりが見えてきた。ネックレスの光度からしてこの階層ではないが、どれだけ兵士が巡回をしているか見るために念の為に廊下を覗いてみる。
しかし、ビックリすることに人が一人もいなかった。更に、ティルによるとそもそも人の気配がそんなにしないとも言っていた。
恐らく、現在この城は何らかの理由で人が全くいない状態なのだろう。一応門には番人が居たが、中はいないと考えると、ここまで侵入されないとか思ってるのだろうか。
まぁ、今現在進行形でされてるんですけどね。
「ここじゃないか。次」
そして俺たちはそのまま下の階層へと移動する。
明かりを頼りにしながら二階、三階とどんどん降りていき、五つほど下がった所でようやく光が横に向けて反応があった。
つまり、この階層である。
「よし、行くぞ」
「うむ」
もう一度俺達に隠密の魔法を掛け直して廊下を歩く。別れ道に出会う度にネックレスで方向を確かめるため迷うことはしなかった。
そして、暫く歩くといかにもな雰囲気を醸し出している人物がいた。
そいつは、この国の騎士が着ている鎧を装着しているが……あれはかなりの実力者だな。エリアスには及ばないだろうが、それでもかなり強い雰囲気を醸し出している。
「どうするご主人様。殺すか?」
「いや、待てティル」
出来れば城内で余計な騒ぎは起こしたくない。だがしかし、奴を倒さない限り姫様を救うことは叶わない。
何せ、奴はその扉に寄りかかっているからだ。
「………誰かいるな」
どうしようかと迷っている間に、奴が声を出し俺達が隠れている方向に目を向ける。バレたことに一瞬だけ身を硬直させたが直ぐに平常心に戻る。
魔法が破られるなんてメルジーナ様で何回も経験済みだしな……。
ティルに指だけで『お前は隠れていろ』とサインをだし、俺だけ姿を騎士の目の前に表す。
「一般人がよく俺の魔法を敗れたな」
「なに、隠れていようと空気の流れから人がいるかいないかは分かる……一応聞いておこう。この城――――いや、姫様になんの御用だ」
「答える義理はないね。ましてや、敵にわざわざ情報教えてどうすんの」
「……フッ、たしかにな」
ゆっくりと扉から離れ、腰に刺してある柄へと手が伸びる騎士。俺は虚空からベルゼブブを取り出して構える。
「私は、アレシオン王国騎士団団長、エミル・アバラニカ。貴公の名は?」
「神童、ディルクロッド領所属ディルソフ家次男、ティルファ・ディルソフ……別に、そちらの騎士道に合わせる必要は無いが……ま、気にする事はない。アンタはまともそうだからな」
「………」
俺がそう言うと、エミルと名乗った騎士の動きが止まった。
「剣を下ろしてくれ。俺達が戦う必要は無い」
そう言って、俺はベルゼブブをしまう。準備はしたけどその必要は全くしないで良かった。
「……なぜ、剣をしまった」
「何言ってんだ。そもそも戦う気すらなかったくせに」
はぁ、と思わずため息を吐いてしまった。この騎士、最初から最後まで全然殺気を俺に飛ばさなかったし、そもそも戦闘する気があるなら柄に手を添えるだけじゃなくて普通に抜くでしょ。
「俺の目的は、その中にいる姫様を救うだけ。戦う気がないなら退いてくれ」
「……姫様を、救ってくれるのか?」
「あぁ」
そういうお願いだしな。それに、あの姫様がこの国で暮らすにはいい人過ぎる。
「……頼む」
「あぁ。ま、救うのは俺じゃなくてメルジーナ様だろうけどな」
そして、俺はエミルに向かって魔法を放つ。すると、エミルはゆっくりと瞼を閉じて床へと倒れる。
相手を強制的に眠らせる魔法である。体裁的に、眠らされて姫様を攫われたということにした方がいいだろう。
俺は、エミルを壁に寄りかからせてからティルを呼ぶ。俺だけ、隠密の魔法を解いてから扉を開けると――――
「メルジーナ様からのお願いだ。助けに来たぞ第二王女」
「……ぁ」
そこには、泣き腫らした顔で床に踞る姫様がいた。
俺はすぐさま懐からメルジーナ様から預かっているネックレスを姫様に見せる。すると、彼女の手の中からも同じ輝きが溢れ出し。
「……そ、そのネックレス……メルジーナ様の……」
「あぁ。メルジーナ様から、姫様を救ってくれとお願いされて、貸してもらった……信じてもらえるか?」
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