第5話

 王から飛び出る言葉に目付きを更に鋭くさせるエリアス。


「……おいジジイ。ディルクロッドと戦争だと?帝国の猿真似か?」


「違うぞ勇者。これはアレシオンがあるべき姿に戻るだけだ」


 ディルクロッドは元々アレシオンに属していたが、エリアスはディルクロッドとアレシオン王都が仲が悪いことは当然知っている。だからこそ、なぜこんなにも王があそこに執着しているかが分からない。


 そして、更に言えば―――――


「一つ聞こう。アレシオン王」


「……ほう?」


「お前に、正義はあるか?」


 ――――当然、王から漏れ出る悪意の存在にとっくのとうに気づいている。もはやこの王は前とは違う。


 エリアスの体から、金色のオーラが漏れ出る。かつてとは違う、しっかりとした強者のオーラに王はあごひげを撫でる。


 エリアスは『勇者』である。


 例え、国の最高権力が命令しようと、そこに正義が無ければその力を振るう資格はない。


「当然、ないに決まってるであろう?」


「死刑」


 王の目の片方が黒に染まると同時に、エリアスが鞘から聖剣を取り出した。


「おいレジーナ。お前はひと足早くディルクロッドに行って、この異常をティルファに伝えてこい」


「行かせると思うか?」


「行かせるさ。慢心が消えた俺に死角はない」


 黎明の塔にて、あまたのモンスターにちぎっては投げ、ちぎっては投げをされたエリアスの心に、既にあのころのような人を見下す慢心の態度は見えない。


「行け!レジーナ!」


「……っ!きちんと終わったら後でいっぱいベッドの上で虐めてもらいますからね!」


 こんな時でもブレないレジーナの態度に思わず口角が上がってしまうエリアス。同化の魔法で菅田が完全に見えなくなり、この部屋から速攻で抜け出したのを確認する。


「名前だけ聞いておこうか」


「何を言う。お前も知っているとおり、わしは王であろう?」


「ぬかせ。一度自分の姿を鏡で見てから言え。人間は背中から羽なんか生えねぇよ」


 エリアスの視線の先には、玉座にだらしなく座り、肥えた腹を晒す王の姿はなく、黒い皮膚に背中から羽が生え、飛んでいる王と呼んでいた人物がいた。


「……チッ、また悪魔か」


 その姿と、どこか感じたことのある似たような気配から悪魔と推定する勇者。脳内に、ディルクロッドでの一戦が蘇った。


「どうするか。封印武器は今ねぇしな……」


「考え事をしている場合か?」


 ブツブツと呟いているエリアスに向かって、闇の塊らしき魔法を放つ悪魔。


「従わないから、無理やり従わせるまで。貴様を洗脳して、ディルクロッドを制圧――――」


「舐めるなよ」


 既に勝利のその先を見据えていた悪魔に、エリアスの声が届く。慌てて魔法を放った先を見ると、綺麗に真っ二つに切れた魔法の間からエリアスが顔を出す。


「この程度で俺を無理やり従わせる……?巫山戯たことを言うな」


 聖剣の輝きがさらに高まる。


「俺を殺したいなら――――ドラゴン50匹と神とか名乗る変質者5人はつれてこいやぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


「はぁ!?」


「喰らえ!聖剣の輝きを持って正義を執行する!」


 剣を胸の前で構えると、光の帯がアスカロンの周りを漂い始めた。


 これは、黎明の塔の修行にて、新たにエリアスが覚えた必殺技。


「汝は悪。世界の規律を乱す正義の敵――――」


 その威力は、かつての切り札である龍屠る一撃ドラゴニックバニッシャーを軽く超える。


正義の龍殺撃ジャッジメント・バニッシャー!!!」


 エリアスが剣を振り下ろした瞬間、その剣閃から巨大な光の塊が悪魔へと向かっていく。それは、背後の壁を突き破り、光の柱が空へ向かって射出された。


「……………」


 そして、エリアスは難しい顔を浮かべながら、ゆっくりと聖剣を戻して踵を返す。


(間違いない。殺った手応えがねぇ……逃げられたか)


 チッ、と軽く舌打ちを打つエリアス。


(だが、あれは次元をも切り裂いて攻撃するから確実にダメージは与えた。今頃、どっかでくたばってるだろ)


 黎明の塔にて新たなる新技を獲得したエリアス。その背景には、平気で別次元を移動して攻撃してくる奴がいたから、それ対策に開発をしただけである。


(あのゼウスとかいう変態も、少しは役に立ったか……)





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珍しく勇者がきちんと勇者やってる描写。タグのかませ勇者とは一体何なのか()

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