第12話
「え、あの勇者来てるの?」
「うっわぁ……」
俺がこのことを話すと、ルーナとアリスはものすごく嫌そうな顔をする。その気持ちは本当に痛いほどに分かる。
「……先生達、何があったんだろう」
「……さぁ」
俺達が落ち込んでる様子を見て、カレンとメリウスが首を傾げている。
「………ふむ、なるほどなるほど……これは……」
ティルが俺から記憶を読み取ったのか、珍しくドン引きした表情を見せている。
「ティルさん、記憶を読み取ったなら教えてくれませんか?」
「ふむ、しかしこれは……聞いても胸糞悪くしかならんぞ?」
「それでもいいんです。先生の過去のことならバッチコイです」
「ご、ご主人様よ……」
メリウスとカレンの押しに負け、助けを求めて俺を見た。
「……ティル、代わりに説明してやってくれ。俺達今それどころじゃないから」
「うむ……あまり私も口にしたくはないが……まぁ了解した。二人とも、こっちに」
ティルが俺たちを気遣ってから少々離れたところに腰を下ろして話し始める。アリスとルーナは、あのクズ勇者と一緒にいた頃の記憶を思い出したのか左右それぞれの腕を抱きしめる。
……恐らくだが、あいつの目的は俺たちが討伐しようとしている魔神だろうな。スペックだけなら優秀なアイツだ。勇者限定スキルである『原罪探知』を使って魔神の居場所を掴んだのだろう。
「……二人とも、もしかしたらアイツと共闘……なんてことがあるかもしれない」
「……そうね。あいつ、正義感だけは本物だし」
「手柄を横取りするな!とか言ってきそうですよね」
有り得る。めっちゃ有り得る。
「まぁその時はその時で臨機応変に対応しよう――――もしもの時は、あいつを生贄にするか」
「「異議なし」」
あいつが独断専行して、倒せるなら倒せるでそれでよし。倒せないなら倒せないであいつを生贄として情報を集めよう。ま、危ない時には回収くらいはしてやるか。あんなやつでも勇者だし。
「すいません、ただいま戻り―――なんです?この状況」
部屋へ戻ってきたラミュエールが、この部屋の状況を見て呟いた。ちらりとティル達の方を見ると、勇者のクズすぎる本性を聞いて、めちゃくちゃドン引きしている。
「あぁ。この島にどうやらクズ勇者が来るようでな……あ」
言ってから気づいたが、クズ勇者と言って通じるのは俺達三人のみである。今はティルたち三人にも通じるだろうが、ラミュエールにはちんぷんかんぷんだろう。
そう思って直ぐに訂正をしようとしたが――――
「クズ勇者……あぁ、醜い本性を分厚い仮面で覆って女性を取っかえ引っ変えしているあの人ですか。なら納得です」
「あぁ、そういえばラミュエールは俺の人生を夢で追体験してたんだったな」
「ですです。合ったら一発くらいぶん殴りたいと思ってたんですよ。聖女ブローをお見舞したいです」
シュ、シュ、と口で効果音を呟いて可愛らしく見えないクズ勇者に向かってブローをするラミュエール。逞しいなと思いながらラミュエールを見つめると、突如として脳が警笛を鳴らし始めた。
「……っ!?」
「こ、れは……!」
「まさか……この気配…!」
全員が感じ取れるほどの濃密な殺気。慌てて部屋の窓から海を覗くと――――青い海は無くなり、見える範囲全てが黒に染まっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今月は新作を二つ投稿したいと思います。楽しみにしててくだしい
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます