殴り込み

第1話

 このディルクロッドに向かっている悪魔を討伐するために、ディルクロッドの街の外で布陣を構えている俺、アリス、ルーナ、マリナ様の四人。この後、二重の意味で死ぬ事が確定しているため、少々遠い目で迫り来る悪魔の姿を見つめる。


「………あー」


「どうしたの?」


 俺が声を上げたのを見て、隣にいたルーナが声をかけた。俺はボリボリと頭をかいた。


「俺、あれの正体知ってるわ」






「グラシャ=ラボラスね」


「流石に知ってますね」


 メルジーナ低にて、ルドルフが展開している、ティルファが身につけている魔道具を介して見ているルドルフ、メルジーナ、メリウス、カレンなのだが、前者二人は正体に気づき、後者の二人は首を傾げた。


 その様子を見たルドルフが、説明に入る。


「グラシャ=ラボラス。太古の昔に起きた神々と邪神との戦いで、唯一神殺しを成した攻撃特化の悪魔だよ」


 グラシャ=ラボラス。


 ドラゴンのような大きな翼と、凶暴な狼の頭が二つある殺戮の悪魔である。


 厄介なのが、グラシャ=ラボラスが透明になれるという特性と、その牙に掠れでもすれば一瞬にして死に至るという神殺しの牙。


 それを説明したら、メリウスとカレンの顔が分かりやすく青ざめる。


「せ、先生はっ!先生は大丈夫なんですか!?」


「うん。全く大丈夫だと思うよ。だってティルファだし」


「そうね、二人は安心して眺めときなさい」


「どうしてお二人はそんなに余裕なんですか!?」


 狼狽えるメリウスと、心配で顔が青ざめているカレンに、ルドルフとメルジーナは言った。


「あれなら、僕でも倒せるしね」


「一撃だからよ。私なら」











「グラシャ=ラボラス……神殺しの悪魔ね」


「神殺しとだけ聞くと、色々とヤバいけど……まぁ対処方法は簡単だよ」


 それに、あいつはメリウスを狙ってるんだろ?つまり、俺らのことなんて眼中に無いからもっと倒すのが楽だ。


「今回はマリナ様とアリスの出番は残念ながらないな。悪いけど」


「いいのいいの。楽に終わるならそれはそれでいいしね」


 と、マリナ様が手を振って笑う。


「それで、一体どうするの?」


「簡単簡単」


 あいつなら俺一人で充分なので、三人には下がってもらうことにする。


「さて、グラシャ=ラボラスで一番厄介なのが、感知することがめちゃくちゃ難しい『透明能力』と、神さえも触れれば死んでしまうほどの呪いを持つ『神殺しの牙』。確かにこれだけ聞くとすごい様に思えるが――――」


 ――――逆に言うと、それだけしかアイツは攻撃の能力を持たない。


 次の瞬間、地面から銀色の鎖ジャラジャラと天に伸び、グラシャ=ラボラスの体をしっかりと絡めとった。


 捕捉完了。


「いよっと」


 手を振ると、さらに空中から銀色の鎖が飛び出て、さらにギチギチにグラシャ=ラボラスを縛り付け、俺は地面から伸びてる銀色の鎖を掴んで――――一気にこちらに引っ張った。


「GYARAAAAAAA!!!」


「うわぁ………」


 そのセリフを発したのが誰かは知らないが、思いっきり引いているのだけはわかった。


 空中から悲鳴を響かせながら地面に激突したグラシャ=ラボラス。起き上がろうとするが、鎖で全身ギチギチに縛られているため、魚が陸に上がってきたかのようにビチビチと震えるのみである。


「はい、おしまいっと」


 いやぁ、マジで楽勝だったなほんと。大体、グラシャ=ラボラスの性質上は、暗殺者向きだから、最初から姿を消して接近させるのが絶対いいと思うのだが………もしや、ガレオンとやらは相当頭が悪いのでは。


「向こうのバックが阿呆だったから、楽に終わったわね」


「こ、これ本当に神殺しをした悪魔なんですか……?」


 と、アリスがつんつんと気持ち悪い虫を木の枝で触るように、封印刀でグラシャ=ラボラスをつつく。


「それじゃ、今からマリナ様とルーナでボコボコにするから、アリスは封印しっかりよろしくな」


「あ、悪魔退治がこんな簡単に……」


「ダメよアリス。ここで今までの常識は通じないと思っていいわ」


 ちなみに、私はもう諦めたわ。というルーナの言葉を背後に、俺とマリナ様はグラシャ=ラボラスをボコボコにし始めた。


「あ、頭からは念の為やめてくださいね。牙に触れる可能性がほんのり上がりますから」


「はーい」

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