第12話

「……勇者の私が言うのもあれなんだけど、最近私の出番多すぎじゃない?」


 悪魔迎撃のために、今回はディルクロッドの街中ではなく、来る方向がひしひしと感じ取れるため、街の外で迎撃することになる。


 悪魔封印用の武器は既にメルジーナ様が用意してくださり、今回はアリスがトドメ役としてヒヒイロカネで作られた封印刀を持っており、マリナ様は悪魔ボコボコにする方に混ざってもらった。


「確かに、勇者の仕事なんてない方がいいですもんね」


 勇者の仕事が少ない=平和の証なのだから、ない方がいいに決まっている。


 そんな俺のセリフに「でしょ?」と言いながら地面に座り込んでいたマリナ様は、地面に「の」の字を描き始めた。


「それに、最近メルジーナ様も相手してくれないし、相変わらずメルジーナ様はメルジーナ様でお気に入りの人を探すし、会話という会話もなんか今日が初めてだし――――」


「お師匠様!?これから作戦なのに落ち込まないでください!」


 マリナ様に師事しているアリスが、急いでマリナ様のフォローに向かう。修行してもらってるのなら、何回もあのモードのマリナ様を見た事があるのだろう。対応が早い。


 あと、いつの間にお師匠様と呼んでいるのだろうか。


「………私も、メルジーナ様だけじゃない新しい恋人とか探した方がいいのかしら……温もりが恋しい……」


 不味い。マリナ様が本格的に落ち込み始めた。


「えと……だ、大丈夫ですよマリナ様!メルジーナ様もちゃんとマリナ様の事見てますって!」


 そして、ルーナもマリナ様の慰めに力を貸す。俺もやった方がいいだろうか。


「そうですよ。それに、マリナ様は特にメルジーナ様はお気に入りなんですから、大丈夫ですよ」


 メルジーナ様が一番マリナ様のことを気に入っている事は、メルジーナ様に師事してもらっているルーナが一番知っているだろうが、俺もそこそこ知っている。


「………ほんと?」


「そうですよ。この前なんてマリナ様が近くにいないと不安だーって言ってましたし」


 ちなみに、これ本当のことね。勇者に同行する前に聞いたことだから、大体一年くらい前だけど。


「……でも私、こうして一度不安になってら中々立ち直れないめんどくさい女だし、簡単に嫉妬するし」


 じ、自覚あったんですか!?アリスの顔を見たらアリスもそんな風な顔をしていたと思う。


「そ、そこも女の人の魅力ですよ!逆に、マリナ様位の美人にそこまで思ってもらえるなんて羨ましいくらいですよ!メルジーナ様はもっとマリナ様に感謝してもいいはずですよ!」


 いやほんとに。メルジーナ様はもっとマリナ様に感謝して、そのお礼とかでもうちょっと誘った方がいいと思う。だってマリナ様の病みモードマジで怖いし。


「ティルファくん……」


 マリナ様が顔を上げる。よし!俺たち三人の必死のフォローでなんとか立て直せたか!?


「ティルファくんは優しいね……」


「そんなことないですよ」


 だって、どんな悪魔がくるか分からない以上、マリナ様の実力は必要だから、こうして励ましてるだけで……本来だったらメルジーナ様に丸投げしてますからね?


「ねぇ、ティルファくん。もしメルジーナ様が私の事に興味をなくしたら、君のお嫁さんに――――」


「ごめんなさい、それはちょっと………」


「どうしてぇ!」


 いや………だって、メルジーナ様がマリナ様に興味を無くす未来なんて見えないですし、マリナ様愛が深すぎるからちょっと……。いや、美人なんですけどね?俺もう既にお嫁さん三人いるからこれ以上は勘弁して欲しいなぁ……って。


「私、ティルファくんなら別にいいのよ!他の男は反吐吐くくらい嫌いだけど、ティルファくんかっこいいし、頼りになるし、なんだかんだ私の事励ましてくれるし………」


「あははー」


「ちょ!?その苦笑はどういうこと!?」


「いや……あの、ほんと勘弁してください。俺を殺したいんですか?」


「どうしてそうなるの!?」


 どうしてって……そりゃ嫉妬に狂ったメルジーナ様がロンギヌスの神弓を笑顔でこちらに番えている姿が簡単に想像できます故。


「―――っと、来ますよマリナ様。その怒り、悪魔にぶつけて発散してくださいね」


「~~っ、もう!これ終わったらメルジーナ様に直談判しに行くからね!」


「ちょ!本当にやめてください!」


 その後俺確実に殺されますから!冗談抜きで!


「ティルファ?」


「ティルファさん?」


 肩を掴まれる。正確に言うと掴まれてはいないが、その声に含まれる感情と威圧が、そう錯覚させるほどに、二人がオーラを放っている。


「後で私達と」


「ゆっくり話し合いましょうね?」


「………Oh」


 何故だ……俺ちゃんと断ったのに……。


 絶望に目を曇らせながら空を見つめる。遠目から翼が生えた何かがこちらに向かってくるのが確認できた。

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