第7話

 メリウスは、琥珀色の瞳をぱちぱちさせている。エルフには美男美女が多いと聞いていたが……まさか、ここまでとは思わなかったな。


 腰ほどまである少し緑の混じったプラチナロンド。言葉には言い表せない程に整った顔立ち。そして、エルフ特有の人とは違う鋭く長い耳。


 一言で言えば、この子が本当にキシニョフの三割を焼き払ったとは到底思えないが、先程の魔法を見ればまぁ納得出来る。


「……あ、あなたは、何者ですか?」


「ん?」


 何者……ね。誰?ではなく何者か。まぁさっき自己紹介したもんな。


「そうだな……君と同じ、と言えば分かるかな?」


 そう言うと、メリウスはさらに大きく目を見開かせ、震える唇で「神童……」と呟いた。


 ちなみに、彼女のもはや特性と言ってもいい、魔法の自動発動についてなのだが、こうして近くで観察していれば大体の予測は着く。今は魔法を発動させないため、俺がメリウスの周りをおおっている魔力を吸い出しているのだが、何分量がすごい。普通の魔法使いがやると30秒もしないで容量がいっぱいになって、そのまま体の内側から爆散するだろうな。


 そして、彼女は俺が本当に神童かどうか確かめた後に、安心したかのようなニコリと笑うと――――


「良かった……やっと私を殺してくれる人が……」


「おう?」


 おいちょっと待て。今このエルフ姫はなんて言った?


「ごめんなー。ちょっと先生さ、今さっき一瞬だけ耳が腐ってて聞き取れなかったわ…………もう一回言ってくれる?」


「やっと、私を殺してくれる人が―――ひうっ!?」


 全くもって聞き間違いじゃないということを確信した瞬間、俺はメリウスの頭に手を置いた。


「おい、なに初対面のやつに殺人…しかもキシニョフの姫を殺させようとしたんだ」


「だ、だって!私は神童だから普通の人の魔法じゃ私は死ねないんです!一族や国にも見捨てられた私なんて生きている価値が―――」


「うるさい。とりあえず少し反省しろ」


「こ、こめかみぃぃぃ!!」


 なんだコイツ。最初はオドオドしてたから少し気弱なお姫さんなのかなとか思ってたけど、俺が少々の力でこめかみを掴んでいるのだが、普通痛い時に「こめかみぃぃ!」とは言わない。


 みぎゃぁぁぁ!と聞こえてきたので一旦手を離す。手を離すと、メリウスは少しふらふらと床に尻もちを着いたあと、メソメソと泣き真似をし始めた。


「うぅ……私、初対面の人に傷物にされました……私の方が歳上なのに」


「精神年齢子供に歳上言われたくないわ」


 この種族的年齢詐欺め。あと傷物にされたとか外聞の悪いこと言うんじゃない。


「ていうか、そろそろ気付けよ」


「え………あ!」


 俺がそう言ったことにより、メリウスは立ち上がるとすぐ様周りを見渡したり、手を見てグーパーグーパーしたり、目を閉じて何かを念じて―――お、魔法が発動したな。


 何故かこっちに飛ん火の玉が飛んできたのでとりあえずペチンとたたき落とす。


「どうだ?」


「嘘……魔法が……暴走しない……?」


 メリウスは、どこか期待を孕んだ目で俺を見上げる。


「先生……あなた、一体何を……」


「言っておくが、お前が魔法を暴走しないように出来るのは俺の近くにいる時だけだ。それ以外の時は普通に暴走するぞ」


 先程、俺が扉を開けただけで俺に向かって魔法が無意識的に発動してしまう程に、魔法との感受性が高いんだ。普通だったのなら、俺がメリウスのこめかみをを握り潰していれば、それこそ俺を本気で殺すような魔法がぶっ飛んできたのだろうが……ま、それをどうにかするのが神童だ。


 今は俺がメリウスの周りに漂っている魔力を吸い取っているから問題は無いが、離れてしまうと直ぐに彼女は先程と同じ状態になり、魔法が暴走する。


「そう、ですか……やっぱり、私はこのまま死ぬしか……」


「おいこら。またこめかみ握るぞ」


「ひぃ!で、でも!こればっかりは仕方ないんです!私が死ぬことで、皆やお父様たちが怯えないで暮らせるようになるなら、私なんて―――」


「おい、そろそろ本気でブチギレるぞ甘ったれ姫が………死んだ方がいい?お前、本気でそう思ってんのか?」


 それに、さっきお前は魔法が暴走してないと気づいた瞬間、目に光が戻っただろうが。つまり、心の奥では生きたいって思ってることだろうが。


「っ!お、思ってます!私は姫なのに国を滅ぼそうとした大罪人です!姫として、そして森の守護者として!この命を断つことは当然のことです!」


 …………イラつく。こんなにイラついてきたのはあのクズ勇者のところにいた時以来だ。イラつきの方向は別ベクトルなのだが。


 気に入らない。そんなことを言うコイツのことも……そして、コイツにこんなことを言わせてしまった周りの環境も全て、全て気に入らない。


「おい」


「な、なんですか!例え先生に言われても心を変えるつもりは―――」


「座れ」


「―――無いです………え?」


「いいから、座れ」


 予想とは違うことを言われたのか、ぽかんとした顔でおずおずと唯一用意されていた席に座るメリウス。俺も教壇の方から椅子を1つ持ってきてから、メリウスの目の前に座る。


 決めた。絶対に救う。コイツは何としても、ありとあらゆる手を使ってでもコイツのことは救う。


 それが、俺がここに来て教師の最初の仕事だ。



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いつものガチャ報告会見て、よく160連とか70連とか引けるなーと思いながらコメント見てます。


………もしかして魔法のカード、使ってます?

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