第二章 歪(ゆがみ) 肆
「あっ!!?」
わたしは自分の身体を起こした。
今、わたしがいるのは自分の家のリビング。
ーーーーそうだ!わたしは今の今までリビングにあるソファの上で寝ていたのだ。
「・・・起きたようだな」
横で寝ていた真人(シント)も自分の身体を起こし、わたしの方に向いた。
「真人・・・」
真人はわたしを制した。
「何かあったようだな。その面を見ればわかる」
「・・・ごめん。起こした?」
「ずっとうなされていたのが聞こえていたから問題ない。さて・・・」
真人は例の刀を手に取るとわたしに投げつけた。
「・・・え?」
わたしは顔から血の気が引いていくのを感じた。
「生憎だが誰かの夢の中に入ると言う高等な芸当はオレにはできない」
「・・・まさか」
嫌な予感がした。
「困ったことにそいつはできるんだ。そいつを抱いたまま寝ろ」
ーーーー無茶言うな!!自分で動く不気味な刀を抱いて寝るとかそんなことできるかぁ!!
と言いたいがその気持ちを抑えた。
「・・・さすがに寝れないんだけど」
「目を瞑って横になれば寝れる、いや、寝ろ」
ーーーー無理と言いたいが、背に腹は変えられない。
「もしも、何かあったらどうするの?」
わたしは念のため確認した。
「・・・オレがなんとかする」
真人は少し考えたのだろう。ちょっと不安だ。
「一応信用できるやつだ。安心しろ」
とにかくわたしの不安を払拭させたいのだろう。
わたしは言われるまま刀を抱き、横になった。
そして、目を閉じた。
わたしのおでこからほほにかけて暖かい空気が優しく撫でた。
そして、そのままわたしは眠りに落ちた。
気がついたら、初代天皇が存在した時代からあるような遺跡の入り口の前にわたしは立っていた。
ーーーー遺跡と言う名の洞穴といった方が正しいだろうか?
ここは考えても仕方ない。前に進むのみである。わたしはそのまま洞穴の中に入った。
洞穴の中は広い空間。わたしの腰くらいの高さの燭台がまばらといえ、それなり整列されていた。
燭台の灯りに照らされた異様な存在。黒くて大きな狼とおぼしき犬科の動物だ。
「よう、お嬢ちゃん。こうやって話をするのは初めてだな」
その黒い狼はわたしに話しかけてきた。
ーーーー流石、真人の使い魔と言いたい。目付きが凄く悪い。真人以上だ。
「ここ最近、聞こえる声の正体はあなただったの?」
「さぁ?真実は闇の中だ」
狼は応えた。
「まぁ、オレサマがここに来た以上、お嬢ちゃんに取り憑いたやつをやっつけにいかないといけないのだが・・・・失礼」
ーーーーワォーン!!
狼はわたしに吠えかかった。
なんかの術をかけたのだろう。わたしの身体は小さくなり五歳の姿になっていた。
「その姿のままだとこっちが不便だからちょっと小さくなってもらった」
「そうなんだ。ちゃんと説明してくれる?」
わたしは五歳の姿のまま応えた。
「もちろんだ。旅は道連れ、世は情けって言葉知っているか?」
「うん!聞いたことがある」
わたしはそう応えると、狼はニッと笑った。
「そりゃよかった」
狼は跳ね上がり天井に貼り付いた。
「・・・この辺だな」
狼は何か口に咥え、頭をぶんぶん左右に振り回した。何かをひっぱり出しているようだった。
「うわぁー!!!」
わたしの目の前に男の子が落ちてきた。
ーーーーシンだ!さっき、わたしを助けてくれたシンだ!
「シン!!」
わたしは駆け寄った。
「クー!?」
シンは目をぱちくりさせた。
ーーーー間違いない。シンだ。あの頃、シンはわたしのことをクーと呼んでいた。やっぱり、シンだ。
「また会えた!!」
わたしは嬉しさのあまり声をあげた。そして、勢い余ってシンに抱きついた。
ふと見ると狼は天井から降りて、シンの横でおすわりしていた。
「さて、ボウズ。お前にも手伝ってもらうぞ」
狼はシンに語りかけた。
「ねぇねぇ、狼さん。なんでシンはこんなところにいるの?」
厳密に言えば真人の刀なんだろう。
ただ、ややこしいのでわたしは狼さんと呼ぶことにした。
「シン君は悪いやつに捕まっていたのだが、オレサマの主の凄い能力(ちから)によって助けられて今ここにいるわけだ」
「なるほど。すごーい!」
ーーーーなんかよくわからないけど納得できる。
「そんな説明で納得できるの?」
「こういうのは理屈じゃないのよ。なんか、そんな気がする」
シンの疑うような言葉にわたしはあっさり切り返した。
シンは結構慎重な人だったのだ。こう応えるのは仕方ない。
「お嬢ちゃん、わかっているじゃないか。よし!特別に今回のこと以外でお願い事を聞いてやろう!」
「え?いいの!?やったぁ!!」
わたしは思わず喜びの声をあげた。
「待った。そういうことをしている場合じゃない」
シンは冷静だった。
「そうだけど、ここは素直になった方がいいかなと」
「身体が子供だから、仕方あるまい」
「おぉ!狼さんはわかるの?」
「まぁな。この姿になってもらった理由は2つある」
「わかったぁ!シンに手伝ってもらうにはわたしが大きいままだと困るから!」
わたしは思わず元気よく応えた。
「フフフ。確かにそうかもしれんな」
「かもってことは違うと言いたいの?」
シンは笑っている狼さんに対して冷ややかに返した。
「そうだ。これから行くところに問題がある」
狼さんはわたしの方に向いた。
「まず、ここはお嬢ちゃんの精神世界だ。お嬢ちゃんの案内がないとヤツのところに辿り着けない」
「ふむふむ」
わたしは頷きながら話を聞いた。
「お嬢ちゃんに一つ聞きたいがあまりにも昔の記憶をオレサマに見せて大丈夫か?」
「つまり、真人と知られてもいいってこと?大丈夫だよ!」
「ならいい」
狼さんは四本足で立ち上がると言った。
「お前ら!オレサマの背中に乗れ!行きながら説明する!!」
「はーい!!」
わたしは真っ先に狼さんの背中に乗った。
ーーーー案外ふこふこして気持ちいい。
「ちょっと待って!クー!!」
「シン、どうしたの?」
「普通にあっさり・・・もう少し慎重になった方が・・・・」
「最近、こういうのが続いているから考えるのをやめた。前に突き進むのみよ!!」
「嬢ちゃん、なかなか根性すわっているじゃねぇか。ますます気に入ったぜ!」
シンはなんとも言えない顔でわたしの後ろに乗った。流石に置いて行かれるのは嫌なのだろう。
「出発ー!!!」
わたしの掛け声とともに狼さんは飛び上がった。
目の前の空間が裂け、キラキラしたものが見えた。狼さんはその裂け目に飛び込んだ。
キラキラした虹色の不思議な空間。
その中を駆けながら狼さんは説明を始めた。
「今、お嬢ちゃんの心の中にはお嬢ちゃんを支える強いやつが三人いる。そのうちの一人がオレサマの背中に乗っているシン君」
「で、もう一人があなたの主ってわけね」
「そうそう、あの愛すべきバカだ・・・おっと口が滑ったな」
ーーーー愛すべきバカって・・・・真人(シント)も結構大変だろうな。
「だが、一番の問題はこの三人目だ」
狼さんは道中で見えた裂け目に飛び込んだ。
飛び込んだ先に広がる景色は夜の雪山。針葉樹が数多く連なっている
黒い服を纏った男が何かを抱えて走っている。後に何かいないかと気にかけながら。
ーーーー狼さんが問題になると言う理由がわかった気がする。
「狼さん、あの人が狙われるのね?」
「そうだ。行くぞ!」
狼さんは男の人の近くに着陸した。
わたしたちは身を潜めながら男の人に近付いた。
「フハハハハッ!見つけたぞ!キサマにはここで死んでもらうぞ!!」
さっきの馬頭が男の人の前に現れた。
「くっ!追手か!?」
男の人は下がって距離を取った。
「そこの卑怯者!!お前の相手はこっちだ!!」
シンの叫び声と同時にわたしたちは飛び込んだ。
「・・・お前たちは?」
「いいからここは逃げてください」
わたしは男の人に言った。
「すまない!恩に着る!!」
男の人はそのまま走り去ろうとした。
「なにをしている!?逃がすものか!!」
化け物が男の人に襲いかかろうとした。
「させるか!!」
狼さんは化け物の足に噛みついた。
ーーーー端から見ていると凄く痛そうだ。
「ぐはっ!!何をする!!?」
「それはこっちの台詞だ!ゲス野郎!!」
狼さんは離れて、化け物との距離を取る。
ーーーー流石!狼さん!真人の使い魔のことだけはある!口が悪い!!
「おい!!ボウズ!ちょっと手伝え!」
狼さんはシンの横に立った。
「あと、嬢ちゃんは隠れろ!」
「はーい!」
わたしは返事をすると木の影に隠れた。
「手伝えってどうすればいいんだ?」
「オレサマの言う通りにしろ」
シンは頷くと狼さんは霧のような姿になり、シンの身体を覆った。
そして、霧が晴れるとシンは大人になってた。
ーーーーと言えばいいのだろうか?
黒装束を纏った背の高いガタイのいい男。
腰には小太刀と呼ばれるものだろう、少し短めの刀を差してある。
顔には黒い狼の面。髪は当然だが短い。
『さぁ!出番だ!腰にあるそいつをあの化け物にぶっ刺せ!』
頭の中に狼さんの声が響く。
シンだった男はこくりと頷くと手早く刀を抜いた。そして、化け物に駆け寄り、そのまま化け物の腹に刺した。
そして、そのまま後ろに下がった。
ーーーー息を飲む隙すら見当たらない一瞬の出来事。わたしには化け物に駆け寄るところは見えなかった。
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!!何をする!!?」
『それはこっちの台詞だ!!ゲス妖魔!!!オマエなんぞ、このオレサマが喰ってやる!!!』
化け物に刺さった小太刀から黒い煙が吹き出し、化け物を包み込んだ。
「ぐぉぉぉぉ!!!」
その叫び声が化け物の最期の言葉となった。
化け物が消えたと同時にシンはわたしの記憶の五歳の姿に戻った。
「・・・・うーん」
わたしはひたすらシンを見つめた。
「クー、どうしたの?」
シンはわたしの行動に疑問を覚えたのだろう。
「だってさ、シンって仮に大人になったらあんな感じになるんだなって」
「先の話なんだよね?」
「今のわたしにとっては今の話なんだ。なんかさ、いつも近くにいたみたいな感じになってさ。ちょっと不思議だなって」
シンは目をぱちくりさせた。
「オレはクーが何を言っているのかよくわからないけど」
ーーーーそりゃそうか。今のわたしの周りを知らないから。
「何て言うか仮説からだんだん確信に変わるような?」
「嬢ちゃん、そろそろ戻るか」
狼さんは言った。
「だね。もう悪いヤツはいないんだよね?」
わたしは狼さんに尋ねた。
「ここらには悪い気配はない。オレサマが喰ったからな」
狼さんは黒い霧をゲップをするように吐いた。
「・・・これは共食いじゃないの?」
シンは恐る恐る口を開いた。
「事細かに言えば違う。共食いじゃねぇ」
狼さんはシンに対し、言葉を返した。
「ネズミも犬も猫も人間も哺乳類って言う感じに近いの?」
わたしは驚いているシンの代わりに言葉を発した。
「そんなもんだ。気にするな」
狼さんの言い分は最もだろう。
「そろそろ戻ろうよ。あまりここにいると凄く嫌な事を思い出しそうになるから」
わたしは提案した。
「だな。行くか」
わたしたちは狼さんの背中に乗った。狼さんはもとの場所に向かい、駆け出した。
ーーーーあ!!!そう言えば!!
わたしは狼さんが空間を駆けている中、口を開いた。
「あっ、思い出した!あの男の人、シンのお父さんだ!あの人がさっき抱えていたのは凄く小さい頃のわたし」
「え?父さん!?父さんがクーを!?どういうこと!??だって、クーには両親がいるんじゃ・・・」
混乱するシンに対してわたしは説明した。
「わたし、本当は孤児なの。今のお父さんとお母さんは本当のお父さんとお母さんじゃないの」
シンはわたしが説明したことを理解できないのか黙り込んだ。
「お嬢ちゃん、今の話、してよかったのか?」
「まぁ、そのうち話すつもりだったから今言った方がちょっと楽かなって。今の話、実は他の人にするの初めてなんだけど」
「····ずっと隠してたの?」
シンは驚きでそれどころの騒ぎじゃないみたいだった。
「違うよ。言う必要がなかったの。だって、今わたしの目の前にいるシンは五歳の子供だよ。知らなくて当然。知る必要はないもの」
「でも、今は違う。上手くは言えないけどって、言いたいわけか?」
「狼さん、そんな感じ。ねぇ、お願いがあるけどいい?」
「なんだ?言ってみろ」
「今のわたしと同い年のシンはどこにいるの?」
「ふむ。なかなか直球的じゃねぇか?このオレサマに頼む意味はわかってるのか?」
「おっと、あなたの主さんには内緒よ」
「そういうことだろうと思った」
「え?どういうこと??」
シンは状況を読めないだろう。わたしは事情を説明した。
「実はわたし、ノースユーロを飛び出して日本に来たの」
「・・・・え?」
シンはますます話が飲み込めないのだろう。目を丸くした。
「理由はまぁいくつかあるよ。今は言えないかな」
「そのうちの1つがシン君に会うことってワケか」
「まぁ、そういうこと」
わたしはちょっと照れ臭くなった。
「でね。なかなか見つからないから困ってるのよ。せっかく同じ学校に通っているのにさ。もうね、どうなっているのかそろそろ捕まえに行こうかなと思っているくらいよ」
「・・・クーって、思ってたより大胆」
「そう?勢いがなければそこまでできないけど」
「お嬢ちゃん、アテはあるのかい?」
「・・・・ふふーん!わたしを誰だと思ってるのよ?」
わたしは得意気に笑った。
「聞かぬが策はあるわけか」
「まぁね」
「そうだな、対価さえ払えばオレサマはいつでも嬢ちゃんの頼み事をきいてやろう」
「え!?ホント!!?」
わたしは狼さんの言葉に対して喜びの声をあげた。
「ちょっと待って!クー!そいつ、頼み事を聞くと言ってとんでもないものを要求するかもしれないよ!」
焦るシンの声にわたしは冷静に返した。
「大丈夫。その時はそのご主人にぶっ飛ばして貰うから」
シンはそのまま黙った。
ーーーーまぁ、1つくらいならいいかもね。
なんだかんだ言ってたらピンクの雲が浮かんでいる空間に出た。
ここは意識の浅いところなんだろう。
「さて、着いたぞ」
狼さんは雲の上に着陸した。わたしは、そのまま飛び降りて、狼さんの前にまわった。
「狼さん、ありがとう!外にいるあなたの主さんにちゃんとしてたよと言うよ」
「おぉう、それはありがてぇ。あんまり信用されてないからなァ」
ーーーーなんとなくわかる。口の悪さもあるだろう。
だから、少し躊躇したのだろうなぁ。
「んじゃ、もどるのね?」
「あぁ。オレサマは戻るがこのまま寝るか起きるかは嬢ちゃんの自由だ」
わたしは雲の上に寝転がった。
ーーーーふわふわしていて気持ちいい。
そして、狼さんの気配がわたしから離れていくのを感じた。
わたしは気持ちよさのあまりそのまま眠ることにした。
意識が微睡み、暗い空間が目の前に広がる。
その中から話をしている声が聞こえてくる。
「何を考えているんだ!?」
「何のコトだ?ボウズ」
「とぼけるな!!もしものことは考えなかったのか?と聞いているんだ!!」
「あぁ。そこか。抜かりない」
「違う。オレたちはあの子に嘘ついて騙しているんだぞ。それでいいのか?」
「・・・・・フム。そもそもさっさと言わない方が悪い」
ーーーーあれ?狼さんとシンだ。何か話している。
シン、なんか怒ってる??なんか、おかしい。
「あの時の目、忘れられるわけないだろ!・・・いいか、これは命令だ。あのことは言うな」
「・・・そこまで言うなら仕方あるまい」
二人の会話はそこで終わった。
ーーーー多分、狼さんのことだから、言わなきゃOKって思ってたりして。
目を開けるとわたしは不思議なところにいた。
全体的にオレンジがかった色合いをしている。どこかの通路だろう。なんとなくだが、遊園地のような気がする。
ーーーーなぜ、こんなところにいるんだろう?まぁ、夢だし気にしなくていいか。
わたしは探検がてら通路を歩き出した。
「悪い子、みーつけたっ!!」
「へ?」
男の声がした。
聞いたことない声だ。
突然視界が低くなった。小さい何かに変えられたらしい。
「え?どうなってる??」
わたしは顔を触って、両手を見ている隙に首根っこを掴まられ、何かに入れられた。
両手には肉球、顔は毛むくじゃら。恐らく何かの動物に変身させられたのだろう。
「ここはどこ!!?出して!!元に戻して!!」
わたしは叫んだ。
人間の言葉を話せるのは多分夢の中だからだろう。
「こらこら。ここはキミの領域じゃないよ。迷い込んだんだね。キミはオイラの趣味でウサギに姿を変えさせてもらったよ」
「なんてことをするの!!?元に戻してー!!」
わたしは叫んだ。
「目が覚めればもどるから大丈夫」
「そういう問題なの!?」
「まぁ、オイラは悪いやつだけど、キミに危害を与える気はない。本来の居場所に戻ってもらうだけさ」
わたしを袋に入れた人物(というべきかどうか怪しいが)はなかなかの変わりもののようだ。
「ここはどこ?あなたは?」
わたしは思った事を口に出した。
「ここは・・・えーっと主の領域って言えばいいかな。オイラはとってもわるいやつ。うっかり人間をやめて軽く百年は経ってる」
「・・・主って真人(シント)のこと?」
「そうだよ。認識はしてないけど」
ーーーーなんかよくわからないけど気さくな人物(?)である。
「悪いやつってどういうこと?」
「オイラは、主と主の周りの人間に危害を与えるやつに悪い事をするのが大好きなやつなのさ」
「と言うことは・・・」
「ここからは内緒♪なにも言わないよ♪」
ふと近付く気配に背筋が凍りついた。
「すまんな。相棒」
ふと聞き覚えのある声がした。
ーーーーあれ?狼さんの声だ。もしかしなくても知り合い?
「いえいえ。気になさらず。こっちも暇だったし」
「ところで、その手に持っている袋はなんだ?」
「これ?これは迷子の悪い子兎ちゃん」
ーーーー人をそんな風に言うな。
「ほう・・・今、迷子のって言わなかったか!?」
「そーだよ」
「おい!!そいつをオレサマによこせ!!」
「やーだよ!これはオイラが見つけたの!オイラがなんとかするの!」
ーーーーなぜ、そこでムキになるのだろう。よくわからない。
「・・・ちッ」
狼さんが舌打ちした声が聞こえた。
「そろそろだね」
「あぁ。離れるか」
なんか身体が宙に浮く感じがする。
よくわからないけど跳んで移動しているのだろう。
「見てみたい?」
しばらくすると優しく囁く声が聞こえた。
「何を?」
わたしは声の主に問いかけた。
「今から始まる儀式。まぁ、主がヤツにとりつかれた時のためあらかじめやっていること」
「危ないの?」
「まぁね。でも、オイラに捕まっていれば大丈夫。離れたところから見るだけだし」
「・・・いいの?」
「ときどきオイラの暇潰しの相手してくれるならね」
ーーーーよほど暇なんだろう。
わたしは軽い気持ちでOKした。
わたしは抱き抱えられたまま袋から顔を出し、外を見つめた。
目の前に広がる景色は思い出の遊園地。
ただ、静かに存在していた。
突如広がる赤い炎。
それには強い意志と感情が見えている。
その炎は無人の遊園地を焼き払い、そして何事もなく元に戻るだろう。
しかし、わたしは問いかけたかった。
ーーーーずっと独りぼっちでいいの?
遊園地を焼き払う炎は優しく、そして寂しい色をしていた。
しばらくすると燃え盛っていた炎は消えた。儀式は終わったのだろう。
わたしは袋の中に潜った。
「じゃ、キミの領域まで送っていくよ」
わたしは男の言葉に頷いた。
しばらくするとわたしは宙に放り出されていた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
わたしは優しく受け止められた。抱えられたのだ。
ーーーーいわゆるお姫様だっこの状態だった。
そして、地面に降ろされた。
「事情はわからんが、一体どういうことだ?」
わたしを受け止めたのは真人だった。真人の言葉にわたしは返した。
「いやぁ。ついつい」
わたしは苦笑いをした。
これは少し前の話。別段大したことはない話だ。
ここでわたしは目が覚めた。
リビングの閉められたカーテンの隙間から陽の光が差し込んでいる。
なんと言うか、本当にあの化け物がわたしの心の中にいた事がまるで夢のようだ。
真人(シント)はわたしの寝ていた横で気持ちよさそうに寝ている。
多少散らかっているがしかたないだろ。
わたしは起き上がり、キッチンに向かった。
ーーーーまさか朝からサンダーストームが発動するとは思わなかったのはここだけの話である。
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