第二部 16- 話
第16話 7月24日(土)
一層夏の盛りを迎えた週末がやってくる。
スマホで確認したところ、全国的に快晴の日々が続いており、平均気温が前年度を軽く越していた。海水浴やプールが先週あたりから解禁されているらしいが、このご時世では客足はうまく伸びていないとか。なんとか。
まだ完全に夏休みに入ったわけでもないのに、
事前に唯から指定されていた銀の時計付近で俺は二人を待っていた。約束の時間まであと十分ちょっとってところか。遅刻したら何されるかわかったもんじゃないと急いできたのだが、思ったより早く到着してしまったのだった。
「つーか、今日どこに行くかすら知らされてないってどうなんだよ」
ラインで送られてきたのは時間と集合場所だけ。どこへ行くか、何をするか、まったく知らない。もしデートじゃないにしろ、もう少し情報開示してもいいじゃない。
することもなくスマホをいじる。時折顔を上げて周囲を見渡しても、それらしい人影はまだ見えなかった。
「おっ」
ブブっとスマホが震えたので、二人からだろうと思いラインを開いた。駅に着いたよーみたいな報告だろうと予想して開いたのだが、それは完全に裏切られた形になった。
唯『ごめん、今日は午後から部活あるの忘れてた……。サボったら怒られるよぉ。悪いけど、今日は七海と二人で行ってきてね。今度あたしとユウの二人で行こ―ね♡』
七海『雅勇くん、本当にごめんなさい。急遽バイトからシフトに入ってくれって頼まれて、今日行けなくなりました。埋め合わせはきちんとするから、品川さんと二人で楽しんできてください』
「うそだろ……」
まさかの二人同時からドタキャンのお知らせだった。理由が二人らしいもので納得する反面、「そっちから誘ったのになんだよ」という苛立ちが芽生えてきた。
はあ、とため息が漏れる。
昨日は強制的に約束させられたわけだけど、ちょっとだけ楽しみにしていたのに。三人で楽しく遊べたらいいな、なんて考えていた俺の純情を返せ。まったく……どうしたもんか。
どうせ家に帰ってもゲームやアニメを見て、空いた時間に課題を進めるくらいだ。いっそのことこのまま一人で少しぶらついてみるか。誰か友達と会えば、それはそれで合流してもいいかもなぁ。
昼食は既に済ませてあるので、とりあえず近くのビルの中にある本屋にでも行こうと決めた。新刊をちらっと見て、面白そうな漫画があれば買って帰ろう。そんなまったりした休日でもいいか。
那賀屋駅を出て、ロータリーを横目にまっすぐ突き抜けて大きな横断歩道を渡る。
一番栄えている那賀屋駅周辺には多くの雑居ビルが立ち並び、それに伴い商業施設がこぞって集まっている。交通の便も非常によいため、必然的に人が集まりやすい。その中でもひときわ目を引くものがあった。
俺より少し年上に見える歳の女の子が数人の男に囲まれていた。和気あいあいと話している雰囲気ではなく、男たちが一歩的に迫っている。女子の方は明らかに作り笑いを浮かべて、どうやら誘いを断っているらしかった。
こんな昼間からよくやるもんだぜ。夜なら全然あっても違和感のない行動だったけど、さすがにこれは目立つだろ。
傍から見ればカツアゲしている風にも見えなくもない。巻き込まれないうちにさっと離れるか。そう思って少し歩くペースを上げようとした時、その子がちらっと俺の方を見た。やべ、今目があったか……?
悪いけど、助けを求められても俺はそこに入る勇気はないぞ……。まあ、最悪警察にでも駆け込んでもらって――。
「あーあー! ちょっと! 待ってたんだよ?」
「いっ!」
囲む男たちを押しのけて俺の方へと女の子が駆け寄ってくる。
え、なんで、今スルーしたじゃん! しかもなんか知り合いを装ってきている分、さりげなく俺をだしに逃げる気だろこれ。
「え、ちょっ、あの」
「いーから! 私に話合わせて!」
腕をグイッと引っ張られてテンパる俺の耳元に小さな声で話してくる。そして遅れてちんたら寄ってきた男たちに話しかけた。
「ごっめーん。私、この人と待ち合わせしてたんだよねー。悪いけど、また今度にしてね」
「おいおい、
「いや、オレらが先約じゃーん」
「つかなに、そいつカレシ?」
「え? あーうん。そーだよ?」
「ちょっと待てよ!」
ナチュラルに彼氏役にされて面倒ごとに巻き込まれるつもりはないぞ。
俺が否定したことで男たちは怪訝そうに眉をひそめた。改めて格好を見ると、かなりチャラそうな奴らだ。金髪にピアス、派手めな服装……っていかにも遊んでそうな感じだった。普段なら絶対に関わりたくない部類の人間。じぃーっと見つめられて、俺は身構えてしまう。
「ハハ、さすがに冗談だろ。こんなやつがカレシとか趣味悪いってー」
「それそれ。さすがにコレはないわー」
俺を指さしてゲラゲラと笑う。無性にイラっとしてしまった――だけど堪えた。口は災いの門っていうくらいだ。言い返すことも我慢。
俺から手を出してしまえば、それはもう傷害事件に発展する。たとえこいつらからタコ殴りにされようとも、絶対にやり返してはいけない。
ふぅーっと静かに息を吐いて何とか冷静になるように努めた。唇を噛みすぎて血が出るかと思った。
その様子が伝わったのか、李衣菜と呼ばれた女の子は俺の手を引いてその場から離れようとする。
「もう先行くね! じゃあー」
「おい、ちょっと!」
さっきまでにこにこと振りまいていた笑顔が消えたことに戸惑い立ち尽くす男たちを置いて、すたすたと歩いていく。困惑した俺はただ手を引かれるまま、ついていくことしかできなかった。
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