プリブレジヌイの戦い2

 大陸歴1660年11月25日・ブラミア帝国・プリブレジヌイ郊外


 首都アリーグラードで武装蜂起したナタンソーン達は “人民革命軍”と名乗り、皇帝を追跡してプリブレジヌイ近郊まで迫っている。しかし、ナタンソーンは先ほどの手痛い敗北に頭を悩ませていた。


 革命軍のリーダーたちが集まるテントの中で会議が行われていた。

 革命軍の数は多く、元兵士もそれなりの数は居るのだが、大軍を率いたことがあるものが全くいない。指揮系統がほとんど無く全軍に命令が伝わりにくい状況で、先ほどの戦いの様子では、今後も勝ち目は全くないとしか思えない。

 また、食料の事も深く考えていなかった。すでに食料が不足気味だったので、首都へ食料補給の要請を出した。さらには、近くの小さな村などから強制的に食料を徴取することを検討している。


「このままでは、皇帝を追い詰めるどころか、こちらが危ない」。

 ナタンソーンは考えている危惧を口にした。

 他の革命軍のリーダーたちからも、あまりいい案が出なかったが、会議の終盤、インシェネツキーというリーダーの一人がある提案をした。先日、革命軍が首都を掌握した時、城の牢から捕えられていた政治犯を解放したが、彼は、その時の一人だった。

 インシェネツキーが発言をする。

「牢に軍の上級士官が捕えられていました。その人物に助けを求めればどうでしょうか?」

「その者は、なぜ捕えられているのだ?」

「二年前に命令違反をして捕えられたと聞いています。それで、その人物に協力を求めれば?」

「捕えられているといっても、帝国軍の士官だろう? 我々に協力するのか?」

「解放する代わりに、我々に協力させ、もし、帝国軍を撃破できたなら、今後も指揮官として厚遇すると言えばどうでしょうか?」インシェネツキーは話を続けた、「それに帝国軍の士官でも、こちらに着くことで厚遇されるということが伝われば、我々の味方に付く者も増えるかと思われます」。


 ナタンソーンは少しその内容を反芻してみた。確かに若干ではあるが、既に士官クラスや貴族も革命軍の側についている。

「確かに、帝国軍の上級士官がこちらに付けば、我々の戦力の強化につながるし、逆に言えば帝国軍の力を削ぐことにもつながるだろう」。

 確かに、このままの状況では革命軍が敗退してしまうだろう、軍の統制の強化は火急の要件だ。ここは藁をもつかむ思いでナタンソーンは決断した。

「わかった、それで、その者に話をしてくれ。もし、承諾するのであれば、ここまで連れて来て指揮を執ってもらう」。


 引き続き打ち合わせの途中、偵察に出していた者がテントにやって来た。

「国境付近で駐屯していた帝国軍がこちらに付くということで、その何人かがこちらを訪れてきました」。

 ちょうど良いタイミングだ。今、戦闘に慣れている者が加わるのは非常に助かる。

「わかった、ここへ呼んでくれ」。


 しばらく待つと帝国軍の制服に身を包んだものが三名、テントに案内されて入って来た。

 ナタンソーンと革命軍のリーダーたちは立ち上がり挨拶する。

「私はここのリーダーのヴィクトル・ナタンソーンだ」。

「我々は国境沿いに展開していた第四旅団に所属していた者です。私は現在、指揮を執っているスラビンスキーです」。そういうと敬礼をした。「我々の部隊もほとんどが首都北部の出身者です。あなた方と合流してさせてください」。

「兵士の数は?」

「二千五百ほどです」。

「いいだろう。歓迎する。君にはそのまま部隊を指揮をお願いしたい」。ナタンソーンは他のリーダーたちに確認をする。「いいかね?」

 リーダーたちは口々に「意義なし」と返事をした。

「では、座り給え。現状を説明したい」。


 ナタンソーンは、スラビンスキーたちが座ったのを見て説明を始める。

「こちらの戦力は二万人程度。今、帝国軍はプリブレジヌイにいる。首都から逃げ込んだ重装騎士団と皇帝親衛隊が数百いるようだ」。

「プリブレジヌイはペシェハノフ率いる第六旅団ですね。首都から逃げて来た重装騎士団はおそらく、総司令官のルツコイでしょう。第六旅団は六千人ですから、全部合わせて多くて六千五百人といったところでしょう」。

「こちらの三分の一か」。

「しかし、総司令官のルツコイという人物は戦上手です。油断は禁物です」。

「うむ。先ほども重装騎士団と戦いになったが、こちらは全く手が出なかった。軍を指揮した経験のあるものがいないので、うまく戦いができない」。

「君は二万の軍を率いることができるか?」

「私は下級士官ですので、一緒に来た二千五百でもなんとか精一杯です」。

「そうか」。ナタンソーンは残念そうに答える。「首都で牢に捕らえられていた指揮官を説得して指揮をさせようと思っている」。

「それはいい考えですね」。

「そういえば食料はあるかね?」

「我々の二千五百人の分は当面あります」。

「余分は無いか?」

「まさか二万人の分ですか? それは、さすがにありません。我々は兵站などの補給はプリブレジヌイから得ていました。ですので、プリブレジヌイを落とさない限り、我々の食料も早晩尽きてしまうでしょう」。

 食料の件は致し方ない。しかし、首都に補給の依頼を掛けたので、おそらく何とかなるだろう。


 ナタンソーン達は指揮官の説得の結果を待つまで数日間待機することになった。食料は節約する。

 そして、インシェネツキーはすぐに首都に向けて出発し、牢にいる指揮官の説得に向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る