プリブレジヌイの戦い1

 二日後、イリーナとクララは再びオレガ・ジベリゴワの家を訪れて、話の続きを聞く。


【50年前】


 大陸歴1660年11月24日・ブラミア帝国・プリブレジヌイ


 ルツコイは望遠鏡で地平線を見る。砂埃と近づく反乱軍の兵士たちが見えた。数はまだ、はっきりとは分からないが、相当な数のようだ。


 数時間後、反乱軍が街壁のかなり近いところまでやって来た。見たところ数は二万以上と言うところだろうか。敵はそれほど遠くないところに横に長く展開している。しかし、兵士たちは整列もできておらず、纏まりなくバラバラでいるような状態だ。服装も軍服のもがわずかにみえるが、装備もしっかりしていない者が多かった。指揮系統がほとんどなっていないようだ。指揮官は誰なのだろうか?


「指揮官不在か?敵のあの状態なら、籠城しなくとも戦って勝てるかも知れんな」。

 ルツコイは言った。

 ユルゲンがそれに答える。

「指揮官はおそらくヴィクトル・ナタンソーンが執っているのではと思います。私とベルナツキーが追撃を受けた時、先頭にいたのはナタンソーンでした」。

「戦い方はどうだった?」

「戦闘の指揮は素人です」。

「なるほど」。ルツコイはにやりと笑った。「そういう事なら、私が出撃して様子を見てみよう」。

 ルツコイはそういうと、配下の重装騎士団に集合を掛けた。

「たった三百人であの軍勢に攻撃を掛けるのですか?」

 ベルナツキーが尋ねた。さすがに無謀ではないだろうか。ベルナツキーの心配をよそにルツコイは、ペシェハノフに命令を出した。

「ちょっと腕慣らしだ。まず、弓兵で街壁の上から攻撃させろ、反乱軍は近づきすぎていて、いい標的だ」。


 ルツコイと先頭に分厚い鎧と盾を構えた重装騎士団が並ぶ、ユルゲンは重装備ではないが軍服を着て副司令官として、ルツコイの横に並んでいる。

「門を開けろ!」

 ルツコイの号令と共に、部隊が突撃を掛ける。それに合わせて、街壁の上から弓兵の一斉射撃が開始された。

 予想していなかったのか、攻撃を受けた反乱軍はすぐに混乱を始めた。

 矢の攻撃が止まり、ルツコイの重装騎士団が反乱軍に斬り込んだ。反乱軍は逃げ出す者も多く、組織的な攻撃ができず、帝国軍の一方的な攻撃となっていた。

 ユルゲンは魔術で指から稲妻を放ち、反乱軍兵士たちを倒していく。

 しばらく戦闘の後、ルツコイは退却の命令を出した。短時間で四、五百名を打ち取り、その遺体が草原に転がっているのが見えた。


 さすがの反乱軍も街壁から矢の届かない距離へと後退していった。

 ルツコイは先ほどの反乱軍との戦いで、こちらに被害が全くなかったことで、籠城せずとも一挙に敵を叩けるのではと考えていた。

 そこで、士官たちに命令をした。

「明日、全軍で反乱軍に対し攻撃を掛けようと思う。全く抵抗がないような状態だ。問題なく勝てるだろう。それに、もし、ナタンソーンを打ち取ることができれば、反乱軍を簡単に壊滅させることができるだろう」。

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