ブルガコフの死

 大陸歴1661年11月10日・ブラミア帝国・首都アリーグラード


 首都の郊外、さほど遠くない駐屯地にマクシム・ブルガコフが率いる第三旅団の兵士約四千人がいた。一般兵は北部出身の者が多いが、住民の武装蜂起は第三旅団には伝わっておらず、まだ統率がとれていた。


 ブルガコフたちは街の異変に気付き、兵士五百人を率いて街壁の東側にある門を抜けて街の中に突入した。

 通りのあちこちで兵士たちと住民たちが集まって、気勢を上げていた。

 ブルガコフはその様子を見てつぶやいた。

「なんだ、これは。反乱か?」

 兵士や住民たちの間に不満が募っていることは当然、彼の耳にも入っていたが、どうやら最悪に事態に陥っているらしい。

 ブルガコフは剣を抜いて、部下たち命令する。

「反乱を鎮圧する!続け!」

 そういうと手綱を打って馬を進め、通りの兵士や住民に斬り掛かった。それに彼の兵士たちも続いた。


 街の中央部では反乱の兵士はさほど多くなかった。ブルガコフは辺りにいた反乱兵を蹴散らしていく。

 ブルガコフは皇帝の事が気になって、城の方へと部隊を進める。すると、その途中、これまでになく大きな鬨の声が北側から聞こえて来た。北の方角にも反乱兵がいる。そう思ったブルガコフは馬の方向を北へ向けた。

 しばらく進むと通りの少し開けた場所に出る。目前にはアリー中央大橋を渡ってくる住民の大群が見えた。

 ブルガコフは慌てて命令を出す。

「連中に橋を渡らせるな!」

 ブルガコフは配下の兵士を率いて住民たちの中に切り込む。先頭付近の住民たちはそれを避けようと後ろに下がるが、群衆の後ろのほうは前の状況がわからず前進を続ける。橋の真ん中あたりで群衆は押し合いとなった。次々と倒れる人がおり、さらにその上に倒れる人が続き、橋の上は危険な状況となった。


 一方のブルガコフは、自分の配下の兵士で住民に切り込まない者が多く後ろにいるのに気がついた。彼は馬を後ろへ帰し、その兵士たちに怒鳴った。

「どうした!?なぜ命令に従わない?!」

 兵士たちは顔を見合わせるだけで黙っていた。

 ブルガコフは剣を振り上げさらに怒鳴る。

「命令に従わない者は斬る!」

 それを聞いて兵士の一人は口を開いた。

「命令には従えません」。

「なんだと!?」

 兵士たちは剣を抜いた。

「お前ら!」

 まさか自分の配下の兵たちも反乱を起こすとは。しかし、彼らも同じ北部地域の者だ。ひょっとしたらあの群衆の中には彼らの家族もいるだろう、それを斬るという命令に従えないということだ。よく考えれば、これはある程度予想はできたことだ。

 ブルガコフは剣を振り下ろし、兵士の一人を切り倒した。兵士たちは一瞬怯んだが、剣を抜いてブルガコフに迫って来た。自分の目の前で反乱を起こした配下の兵士たちは数百人いる。

 橋の方で群衆に斬りこんでいた兵士たちも群衆に押されて後退を始めていた。

 このままでは挟み撃ちだ。もう、どうもできないと感じたブルガコフは、この場を逃げ出すことにした。

 ブルガコフは手綱を打って目の前の反乱した兵士たちを何とか馬の脚でかき分け、通りの来た道を引き返し、城の外の駐屯地に戻る。


 ブルガコフに従って着いて来るものは居なかった。彼はたった一人、街の外の駐屯地に戻って来て、馬を降りた。

 残っていた士官が何人か集まっているのが見えたので、ブルガコフは彼らに命令を出すつもりで近づいた。

「全兵士を率いて城へ向かう。各部隊に命令を」。

 士官の一人がブルガコフに向いて行った。

「司令官。我々は命令には従いません。もう帝国は終わりです」。

「なんだと!お前らも裏切るのか?」

 ブルガコフが剣を抜こうと柄に手を掛け剣を抜こうとした。

 しかし、それより一瞬早く、士官たちも剣を抜き、ブルガコフを突き刺した。

 ブルガコフは短いうめき声をあげてその場に倒れた。

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