武装蜂起
大陸歴1660年11月10日・ブラミア帝国・首都アリーグラード
武器所有禁止令が発せられ、武器狩りが行われてから約三か月が経った。
イリアが皇帝に即位してから、三年近くの間に帝国の財政状況は急速に悪化をしていた。
原因の一つはブラウグルン共和国を占領統治していたころの財政的負担が後をひきずり、また、 “ソローキン反乱” でのテレ・ダ・ズール公国の被害に対する多額の賠償金などが大きな負担となっていた。
さらに、今年の穀物が不作であった。帝国は穀物の輸出による収益が多かったが、期待していた収益が得られないという状況に陥った。
この不作は国内でも穀物の高騰となり、国民の生活に影響を及ぼした。特に貧困地域の住民たちの生活には深刻な影響を与えた。
帝国政府はこの状況を鑑み皇帝と内閣は頻繁に会合を行った。そして財政の圧縮に取り掛かることを決めた。
その中の一つとして、軍人恩給の減額の検討に入った。それが、首都北部の貧困地域の住民たちに伝わり、彼らの怒りが爆発することになる。
貧困地域の住民の多くは家族が兵士として出征しているか、元兵士が多い。現在の元兵士の不満もあるが、現役兵士達もの将来への不安が高まり、それが政府に対する怒りとなって爆発した。
さらに、これまでの長年にわたる弾圧で住民の我慢は限界であった。
首都北部の貧困地域の住民が街の大通りに、あふれんばかりに集まって来ていた。
住民が集結を始めていることは、治安部隊の耳にも入って来ていた。
最初、治安部隊は住民を解散させるために武装をして出撃した。しかし、集まった住民に向かい、それを鎮圧しようとするもその数は予想以上に膨れ上がり、出撃した数の治安部隊では抑えることができず、一旦撤退した。
そして、すぐに治安部隊は軍に出動要請を出すことにした。
反政府活動をしているヴィクトル・ナタンソーン達は街の中央部に潜伏していた。そこには、オレガ・ジベリゴワも居た。
不満を持った住民が大通りに集まってきていることが彼らの耳に入った。
ナタンソーンは、仲間の一人にその様子を見に行くように指示をして待った。
時間が経つにつれデモ隊はどんどん膨れ上がってきた。このデモは自然発生的に起こったものだが、ナタンソーン始め革命家の者達はデモ隊と一緒になり、決起することを決めた。
これまで、三年近く地下に潜伏していたナタンソーンが表に出てリーダーとして、民衆を扇動する。彼が地下に潜伏する前は、たびたび街頭で帝政批判の演説をよくやっていたので、多くの人々に顔は知られていた。
久しぶり彼の顔を見た民衆は感動で異様な盛り上がりをした。
治安部隊が一旦撤退した隙に住民は、街の中心部につながる橋を大量の瓦礫を置くことで一つを残し封鎖した。
最も大きな橋であるアリー中央大橋に住民は集結した。住民はこの橋を使って街の中央部に向かう。他の橋を封鎖したのは、軍が他の橋を渡って後ろから回り込まれないようにするためだ。
民衆の目標は城に突入し、皇帝や貴族たちを捕え、帝政を崩壊させ、革命を成就することだ。もう止めることはできない。
北側の大きな通りの十字路に数えきれないほどの多くの老若男女が集まっていた。
その中心、簡易的に作られた木製の壇上には、数人の人物が立っていた。
その一人、ヴィクトル・ナタンソーンが人々の呼びかける様に演説をしていた。
ここの区域の男の多くが帝国軍の兵士として従軍していたことがある。武器の扱いはもちろん、下級士官としての立場だった者も多いため、小規模であれば部隊を率いることも難しくない。
これから、帝国軍の戦いが予想されるが、さほど心配はしてない。
すでに数の上ではこちらは、そう言った元兵士だけでも一万人を超え、それ以外にも従軍したことが無い男女の若者から老人まで、かなりの参加者がおり、デモ隊は優に数十万人は超えるであろう。
オレガ・ジベリゴワは、ヴィクトル・ナタンソーンをはじめとする人民党の指導者たちと並んで、馬上から群衆を見つめていた。
ナタンソーンは民衆を扇動する。
民衆のものすごい熱気が伝わってくる。
人々は口々に「帝政打倒」、「公正と安定を」などのスローガンを叫んでいた。
元兵士達の一部はどこから調達したのか剣や槍などを高く掲げていた。それ以外物は農作業で使う大鎌やフォーク、木の棒などを掲げているものも見える。武器を持たない者はこぶしを振り上げていた。
その様子を見て、オレガも否応なしに感情が高ぶってくることが感じられた。
ナタンソーンが群衆に向かって叫んだ。
「我々の敵はどこだ!?」
群衆は一斉に首都中心部に見える城を指さした。
「あそこにいるぞ!」
「皇帝を倒せ!」
群衆が次々に叫ぶ。
ナタンソーンは続けた。
「いよいよ、今日、帝政を倒す時が来た。明日からは新時代がやってくる!正義は我々の側にある!城へ向かい抑圧者を追い払え!」
民衆の隊列はゆっくりと動き始め、アリー中央大橋を渡り始めた。
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