武器所有禁止令
大陸歴1660年8月15日・ブラミア帝国・首都アリーグラード
翌日、皇帝が襲撃を受けたことで急遽、側近たちの会議が招集された。
この会議は、イリア皇帝が助言を得るために、ユルゲンが帝国に留まることが決まった時に設立された。
そのメンバーは、帝国軍総司令官ボリス・ルツコイ、副司令官ユルゲン・クリーガー、親衛隊隊長ヴァシリーサ・アクーニナ、秘密警察“エヌ・ベー”長官アレクサンドル・スピリゴノフの四人。会議の設立当初は軍事顧問のミハイル・イワノフもいたが、彼は数カ月前に再び退官してしまった。
通常は毎週定期的に開催されているが、こういった緊急事態の時も特別に招集される。
会議では、ヴァシリーサ・アクーニナは皇帝を狙われたことと、自分の部下たちが九名が犠牲になったことで、いつにない怒りを露わにしていた。
あの襲撃はあらかじめ計画され、待ち伏せされていたもので、襲撃者が偶然皇帝一行に出くわしたわけではない。しかし、今回の皇帝の墓参は完全に秘密にされていた。親衛隊とごく一部の軍のトップしか知らないはずだ。となると、誰か情報を漏らした者がいる。スピリゴノフ率いる “エヌ・ベー” がその犯人を捜索することが決まった。皇帝の警護態勢は引き続き強め、皇帝は当面は城の外に出ないようにする。
そして、会議は市民に対する武器所有禁止令を発することに決め、皇帝に承認を得てから法務大臣に命令した。
さらに翌日、早速、武器所有禁止令が公布されたため軍が主導して武器狩りを始める。
特に政府に対する不満が大きく、反政府活動も活発な首都北部の貧困地域を真っ先に取り締まることにした。
広場に城内の兵士が二千人集められた。そして、ルツコイ、ユルゲンを先頭に軍は首都北部に向けて進軍をする。
スピリゴノフと彼の “エヌ・ベー” の部下十数名も軍に同行している。ヴィクトル・ナタンソーンを始めとする反政府勢力の指導者たちが潜んでいないかも併せて捜索しようとしているようだ。
ユルゲン達は、アリー川に掛かる橋を渡り、北部地域をブロックごとに捜索を始める。
抵抗せず武器を差し出す者も多いが、一部の者は抵抗をする。抵抗するものを押さえつけ、兵士が無理やり家の中を捜索する。剣や弓などが押収される。
兵士達は武器だけでなく農作業で使われるような鎌なども徴取していた。
一方、スピリゴノフは反政府分子と疑われる者を見つけては、部下に言わせて連れ去っている。
ユルゲンはこの光景を複雑な心境で見ていた。もともと北部地域は政府に対する反感の強い地域だが、軍の一般兵士の多くはこの北部地域の出身だ。自分たちの生まれ育った地域がこのように弾圧されているのだ。
ユルゲンは兵士たちの顔を見る。彼らは武器の徴収を黙々と続け、任務を遂行しているが、一様に暗く沈んだ顔をしている。彼らはどのように思っているのだろうか。
一方で、皇帝の暗殺未遂が起こり、親衛隊に所属する妻ヴァシリーサの命も狙われた。犯人は反政府分子なのは間違いないだろう。会議で武器所有禁止令の話が出た時、ユルゲン自身も複雑な心境であったが反対はしなかった。
ユルゲンは迷いを頭の中から払って、毅然と任務を遂行し続ける。
武器狩りをしていて数時間が経ち、時間が正午に差し掛かろうとしたころ、軍が捜査していたブロックから数ブロック離れたところで騒動が起こった。
武器を持った住民が集まっているという。
ルツコイはすぐさま部隊に指示を出した。重装騎士団を先頭に武装住民のいる方向へ進軍を始めた。
軍と住民が衝突するも、精鋭の重装騎士団に住民がかなうはずもなく決着はすぐについた。
通りに数多くの遺体が転がる。住民に死者が数十名出た。
住民の大きな抵抗はこれだけにとどまり。夕方ごろには北部地域の四分の一ほどの武器狩りが終わった。明日以降も残りの地域で武器狩りを執り行う。
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