第85話 追ってくるもの 2
そして宣言通り街道の監視を代わってもらうのだが、見通しの良いこんな場所でも息をするように自然に行ってしまう周辺の監視が、トリィアの網に引っかかってしまうのである。
「お姉様!」
そして怒られる。
「周りを視ているだけよ、トリィアお姉様?」
「むーん…」
そんなトリィアお姉様も3時間程すると、
「おねえさまぁー、お脳がぁー……」
「はいはい、休憩しましょう」
すぐ目の前にはハウィックが近づいていたこともあり、2人は休憩のために村の宿屋に立ち寄ることにした。
部屋に入って外套をベッドに広げると、トリィアはすぐにウレイアのひざ枕にへたり込んだ。知恵熱も度を越えてしまうと、本当に辛くて気分も悪くなる。
「お脳がー、熱いですー」
「しばらく休みましょう、すぐに元に戻るわよ」
「うーん、すいませんお姉様。少し休めば元気になりますからー」
トリィアの顔に触れると大分熱がたまっていたようだ。
「どうやら視過ぎていたようね?ぼんやりと眺めていれば良いのに……こんなに無理をして…」
「分かってはいるんですけど、あちこち気になってしまうんですよねー」
「もっと経験を積まないとね、お姉様?」
トリィアは眉を下げるとウレイアに甘えてきた。
「えーん、もっと優しくしてください、もっとおでこに触ってくださいー」
「しょうがないわね」
ウレイアはまだ熱のこもったトリィアの額に手を乗せた。
「んー冷たくて気持ちいいです……」
ここまで来て約半分、日のあるうちにもう少し進めそうだが、トリィアを休ませてあげたいのがウレイアの本心だった。
「進みましょう!お姉様、少しでも早く大お姉様にクギを刺しに行かないと……」
「トリィア…」
諦めたようなウレイアの顔から読み取ったのか、熱も取れたところでトリィアは先に立って進もうとしていた。
「大丈夫なの?無理はして欲しくはないのだけど……」
「ばっちりです。それにここは無理をしなきゃいけないと思うんです。あ、別に今無理をしているわけでは無いですよ?気持ちの話です」
「そう…そうね、でももう少し休みましょう」
日が暮れるまでの僅かな時間もウレイア達は進むことを選んだ。
この空では月が出ることも無いだろう、となれば眠ることはないとは言え、外でじっと夜を明かすことになる。闇の濃い中では自分たちは進めても馬は動けない、無理矢理に引けばゆっくりとは進めても脚を取られて進むどころでは無いだろう。
日暮れが近くなり、辺りを探してみたがやはり猟師小屋すら見つからなかった。
「そろそろ暗くなるわね……」
「このお天気では真っ暗になりますね。目の良いこの子達でも進めないと思います」
「川のそばは冷えるから水を汲んで先の岩場に行きましょう」
「はい」
川に立ち寄った頃には空から闇が覆い被さり始め、川の上流からは水の流れと共に冷たい空気が辺りを呑み込みながら下り始めている。
馬に水を飲ませ、すぐに岩場に移動すると、北風を避けて岩の陰に腰をおろした。
「トリィア、眠っておきなさい」
ウレイアはトリィアを引き寄せて自分の外套に一緒にくるまった。感心したのは馬が2人を守るように囲んですぐ側に座り込んだことだ。
「この子達あったかいですね、お姉様?馬くさいけど!」
「ふふふ、そうね。馬くさいわね」
2人はそっと馬に身を寄せた。
「あとは私が視ているから休みなさい」
「こんな夜に移動はしないんじゃないでしょうか?
「そうね、無理に移動していてもたいまつを使えば何キロ離れていても目で見えるし、方角も分からないでしょうしね。私もそんなに気を張っているつもりはないから」
「では、何かお話ししましょう、お姉様」
「話?どんな?」
夜の闇はなにも恐ろしいばかりでは無い。余計なものを見る必要も無く、自分と自分のすぐそばにいる者だけの世界がそこには存在するのだから。
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