第944話「情報収集・囚人用馬車とロナ・ウルグスの異変」


 硬い甲羅で守られているスワンプ・タートルは、毒攻撃で徐々に衰弱させるか麻痺系の攻撃で動きを止めて一気に始末する方法だと言う。



 壊れた甲羅には価値が無い無いと思ったが、稀に出る討滅素材の甲羅の破片が高額でやり取りされるそうだ。



 そもそも巨大で重い素材を、運搬専用の馬車が無ければ運ぶ事など出来ない。


 それ以前にダンジョンでは遺骸は消え素材が出る……なので遺骸が消える前に、討伐部位の剥ぎ取りなどできようも無いのだ。



 万が一甲羅が素材として出ても、通路には他のスワンプタートルが居る。


 とてもでは無いが持ち出せるわけはない……リスクが大きすぎるのだ。



 そもそも甲羅を持ち上げられないので、転がす事も出来ないらしいのだが……



 だから魔物の遺骸が消えた時に出る『討滅報酬』で稀に出る甲羅の破片が高額なのは納得だった。



 それを魔法で粉砕したのだから大騒ぎになっている様で、部屋という部屋から冒険者が集まり、僕の後ろをついて回る状況になっているのだ。



 破壊して破片になった甲羅は剥ぎ取り素材になる様で、消滅する前に手に入れれば『素材』として回収できる様だ。


 しかし逃げたくても逃げられない……


 目の前には延々と続く亀地獄……背後には『次の素材はまだか!』という催促……『催促するなら自分で倒せよ!』と言いたくなる。



「あ!此処の先の部屋が下層階段です!……因みにその手前には休息できる部屋があります」



 僕は『念願の下層階段だ!』と思ったが、手前の安全部屋に立ち寄る事にした。


 何故なら背後のメンツを見た限り、このまま下層まで着いて来られる可能性が高いからだ……



 ◆◇



「なぁ兄ちゃん。これ食え、せめてもの例だ…………っていらねぇか。俺より遥かにいい物喰ってるもんな」



「ははは……クローディ!オメェもおこぼれ貰いに来たのか?お前この鍋にその干し肉を刻んで入れたら、向こうの鍋からオーク肉のシチューを一杯とパン一切れ貰えるぞ?」



「マウキィ……マジか!?至れり尽くせりってこの事じゃねぇか!!」



「ってか兄ちゃん……俺をパーティーメンバーとして雇ってくれよ!今日のこの様はパワーレベリングって話じゃねぇぜ!」



「レイター確かにそれは頷けるな!今日だけでレベル3も上がってるんだ」



「マジか?モーディ……聞いてくれよ……俺よぉ……とうとうレベル15だぜ!」



 そんな会話をしつつ、彼等は僕の付近に陣取る。



 少しでも『顔見知り』から『知人』程度へは距離を縮めたい……というのは目に見えている。



 僕は休憩部屋で下層階探索の準備として簡単な食事をして、此処でハイエナの皆さんとはおさらばする筈だった。


 しかし世話好きな女性パーティーの『御礼の食事』という名のタカリで、僕は4kgオーク肉のブロックを回収された……



 珍しく『調理』のスキルを持つ冒険者の腕前もあり、その味は格別に良い物になっていた。


 しかし当然周囲の冒険者も腹を空かせている。



 干し肉と硬い乾涸びた黒パンでは、腹は満たせても心までとはいかない。


 そこで彼等の持ち込み食材を投入する事で、その量のカサ増しを提案したのだ。



 当然『調理スキル』の恩恵は大きく、その味は大きく変貌した。



 周囲の冒険者同士が馴染み、仲良く話している間に僕はお暇しようと企んでいたのだが……人の繋がりとは不思議な物だ。



 距離が近くなると途端に口が緩くなる……



 僕がコールドレインの街に居なかった数日間、タカリー家の動向を観察していた冒険者が居たのだ。



「それでですね……タカリー家の当主は、伯爵位の権限で鬼蜘蛛一家の頭目を処刑したんですよ。それも殺人の罪を奴等に押し付けて……」



「でも鬼蜘蛛のゴッパは、元々お尋ね者じゃない……」



「鬼蜘蛛の牙って言われたノッコーとメッティも、あの頭目と同じくお尋ね者だったよな?」



 僕は冒険者達の話に言葉を挟まず聞きながら、粗方全てを聞き終えた後『鬼蜘蛛一家の頭目が処刑された日』の話を聞く……



 すると、それは完全に計画的がなされたのは明白だった。



 僕達関係者がこの街から帝都に行っていた僅か二日……満足な裁きの場も与えられず、一方的に処刑が執行されたのだ。


 当然彼は無実では無い……


 罪はあるが、他の罪を全て被せられ裏切られた末での処刑であり、それは真犯人を生かすための贄でしか無い。



 それどころかモルダーとハリスコがスカリー事件の再調査を依頼したその日に、鬼蜘蛛のゴッパはトゴルーマ・タカリー伯爵の指示で処刑されていた。



 彼の最後の言葉は『裏切りやがったな……トゴルーマ!馬鹿なガキ共と、テメェが地獄に来るのを待ってるぞ!!』だったという。


 当然その場にトゴルーマは居ない……


 彼は別案件で飛び回っていたのだ。



「それで……あの兄弟は放免されたんですか?」


 顛末は知っているが、他の情報がないものかと知らないふりをして、僕は質問を重ねた……


「ヒロの旦那……それがおかしいんですよ……。どう見ても貴族が乗る馬車ではなく、北の氷雪地へ犯人を送る魔物対策された軍用馬車だったんですよ……」



「それはアタシも見たわよ。丁度衛兵詰所に、従姉妹の入場許可証を発行に行った日に見たの!」



「それは……何処かへ連行される所でしたか?」



「ヒロさん……私的には、あれは家に帰ったわけでは無いと思うのよね……。だって馬車内部に格子があったのよ?どう見ても息子達を守る為では無いと思うの……」



「馬車に……タカリー家の貴族エンブレムは?」



「「!!……無かった!!」」



 ドネガン公爵の言うことは口からでまかせでは無い……冒険者の目撃者もいた。


 公爵家の謀だとしたら……と言う考えもあったが、どうやら本当に彼等の父親仕業の様だ。



「俺さ……あの馬車にひとつ心当たりがあるんだ。でも……」



「何だよ?デロイス。勿体ぶらず言えよ……」



「ロナ・ウルグス送りの馬車だよ……。実は子供の頃に似た様な馬車に乗せられて、ロナ・ウルグス送りになった囚人を見た事があるんだ」



「「ロナ・ウルグス!?」」



 二人はその言葉に反応を示す。


 この帝国でその場所は犯罪者隔離の地であり、珍しいことでは無いと聞くのだが……



「ロナ・ウルグスって今………」



「だよな?……」



「うん?どう言う事ですか?なんかロナ・ウルグスに送るのが大問題的な言い方ですけど……」



 彼等のその表情に腑に落ちない部分がったので質問をする。


 僕はドネガン公爵の事前情報もありつい質問しただけだがとんでもないオマケがついてきた……



「ヒロさんってば……そんなに強いのに知らないの?」



「ははは……情報に弱くて……情弱って奴ですね。それで?その辺りに問題でも?」



「俺なら絶対に行きませんね……今あそこに送られた奴は100%死にますよ?その理由なんですけど、スノー・アリゲーターが大量に発生してるんです……」



 たまたま同席中の冒険者の一人が『あんな場所だけに、街は勿論村だって作れねぇし……意味がねぇ場所ですよ』という……


 僕は『その魔物が今以上に繁殖して、南下でもして来たら帝国領地が減るかもしれないのに……なんて呑気な……』と思ったが、彼等冒険者はそもそも風見鶏の様な物だ……



 冒険者だけあって冒険ができる場所があれば、それは帝国だろうが王国だろうが小国郡国家だろうがなんでも良いのだ。

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