第939話「一路コールドレインへ!」


「今コールドレインの街では、回復系がかなり品薄なんです。数日で改善してるとは思えないので……是非売ってもらえないかと……」



 冒険者達は、流石に公爵様に進言するのは気が引けた様で、控えめな物言いだ。


 目の前に問題の騎士団がいて、その彼等がポーションや回復薬、そして傷薬まで買い占めているのだ……言い辛いのも当然だろう。



「うん?だが……これは儂の物では無いからな。こやつなら言えば売ってくれると思うぞ?そもそもお前達は冒険者仲間だろう?」



 ドネガン公爵がそう言うと、冒険者のリーダー達が僕の元へ集まって来た………



 僕は傷薬の帝国販売単価など分からないので、ラムセスに一任する。



 騎士団で買いたいと言った張本人なので、全てを任せる代わりに騎士団卸しは彼を通じて行う事にした。


 苦手なことは人任せが一番だ……



「よくやった!!ラムセス……お前は今より護衛団に参加しろ!お前が乗るのはヒロ殿が乗る馬車だ」



 そう説明した後グラップは『行く途中に1樽あたりの単価を計算しておけよ?支払いはコールドレインの街で行うので、単価計算を間違えない様にな!その後お前は、そのままダンジョン遠征団の歩兵団遠征隊として参加せよ!今を持ってお前の見習い期間は卒業だ!」と暑苦しく大きな声で言い放つ。



 突然見習い卒業を言い渡されたラムセスだが、非常に嬉しそうだ……


 涙を堪えながら、グラップに言葉を返そうと必死に何かを言おうと考えている……



「了解しました!第二騎士団歩兵隊ラムセスは、これより馬車護衛隊に参加します!街に着き次第、引き続きダンジョン遠征任務を遂行します!!」



 暑苦しい男の指示で、ラムセスの予定が変更された様だ。


 先程まで『また帝都で是非会いましょう』と、涙ぐみながら言っていたのだが……


 どうやら僕等は腐れ縁なのか街まで一緒に行くようだ。



 ◆◇



 馬車での移動は『魔物避けのタリスマン』のお陰もあり、非常にスムーズだった。



 だがアユニとアサヒそしてマナカの冷ややかな目線が痛い………



 変質素材である異世界のお菓子を食べてしまった彼女達は、エクサルファの件でウッカリそれを聞かされて激怒中なのだ。


 僕はモノクルでチョコレートを鑑定しているが、情報など出てこない。



 それどころか僕のスキルで調べても分からないのだ……



「それで!?何か分かりましたか!!」



「あ………アユニさん………えっと……まだ分かりません………」



「分からないじゃ無いっと!!変質ってなんなん!?……化け物になりたく無いっとよ!?」



「アユニ!落ち着いて……ってか何処の方言よ!?それ………」



「方言が問題じゃないっと!!マナカも怒らんと!いずれヒロさんみたいになるんよ?納得いくっと?」



「貴女さっきチョコレートくれって言ってたじゃない!『人族最強の雌になる!』って言ってたのは何なのよ……全く……」



 そう言いつつ馬車は、軽快に渓谷を越えていく……


 行きには魔物に襲われる事が多かったが、タリスマン効果で魔物が寄り付かない為移動が早いのだ。



 予定時刻より早く休憩地点に着いたせいで、皆の表情は明るい。



 しかし予期せぬ問題はこんな時に起きる物だろう……



「旦那!ちょっといいですかい?」



「はい?御者さんなんでしょう?」



「実は聞きたい事があってですね……これなんですが……」



 そう言って御者が見せて来たのは、僕がコッソリ馬車に括り付けた『魔物避けのタリスマン』だった。



「コレと同じ物を俺は見た事があるんですよ……王都の富豪マッコリーニさんの所で……」



 彼はそう言った後、自慢気に説明をした。


 元々馬車を扱う仕事を生業としていた彼は、帝国と王国が争う前に仕事を請け負い、マッコリーニの元まで行ったらしい。


 マッコリーニと仲良くなった彼は、マッコリーニから仕事を依頼され数日間の仕事を彼と共にしたそうだ。



 そしてマッコリーニの異常さを目の当たりにしたらしいのだ。


 同行する冒険者は極最小人数で、それも高速移動を主とする為全員が騎乗だと言う。



 そして何より魔物に襲われる事が全くなかったそうだ。


 その理由を尋ねた所、タリスマンを見せられて『魔物避けのタリスマン』で破格で手に入れた物だと言ったそうだ。



 今から思えば、あの価格設定は確かに破格だ。


 この世界の危険度がわからない僕達だったからこそ、付けた価格であり値付けそのものが間違えていたのは否めない。



 そう言った御者は、更に問題の一言を言い放つ。



「随分前に『盗難にあった』と話を聞いてんですよ……それも見慣れない奴を雇ったせいでって……」



「は?盗難に?」



 そう言った御者が手を翳すと、周囲に居た御者全員が僕を取り囲む。



「コレを何処で手に入れた!?行きは黙っていたが……隠すのはもう辞めだ!コールドレインの街まで1刻もあれば着く……今更逃げられんからな?覚悟しろ!!」



 そう言った御者は更に『儂等はマッコリーニとハリスコが設立した、商団連合組合員だ!観念しろ……この盗人め!』といった。


 たった一年ちょいで、色々な事に手を広げているマッコリーニには頭が下がる。



 しかしあのタリスマンを盗難されたとは、どういう事だろう……



 あの歩く金庫マッコリーニが、不用心に放置しているとは考え難いのだ。



「マッコリーニさんとハリスコさんが知り合いなんですね?実は僕も知り合いで、最近だとモルダーさんとも知り合いです。ちょっと事情を聞きたいのですが?……どんな状況だったんでしょう?」



 僕はそう説明すると、アユニやマナカが加勢に入る……



「確かにヒロさんはハリスコさんは知り合いですよ?モルダーさんに叔父貴とか親父さん言われてる人ですよね?」



「そうそう……言ってたわね!でもモルダーさんちって、叔父貴と親父さんの意味知っていってるのかな?意味違うのに……同じ人にそう言ってるわよね?」



 何故かハリスコの話からモルダーの弄りになっているが、加勢してくれた事には感謝しないといけない。



「僕の言い分がもし信じられないなら、街に着いたらハリスコさん呼んで下さいよ。それで証明できますから……」



「だったら……そうしてやろうじゃ無いか!おい、お前……逃げられない様に縛らせてもらうぞ!」



 そう言われた僕は、なぜかロープで縛られる……どれだけ人を信用出来ないのだろうか……


 それから僕等は、約1時間かけてコールドレインの街に帰る……



 街の入り口には、モルダーやハリスコそしてディーナ達が待っていた。



「おい、親父!……帰って来たぞ。大親分達が!」



「おい!モルダー。オメェはヒロ様に折角武器を譲って頂いたんだろうが!早く武器を売り捌いて………って俺の恩人に何やってんだテメェら!!簀巻きにして地底湖に埋めるぞ!」



 僕が御者席となりでロープでふん縛られている姿を見たハリスコは、激昂しながら突撃して来た……


 少し前まで元気が無かったオッサンとは思えない元気の良さだ。



 結局ハリスコの説明を聞くまでもなく、彼等は僕へ頭を下げる事になった。

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