第917話「知力と魔法力……色々と難しいその関係」
「え?いや……確かに高速移動の『瞬歩』は使いましたけど……単純に20%くらいの力で、勢いつけてぶん殴ってるだけですよ?」
「えぇ………?……に………にじぅ?……我輩……にじゅの打撃で撃沈なのか?あの打撃全部?」
「え?最初は10%程度です……最後に強めに叩きますって言いましたよね?」
「………………じぅ?……………さいごだけ……にじぅ?……………」
「「ヒロ辞めたげて……これでも私たち自慢の兄なのよ!?」」
真実を告げてはならない人が目の前にいたようだ。
グラップは『ストン』と力無く椅子に座ると、魂が抜けた様な顔になる……多分少しは接戦に持ち込んだと思っていたのだろう。
それを見たアマナとアーリスは、グラップを必死に慰めた……どうやらそんな兄の姿を見たのは初めてなのだろう。
「流石双子ですね?息がピッタリです!」
「「……………」」
「良かったじゃないかい?グラップ!上には上がいる。それが知れただけでも目指す場所ができたじゃ無いか!」
そう言ったアルカンナは『じゃがこの坊主が黙っている以上『訳あり』って事には間違いない。冒険者たるもの脛傷ありじゃからな!アマナ……この婆やが何も告げずに素材を用意させたのは理由がある。コヤツは『解呪薬』の精製をするつもりじゃよ……別名『万能薬』じゃ』とアマナに話す。
アマナは励ますグラップを突然横に放り飛ばし、僕に急接近する……
「あ…………あの素材って……万能薬のレシピなの!?貴方………それを一体何処で!?」
僕は既に黙ってられなくなり仕方なく、ダンジョン内で手に入れた羊皮紙の話をする。
当然冒険者の名前は伏せておく……
今居る場所が魔導師ギルドなので、問題になりかねない名前だからだ。
「そんな冒険者が!?……惜しい人を亡くしたわ……帝国騎士団がしっかり把握していれば、帝都は既に万能薬の生産国になれたのに!!」
「そうじゃなぁ……まさか万能薬のレシピとはとこの婆ばも思ったんじゃ……じゃからな無理を言ってアマナに参加資格を用意してもらった訳じゃよ」
「でも結局は……僕が知らせた内容でレシピは手に入れましたよね?後は『トライアンドエラー』を繰り返すしか無いんです……そうすればいつか作れますから……」
「「「「トライアンドエラー?」」」」
「何じゃそれは?」
「ああ……挑戦と失敗……要は試行錯誤と言う意味です……若者言葉ですよね……すいません」
うっかり変な言葉が出るが、たまに言いたい事が通じない事で僕はヒヤッとする。
しかしアマナとアルカンナはその言葉を酷く気に入ったようだ。
「良い言葉だわ!トライアンドエラー……是非使う様にするわね!なんかいつかは成功しそうな響きだし!」
「そうじゃの!響きが新鮮じゃ……この婆やも久々に難しい薬を調合したくなったぞ!」
その話を聞いていたアーリスは……
「はぁ……仕方ないなぁ……おいヒロ!とりあえず試験だけでも受けていくか?魔導師ギルドってのは階級分けが簡単だから、そんな手間はかからないし!」
「良いんですか?ちなみに知識ゼロの僕でも良いんですか?」
「取り敢えず知識を増やす為に勉強はしろ!それが条件だ。せいぜい銅級冒険者資格くらいはいくと良いんだけどね!」
そう言ったアーリスは『射撃魔法の距離が判定基準だ!威力自体はマジックポーションで底上げ出来ちまう。でも距離はそうそう伸びないからね!』と言う。
「射撃対象までの距離ですね?成程射撃魔法なのか………」
「何だ?まさか射撃系魔法は未習得なのか?」
「いやいや……出来ますけど……あまり遠くには無理です……」
判定基準がどの程度の距離かは分からないが、最低限の努力はしよう……
「じゃあ……移動するか……おっと!移動する前に伝えておく。射撃系魔法を撃つ試験場は防衛魔法の5層がけだよ!そうそう抜けないから全力で撃ちなよ?」
そう言ったアーリスは『一発勝負で、やり直しは無しだ。魔物との戦いにやり直しは無いからね!何時でも全力それが魔導師の矜持だ。ヒロも魔導を齧るなら覚えておきな!』と言って執務室のドアを開ける。
「さぁ行くよ!試験場で直接アタイが見てやろう!」
◆◇
「はじめまして!私は魔導師ギルドのサブマスターでキーテラです!では試験の説明を………」
「キーテラ!ちょっと待ちな。飛び入り参加一名追加だ!」
「アーリスさん!?ええ?い……今から追加ですか?ま……まぁ説明開始が今からだから平気ですけど………」
「おいヒロ、キーテラの説明を受けて受験番号を貰いな!」
僕は意味も分からず言われたままキーテラと言うギルド・サブマスターの元へ行く。
「えっと……冒険者証を提示して下さい。……ふむふむ……名前はヒロさんですね?じゃあこれが受験番号です」
受験番号を受け取るとアーリスは歩み寄りまじまじと受験票を見る。
「ありゃ……ノーマルか?」
「ですね……ノーマルです……。アーリスさん期待してたんですか?」
「まぁ……な。まぁ伸び代ありってんで良いんじゃねぇか?」
僕はその言葉に『ノーマルって何ですか?』と質問をする。
「ああ、魔力値に反応する特殊加工されてんだよ……この受験票は。だからアンタはノーマル組最後尾で試験ってこった」
キーテラは僕をノーマル組に誘導するが、そこに居たのは10歳にも満たない小さい子が一人いただけだった。
「お兄ちゃんノーマルなの?……ノーマルってほぼ魔法力ゼロだよ?」
「魔法力?ゼロか……そうなんだ?まぁ最低限、魔導師ギルドに登録できれば良いだけだから……まぁ良いかな?強くなれる様にこれから頑張るよ!無い物ねだりは駄目だもんね!」
小さい子がそう説明すると、他の受験生が笑いながら僕に向けて受験票をヒラヒラさせる。
しかしその嫌味な行動は、キーテラの一言で一斉に辞めることになったが、僕をイラッとさせる行動には違いがない。
「はい、では試験を行います!赤札の方からそれぞれ順番が来たら左から順に的に向けて魔法を撃ってください!撃ち直しは即退場なので要注意ですよ?的に届かなくても平気です……何故なら飛距離が重要ですからね!」
そう言ったキーテラは『ノーマルの方は最後です。申し訳ありませんが……飛距離測定なので……』という。
そして指し示した先には、床に魔法陣がある長い射撃計測場があった。
「成程……ちなみに最低限どこまで飛ばせば銅級資格を得られるんですか?」
「はい!まず射撃位置に立った時点で銅級資格4位が貰えるかどうかが決定します。魔力保持者で、MPがある一定数値以上であればですが……」
「あの……初歩的質問ですいません……魔力はMPとは違うんですか?」
「……えっと……ヒロさんはそこからの説明なんですね?……」
そう言ったキーテラは『ステータスを調べた時にINT値がありますよね?それは知識数値を示すのですが、厳密に言えばMPの数値に大きく関与します。ヒロさんの質問はそこに由来するものです』そう言って次に魔力について説明を始める。
「魔力……即ち魔法力は生まれ持った特性でもあり、その多くは訓練で開花します。何もしなければヒロさんの様にノーマルのままなんです。ですが稀に開花した状態で産まれる特殊な子供たちがいます……」
「そうなんですか!知らなかったです……じゃあ魔力があると……どうなるんですか?」
「はい?」
「え?」
僕の質問に、周囲から失笑が起きた……どうやら馬鹿な質問だった様だ。
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