第914話「薬師登録とアマナの認めたくない気持ち」


「シャボンさん……そろそろほんの少し水を混ぜましょう、魔力なしでも傷薬は出来ますから。ですが量を間違えちゃダメですよ」



 細かく刻んだ薬草をすり潰し、そこへ水を混ぜた後しっかりと搾る。


 そこへ更に水を加えて薬液を製薬する……



 僕はそれを鑑定すると『傷薬の薬液+1』と出た……どうやらシャボンも、修正値付きの薬液が完成した様だ。



「うむむむむ………シャボンさん合格点ですが……判断が難しい!スキルはあるけど知識はカンニングに近い……と言うか!ヒロさん何故貴方がまた関わってるんですか?傷薬の瓶詰めしながら、勝手に初心者講習しないでください!」



 アマナの言葉に、他の職員が苦笑いをする。



 しかしアマナの僕に対しての反応は、既に面倒な奴ではない。


 それの数段上である『やばい奴』の扱いの様だ。



「ヒロさん……母から貴方の話は聞きました。もう何をどうしたらそうなるのか……。貴方の薬師の始まりから今迄の過程を全て見たいです……ですが合格点は間違いがありません……はぁ今は納得が難しい」



 アマナはどこと無く悔しそうにそう話す。


 さっきまでは『薬師が増える』と喜んでいたのだが、どうしてこうなったのだろう……



「そもそもヒロさん、魔力水など薬師は簡単には作れませんよ?それに魔力容器?何ですかそれは!!ですが……免許の発行はしましょう!ですから……詳しい報告書をください!」



「ほ?」



「ほ?」



「報告書?」



「ほ・う・こ・く・書!!」



 アマナはそう言うと、薬師ギルドの焼印が押された羊皮紙を持ってきて僕へ押し付ける。


 『嫌とは言わせない』と言う圧が額の青筋から見てとれる……



「ですが僕は……明日にはコールドレインに戻るんです……だから……」


「じゃあコールドレインの冒険者ギルドに提出お願いしますね?7日後には連絡馬車が往復しますから!じゃあお願いします!」



「え?でも……ほら冒険者だから色々忙しいし……」


「ほう?ならこの素材は要らないと?母から聞いて『ありったけ集めたのに?』要らないんですか?」



 アマナの大人の駆け引きを垣間見た……欲しい物を手に入れるための大人の汚いやり方だ……


 猛烈に反対したいが、敗戦濃厚である……



「じゃあ……それと引き換えに書いて提出します……魔力容器だけで良いですか?」



「駄目です!魔力水も!」



「で……でも……魔力水なら魔導師ギルドに頼めばいくらでも買えますよね?確かアルカンナさんの話では……妹さんが向こうに居るとか居ないとか……コネを使えば買えるのでは?」



「は!!なんて事………も……盲点だったわ!!今すぐ魔法職を選んだあの馬鹿な妹の所へ行かねば。そして……何としても妹に承諾させねば!魔力水が無料で手に入るじゃない!!頼み事は嫌だけど……くぅぅぅ!!」



 僕は話に続きがあったが、もはや言える雰囲気では無いと悟ってしまった。


 ちなみにその内容は『薬を買いに来た魔法使いに、魔力水の製薬依頼をすれば良いだけだ……』と言いたかったのだ。



「母さん!ここまで来たんだから……ちゃんと最後まで付き合ってくれるのよね?」



「アマナ……何を言うんじゃ!?この年寄りに何をさせる気じゃ?」



「私が久々に妹に会うって言ったのよ?姉妹喧嘩で街が大変になっても良いの?一応言っておくけど『此処は帝都』よ!?」



 僕は意味がわからず、二人の話をただ黙って聞いていた。


 しかしアルカンナは『ぎゅるん』と僕の方を向くと……



「アマナ、この年寄りより適任者がおる!この坊主の方がこの婆ばより絶対にいいぞ?朝から騎士団長と手合わせしたと言っておった!」



 唐突にアルカンナは僕を売り払いに来た……僕は堪らず……



「いや……薬師ギルドへ提出する報告書を書かないと!ほら向こうの街に戻ったら忙しい…………」



 アマナは僕の首根っこを『ぐわし』と掴むと……『へぇ……騎士団長と戦えるタフさが売りなんだ?丁度良いわね』と言って、ニタリと笑う。



「アセビ!私の代わりに、今から薬師試験の総監督を頼みます!後この少年は銀級1位の登録で薬師免許の処理ね」



 アマナは、試験中にも関わらず職員へどんどんと指示を出す。



 製薬中の皆は気になって仕方がない様だ。


 だが突然彼らの目の前で薬師の銀級冒険者が誕生したのだから、それも当然だろう……



 しかしアマナは周囲に目もくれず、思ったことを口走っていく……



「えっと……あとは……ウヤク!貴女は、彼が作った薬剤の瓶詰めをお願い。下にいる職員を使って瓶詰めの指示をしてちょうだい!ギルド在庫半分の薬瓶を使用していいわ。あとは瓶が集まり次第詰めて!」



「ギルマス……質問していいでしょうか?彼の製薬した膨大な量の傷薬は……ひとまず何処へ集約しましょう?」



「そうね………ヒロさん……貴方ならどうする?」



「え?僕ですか?……僕なら……持ちあげられるサイズの木樽(小)に入れます。そして密閉してから熟成させて、薬効を底上げしますけど……。精度が高いので、多分10日もあれば+2になりますから……」



「「「「……………………」」」」



「……前・言・撤・回!!ギルド用の瓶へ半分詰めたら薬品蔵に10日間保管。残りは木樽に詰めて両方熟成よ!そして瓶が+2になったら、木樽は全て瓶へ詰め替える。ウヤクいいわね?」



「はい!では、ひとまず収まる数の木樽を持って来ます!」



 キビキビと動く職員を見る限り、僕は魔導師ギルドへ共に連行されるのだろう……


 元々魔導師ギルドへ行く予定ではあったが、心象の良さは諦めた方が良さそうだ。



 何故ならこの姉であれば妹と衝突するのは必至だろう。



 ◆◇



 結局僕はアマナに連れられて魔導師ギルドまで行く事になった。


 場所的に冒険者ギルドが近いので戻った形にはなる。



 薬師ギルドのギルド証は出る時に即座に渡された。


 魔導刻印を押すだけだったので、そこまで時間は要さなかったからだ。



 しかしアマナは母であるアルカンナを野放しにはしなかった……結局僕はアルカンナを背負いまた来た道を戻る事になる。



「お前さん……難儀の相が出ておるぞ?」



「ア………アルカンナさん……それの半分はお婆ちゃんのせいでしょう?」



「仕方なかろう?あの娘見たじゃろう?猪突猛進なんじゃよ……」



「そうですね……語らずとも把握です……」



「何よ!?二人して……先にお願いしたのはお母さんじゃない!それに魔法水と魔力容器を説明したのは、そもそも貴方でしょう?」



 先程まで厄介者扱いしていた筈だが、既に僕の技術を認めたのか、アマナの話し方は出会った時と同じになっている。


 ちなみに説明したのはシャボンにであって、ギルド職員にではない……と言いたいが、虎の尾をわざと踏む必要はないだろう。

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