第896話「暴走?迷惑なステータスの恩恵」


 皆が隠れている窪みでは、ちょっとした事件が起きていた……


 あのサザンクロスの齎す威圧に、全員が耐えていたのだ。



 それどころか若干様子がおかしい人がいる……それは『アユニ』だ。



「ヒ……ヒロさん……アユニを止めて!!この子……バーサーカーの気質があるかもです!!」



「敵にとって不足なし!!龍がなんぼのもんじゃーい!!アイツを倒せば、アテクシは晴れてドラゴンスレーヤーじゃぁぁぁ!!」



「な!?アユニ?……アサヒさん何故彼女はこんなふうに?」



「ヒロ……非常に不味いぞ……。ある意味アユニのお陰で私達はスタンしなくて済んだが……今はそれ以上の問題だ!」



「騎士団長さん……どういうことですか?何故アユニが………」



 巨大な龍を目の当たりにすると大概に者は戦意を失い、死を覚悟する。


 しかし今はそれ以上の事が起きている……サザンクロスの覇気に当てられて、大概の者はへたり込んで戦意を失う。



 本来はサザンクロスだけでは無く、オーガやトロルその他の魔物でも戦意を失うことが往々にある。


 しかし稀にだが、特定の魔物に関して戦意を以上に発揮する場合がある。


 特定種や個体への憎悪や戦意倍増、そして戦意判定無効……それが『スレーヤー』と呼ばれる者達の総称となる。



 特定の魔物や種族へ恐怖を抱くこと無く、『戦意』だけを残す状態になるのだが……



 主にスレーヤーは『ドワーフ種』に多い……稀に人間にも発現するが……



 今アユニがなっている状態こそが、『ドラゴン・スレーヤー』の特質だと騎士団長はいう。



 僕はアユニの簡易鑑定をする……『NEW・ドラゴンスレーヤー獲得……龍種への戦意判定無効・敵対関係(龍)・ダメージ2倍・ヒット判定2倍・猛進・激昂(龍種限定)・パニック無効・恐怖・恐慌無効(龍種限定)・ステータス異常耐性(全ステータス)・龍を狩る者<龍種への100%範囲耐性効果>』




 どうやら、アユニ自体はステータスの敵対関係(龍種)というのが、現状でかなり影響している様だ。


 そして周囲への範囲効果である、龍を狩る者<龍種への100%範囲耐性効果>の所為でで周囲は、恐怖及びスタンせずに済んだと思われる。



 アユニは龍の威圧を受けて、その資質を開花させたのだろう……


 しかし相手が悪い……ゼフィランサス達の姉であり、帝国騎士団の象徴だ。



 そもそもアユニのレベルでは、サザンクロスに敵う筈もない……


 あの全てを弱体化させた人間形態でも、デコピン一発で大霊界まで吹っ飛んでいく筈だ。



「アユニ……ごめんね!」


 僕はそう言って手刀を『ストン』と首筋に打ち込む。


 意識を失わせる為にやったものの……僕とアユニのレベル差もあり、彼女のHPゲージが凄い勢いで減っていく……



「あ……アユニが……カクカクしてる!!そして何か言いたげにプルプルしてる……」



「ちょ……泡吹いてますけど………意識がある様ですよ?何したんですか!ヒロさん?」



 アサヒとマナカが、慌ててアユニを介抱する。


 僕は何故アユニが意識を失わないのか不思議でならない……何故かと言えば、少し強めに首筋に手刀を打ったのだ。



「な……何で意識が?………意識を失う様に手刀を打ったんですけど……」



「ヒロ殿!もし彼女がスレーヤーのステータスを得ていたならば……それの所為かも知れませんぞ?以前聞き齧っただけですが、意識を失うこと無くドワーフの英雄は、龍種と戦い続けたと言う話があります故!」



 そう言った騎士団長の言葉で、僕はアユニのステータスを再確認する。


 すると『ステータス異常耐性(全)』というものに気がついた……


 どうやら龍種だけに限定した力ではなかった様で、その所為で意識を失わない様だ。



 意識朦朧とするなか、アユニはか細い声で僕を呼ぶ……何かを伝えたい様だ……



「お……おのれ……師匠め!!あの龍を……一人で狩るつもりですね……龍の美味しいお肉を独り占めなんて……この怨み……はらさでおくべきか……『カク』……」



 何故かアユニはそう言うと、意識を失った……



「アユニさんが!!…………」



「し……死んだ?」



「「死んでません!」」



 僕はアサヒの訴えに冗談で言ったつもりだが、不謹慎だった様だ。


 しかし意識を失う前に言った言葉を聞いたら、冗談の一つも言いたくなる……


 意識を失う最後の最後まで、アユニらしい一言だった。



 一応僕は念の為、アユニのステータスを確認する……HPの残量は問題ない様だ。


 残りHP23で減りが止まり、彼女は『すぴー』と寝息を立てている。



『状態・失神 新ステータス獲得・デーモンスレーヤー(限定種)・アンデットスレーヤー(限定種)・デビルスレーヤー(限定種)・エレメンタルスレーヤー(全エレメンタル)・スピリットスレーヤー(全種族)』



 アユニは失神した事で、龍種への戦意を一時的に消失させた。


 しかし代わりに得てはいけない『ナニカ』を得た様だ……その限定種が僕でない事を祈る他ない。



「とりあえずアサヒさんは、アユニさんの回復をお願いします。この後もこの渓谷を通らないと、帝都へは行けないでしょうから……今の少ないHPでは心許ないですから……」



「は……はい……。ところで……あの龍はもう大丈夫なんですか?ヒロさん何やら話していた様ですけど……サザンクロスって言ったら、あの伝説の龍の一柱ですよね?」



「大丈夫ですよ?アサヒさんはサザンクロスを知ってるんですか?まぁ……詳しくは後で話しますから……」



 僕はそう言った後、全員に聞こえる様に『今は魔物が此処周辺に来る前に早く立ち去りましょう!』と伝える……


 魔物はサザンクロスだけでは無くいからだ。



 ◆◇



「………と言うわけで、彼女は人族に危害を及ぼすつもりではなかった様です」



 僕は一度話をするために、御者席隣の控え席から馬車の中に移動した。


 騎士団長も詳細を聞くために引き続き中に居るので、内部はかなり手狭だ。



「成程……たしかに以前、伝説の龍であるゼフィランサスとエーデルワイスが帝都の上空を旋回した事があった。その時に突如現れた、水龍サザンクロスが追い立てて、帝都は事なきを得たんだがな……」



「それにしても……ヒロさんが彼女達が取得した餌を持っているなんて……。サザンクロス様が『匂いが』どうのと言っていたのは、それが理由なんですね」



「アサヒちゃん、問題はそれだけでは無いわよ?そもそも伝説の火龍が、食べる為に狩りをしてきたオルトスの肉って、手に入れられるものなんですね。どうやったら貰えるんですか?そんな物。……まさかお金で買ったとか?」



「って言うかマナカちゃん……そんなお肉は貴族でも買えない金額なのでは?それに伝説の火龍には、お金の価値なんか意味が無さそうですけど?」



「いやいや……かなり前にちょっとした事件のお詫びに、ジェムズマインの領主様に貰ったんです。領主様が火龍と何か契約をしている様で……。契約内容は詳しくは知りませんけど」



「ジェムズマインの領主が?だから王国側への往来禁止に……。封鎖状態になってるのも理解できます」



「まぁ帝国の封鎖事情は詳しく知りませんが……。ちなみに腐らせない様にその肉を燻製にしてたので……。まさかサザンクロス様が匂いを嗅ぎつけるとか思いませんでしたし……」



 僕は必死に嘘をつく……


 話を信じて貰えるかどうかは二の次だ……

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