第895話「サザンクロスの忠告」
ちなみに彼女にはアンデッドまで揃っている……とはもう言えない……
王都にはミミ……帝都にはモルダー
二人は間違い無く、ヤバイ種類の死霊種を扱うアンデットマスターだ……
ミミに至っては、言葉こそ通じるが暴走するので魔物より危険だ。
彼女の誤解を解いた今、此処で悠長に話している場合では無い。
目的がある以上急がねばならないし、ドドムの件も並行して探索せねばならない。
今は全てを『ダイバーズ』に任せているのだ。
「あの……サザンクロスさん……僕達は今、帝都に薬を届ける必要があるんですよ!それに僕は……元の住んでいた世界に帰るのが目的ですから!色々調べ物が……」
「はぁ……言いたい事はよく分かったわ……何かあったら私を呼びなさい。助けられる事なら助けてあげるわ……貴方を早く元の世界に帰さないと、この世界がヤバそうだもの……」
そう言った彼女は『元々危険な状態なのに……これ以上問題を抱えるのは御免だわ!』と言った。
「私の名前は『サザンクロス・オーダー・グランセノーテ』よ……覚えておきなさい!」
「サザンクロス……いい名前ですね?確かサザンクロスは花言葉で『願いを叶えて』ですね……今の僕には嬉しい限りです」
「貴方は変な人ね?でも良いわね……『願いを叶えて』と言う意味は……。それはそうと、貴方の世界にはサザンクロスと呼ばれる花があるのね……覚えておくわ……」
そう言った彼女は巨大な龍に戻る……
「さぁ、早く私にしがみ付きなさい……地上まで連れて行くわ。私はこの渓谷を縄張りにしてるけど、貴方の匂いは覚えたからもう襲わないでおいてあげる……」
サザンクロスは『貴方が私に喧嘩を売らなければね?』と付け加えて言うと、地上に続く穴まであっという間に飛ぶ……
巨大な穴の部分は、鋭い鍵爪を使い器用に登っている。
事前に捕まる部分を尻尾に変えなかったら、壁との接触で地上へ出る前にすり潰されていただろう……
◆◇
「あの子が来たら貴方の居場所を教えておくわ。絶対に龍のまま行くなともね……それを気にしてるんでしょう?」
そう話しているサザンクロスは、穴から出た瞬間にはもう人型になっていた。
彼女は穴から出た途端、僕の事を考えてくれたのか人型になってくれていた。
しかしサザンクロスが人型になった事で、彼女の尻尾が突然消えた。
僕はしがみ付いていた尻尾が突然無くなったので、穴の縁に飛びつき地底湖へ逆戻りだけはなんとか避けた。
しかし穴の縁に掴まるのに必死だったせいで、騎士団のことまで気が回らなかった。
僕の姿を発見出来なかった騎士団は、剣を構えて水龍サザンクロスの動向を探っていた。
しかしサザンクロスが相手では、彼等などとても敵う筈もない。
そもそも帝国騎士団のエンブレムになった程の象徴である彼女に、彼等が弓を引くことは出来ない。
しかしながら、帝都に持ち帰る薬品を破壊させるわけにも行かない……
遂行しなければいけない任務と、自分達が誇りとする騎士団の象徴を前にして、彼等は完璧に板挟みの状況だった。
しかし穴から這い出てきた僕に、サザンクロスが手を貸した事で、彼等の緊張は安堵に変わる。
そして究極と呼べる緊張から解放された彼等は、なんとか生き延びたと言う事実から急に泣き始める……
「ねぇヒロ……あの騎士達は何故抱き合って泣いてるの?人間って変な生き物ね?」
「さぁ?流石に理由まではちょっと……じゃあ、サザンクロスさん……何かお願いがあったらまた渓谷まで来ます!」
「ええ……私も変質が始まったら、一応貴方には知らせに行くわ。もしかしたら、もっと変質資材が必要になるかもしれないし……」
僕はサザンクロスが龍形態のまま街に来られても困るので、余ってるクッキーを一袋渡す。
「もし必要なら使って下さい……あと……ゼフィ達と喧嘩は避けて下さいね?帝都が崩壊しそうで……」
サザンクロスは『フフフ』と笑うと一本の短剣を渡して来た。
「これは?」
「威厳ある龍族が『人間』に施しを受けられないわ。だから私からは代わりにこれをあげる……」
サザンクロスは皆に聞こえるように、僕の事をわざとらしく『人間』という。
人間には違いないが、周りと比べれば若干違いが見受けられる……
多分彼女なりの感謝と意味があって、それを渡して来たのだろう……僕は即座に鑑定してみる。
『古の龍牙の短剣(別名・龍牙サザンクロス)………魔力を込めることで、ドラゴン・トゥース・ジェネラル(龍牙兵種)の召喚が可能。龍牙兵にはグレートがあり、武器の元になった牙の素材によって召喚できる兵種が決まる。作り出しす為の素材は、最低300年生きた龍種の牙を必要とする。下位・ドラゴン・トゥース・ウォーリアー、中位・ドラゴン・トゥース・ナイト、上位・ドラゴン・トゥース・ジェネラル』
鑑定結果を見れば一目瞭然だが、彼女の真意を知る必要もある。
敢えて僕は質問をした……
「短剣ですね……これは何かの牙を短剣にした物ですか?」
「ええ……当然その牙は私の物よ?と言いたいけど……違うわ……。古龍ダールベルグデージーの物よ」
「な……なんか凄いですね……そんな物を貰っての良いのですか?」
サザンクロスは僕の言葉を聞いて、『牙ならまだ沢山あるもの……人として歩くときに武器くらいないと怪しまれるでしょう?その時用だから、武器一本程度で気にしなくていいわ…』と軽く言う。
僕はそれを聞いて確信する……
彼女は僕が街に来た時点で、その存在を感じ取っていた筈だと。
用意するにも、渓谷に入ってからでは絶対に用意できない。
その上自分の牙を『別の水龍の牙』と言った理由も腑に落ちない……
何故なら、貰った武器は彼女の牙を武器に変えた物で、彼女はその事実を隠したのだ……
他の龍の名を語ってまで、素材となった牙が自分の物である事実を隠す必要性があるとは思えないのだ。
しかしサザンクロスもそれを踏まえて渡しているのだろう……僕が質問をしようと口を開く前に言葉を発した。
「じゃあこの菓子は遠慮なく貰っておくわ。でも……誰彼構わずあげるのは辞めなさい?特に人間はダメよ?」
彼女はそう言うと、『それはそうと……隠れてる奴等には名乗ってなかったわね……<私は古龍、サザンクロス・オーダー・グランセノーテよ!>じゃあ帰るわね!』と大声で言うと、感知に映る周囲の魔物反応がスピードを上げてどんどんと遠ざかる。
どうやら魔物を追い払う為に、声へ威圧を乗せた様だ……
騎士団は喜んでいた筈が、今は腰が砕けてへたり込んでいる。
しかし問題はそこでは無い……今サザンクロスは異世界食品は『人間にはダメ』と言ったのだ。
「え!?人間にはダメ?……ど……どう言う事………あ!!サザンクロス!!今のは…………ああ…………」
サザンクロスは僕の言葉が聞こえているはずなのに、そそくさと穴の中に戻ってしまった……
僕は『答えてから帰ってくれよ!』と心の中でボヤく……
「ああ……何なんだ……人間には駄目?人間も変質するって事か?まさかな……エクシアさんも変質……まさかなぁ……」
僕はボソボソ呟きながら、腰が砕けて鼻水と涎を撒き散らす騎士団の元へ行く。
『ウォーター!』
僕はウォーターで騎士団全員の頭の上に巨大な水の塊を作って一気に水をぶっかける。
威厳が必要な騎士団の事を思いやった事だ……鼻水と涎で汚れた顔等、護衛中の冒険者達に見せられないだろう。
「さぁ!これで平気……えっと……目が覚めました?あと顔を洗えましたね?……皆を迎えに行くのに流石にね……」
そう言って騎士団に近づくと、口々に『漏らしちゃった……』と言い始める……
僕はそこまで面倒が見られないので、聞かなかった事にして皆が隠れている窪みに向かう。
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