第865話「幻影の扉と4階層の主」
「凄いですね!ギルドには色々な通路があるんですね?あっと言う間に外に出られました……」
「こんな経路があったんですね!」
アユニとアサヒは若干興奮気味だ。
まさか自分が階層主との戦いに参戦するとは思っていなかった様で、ギルド内の短い移動中にもギルマスから口を開かない様に怒られていた。
「おいアユニとアサヒ!此処からは絶対にお喋り厳禁じゃ!喋ったら置いていくぞ?これからいく場所はピクニックができる場所じゃない。命懸けなんじゃわかったな?」
ガルムは威圧混じりに注意を促す……
しかし、彼の言うこともと当然だろう。
相手は階層主だ……ゴブリンやホブゴブリンの小規模の群れでは無い。
最低何グループの魔物がいるか分からず、僕達3グループが入った時点で敵もそれだけは最低増える。
戦った事がない類の魔物だった場合、大怪我で済まない場合もある。
それに、アユニ達の騒ぎの声を聞きつけて、余計な冒険者が後をついてくる可能性も大きい。
ガルムの真剣な顔を見て二人は両手で口を抑える……何が何でもついて行く気なのだろう。
「さぁ、グズグズしておれん……4階層までは転移陣で行けるがそれはせん。それに4階層の安全部屋の確保は出来ん。既にそこで夜を過ごしている冒険者もおるだろうからな……」
「ガルムの言う通りだな!ギルドマスターとして『4階層へは行くな』と言うこともできんからな。打ち合わせ通り、5階層から階段を上がる方法でいいか?そうすれば見張りも少ないだろう……どうだ?ヒロ」
僕はガルムとギルマスに『任せます』とだけ伝える。
騎士団員には、ガルムの方から4階層の魔法刻印のある位置は教えているらしい。
僕がその説明をしなくても問題はないだろう。
僕等は無駄な話を控えて、足早にダンジョンの入り口まで向かった……
◆◇
「此処が例の場所か……一番最初に行くのはガルムの………オイ!!ヒロ勝手に行くな!!」
「テカロン!幾らギルマスとは言え、口出しは無用で頼むぞ?儂等の3つのパーティーで一番この場所を調べることが出来るのはヒロだけだ。この先の隠し部屋から先は誰一人見付けられる筈が無い……」
「そうなのか!?レック……お前でも?」
レックは不貞腐れる様に『俺にも見つけられなかったよ!!だが見てろよ俺だってすぐに追いつてやる!あれは本来シーフの専売特許だ!!』と言うと、魔法刻印を操作して転移する。
「おいヒロ……どうだ?」
「残念ですが門だけですね……今から開門するので幻影は無くなります」
僕は当初の予定通り『先行が僕で、連絡役にレック』を配置して行動に出る。
万が一の場合、レックには隠し部屋から魔法刻印を使い逃げて貰う。
幻影の扉を開けてどうなるかは、流石に開けないと分からないからだ。
扉を開けたことで、万が一隠し部屋に何かがあったら、それだけで大パニックになってしまう筈だ。
「では……開けます!!」
「おう!俺の準備も大丈夫だ。開けて何かあったらすぐにこの小部屋から逃げて、ガルムに伝えてくるぜ!」
『ギギギギッギィーーーー』
僕が幻影の扉に手を触れて思いっきり押し開ける……
誤って中に踏み込まない様にしつつ、扉を押さえる手に力を込め一気に押し出すと、扉は軋んだ音を立てて力の伝わる方向へ開いていく。
「…………………」
「だ……大丈夫か?何か変化は?」
「………部屋の中には、3メートルを超える気色の悪い化け物がいますね………視認が非常にし難いです!」
「視認が?……なんじゃそりゃ……ヤベェんじゃねぇか?聞いた事もねぇぞ?そんな魔物……お前が見つけた場所はホント厄介が多いな……」
万が一の時に逃げる予定のレックは、扉とは反対方向を向いているので、部屋内部の敵が見えない。
僕の指示が有れば、レックは何時でも隠し部屋である小部屋から逃げる準備ができている様だ。
今僕が見ている敵は、身長が3メートルを余裕で超える化け物だが、身長の割には非常に痩せこけている。
手と脚は非常に長く、肘から先が巨大な熊の腕の様な剛腕で毛むくじゃらだ。
そして指は全て鉤爪の様に鋭く尖っていた。
体毛は身体部分と腕部にしかなく、肩周辺から二の腕を通り肘までと、太ももの付け根から下は剥き出しの肌だ。
そして衣服などは、全く身につけてない。
しかし不思議な事に、その魔物を視認しているはずが、何故かあちこちがボケて見え辛くなる。
僕はその見たこともない魔物を鑑定する……
『ハイドホラー……悪魔種の魔物。他の魔物に憑依し混ざり合った存在で、純血種ではなくなった悪魔種。別名をグリード<欲張り>と呼ばれる。ハイドホラーの皮膚には、次元の隙間に干渉しすり抜ける効果があり、その存在は視認が非常に不安定。影を利用して移動し、相手を背後から攻撃する。鉤爪はミスリルに近い硬度があり、砕くのは困難。簡易ステータス・LV15 HP444 MP666』
それは『ハイドホラー』という魔物だった……
ボヤけて見えるのは、視認が不安定という事に由来する様だ。
視認が困難であれば見えないのだろうが、不安定という時点で『見えたり見えなかったり』と言う状態を示しているのだろう……
ダンジョン特有のルールに従って存在しているせいなのか、向こうから攻撃してこないのは非常に有難い。
4階層の階層主にしては非常にレベルが高く、初見では討伐が困難だ。
何故なら、影を移動する魔物などこの階層にはいない。
唯一『ゴースト』を討伐できる冒険者が、ハイドホラーの危険な攻撃を回避出来るだろう……
視覚外から突如現れるゴーストがこの階層に居る理由は、この階層主と深く関連があるのだろう……ようやく合点がいった。
魔物は部屋の中でこっちを見据えているが、襲ってくる気配はない。
「どうする?ヒロ……撤退か?それとも皆を呼ぶか?」
「此処を倒さないと先には進めません……。地図を見る限りこの先には部屋があります。ディーナさんのご亭主が居るなら、この階層ではそこしか無いでしょう……」
「分かった!今ガルム達をー呼んでくる。お前は絶対に単独先行するなよ?目を離した俺が怒られるんだからな!」
そう言ってからレックは、隠し部屋の外へ移動をする……僕は一人で中に入ろうか悩んだが伯爵との約束を思い出して踏みとどまった。
本当に余計な約束をした……と後悔するしかない。
◆◇
「ほう!?単独で入っていると思ったが!なかなか素直なもんじゃのぉ?」
「ガルムさん、僕だって行きたかったですが伯爵様と約束したんですよ。宝箱を持ち帰ると……僕だけで行けば得られても数箱程度でしょうけど、皆で行けば運が良ければ沢山手に入りますから……」
その返事にアユニは、質問を返して来た……
「ヒロさん!質問ですが……。今の言い方だと、宝箱は何かの条件で『出る数が増える』と言う事なんですか?ちなみにその条件とは?……」
「部屋にいる階層主やガーディアンの場合は、討伐したパーティーの数だけ宝箱が出るんですよ。まぁ前パーティー分必ず出るとは、流石に言えませんが……」
僕がそう言うと、ギルマスが『本当にその話を聞いたのが俺だけで良かった。お前……駆け出しと言う自覚はあるのか?』と言って、話に割り込んできた。
アユニが僕の発言で質問をしてくる事は予測も出来るし、此処数日でその経験もあるので冒険者としては当然のことだった……
僕は不注意にも『知っている事をそのまま』言ってしまった……
駆け出しである冒険者が、階層主やガーディアンそして幻影の扉や門について知り得るはずがないのだ。
僕はギルマスの言葉をはぐらかす様に、他の話題に切り替えた……
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