第855話「漏れた情報」


 僕は鑑定結果を見て『スカリーさんには余程の事があったんだな……』と複雑な気持ちが込み上げてくる……


 その理由は、怨念によりアイテムその物がかなりおかしい事になっていたからだ……


 物に宿る霊や悪魔と言うのを聞いたことがあるが、それが異世界では確実に実在する様だ。



 たしかにゴースト種と呼ばれるアンデッドがこの異世界には普通に沢山居るのだ。


 そのゴーストが何かのきっかけで、物に憑依してもおかしくは無いだろう……



 僕はモノクルを取り出して、モルダーに渡してから話をする。



 このアイテムは『モルダーだから影響が無い』とは書いてない。


 スカリーが憑依してしまったタリスマンは『喉仏の骨』がなければ、とても凶悪な呪物になってしまうのだ。



「モルダーさん……モノクルでアイテムをしっかりと見て下さい。スカリーさんがどうしてそうなったのか……一目瞭然ですから……」



「ヒロの旦那……すいやせん。お借りします……」



 モルダーはそう言ってから、僕から借りたモノクルを使って確認すると、絶句して何も話せなくなった。



「モルダーさん……このマジックアイテムは、ある意味モルダーさん専用の様な物です。ですが管理方法を誤れば、スカリーさんはモルダーさんを認識できない凶悪なゴーストになる様です……」



「そ……そうっすね……タカリー家が行った犯行の証拠品ではあります。ですが……俺にとっては、彼女の自我が最優先です……。単なる危害を及ぼすゴーストなんかにはさせられませんから!!」



 モルダーがそう言いながらモノクルを返して来たので、僕はそのままギルマスに渡して見て貰うことにした。


 これは『犯行の証拠品』であると同時に『ギルド管理』が必須なのだ……



 基本的にダンジョンでは、誤って落とした物だったとしても、それを拾った側の所有物になる。


 だから稀にだが、落とした側の冒険者が金を払い買い取る場合がある。



 しかし今回は訳が違う……


 殺人の物的証拠なので、暫くはギルド管理が必要になるだろう……


 その場合、ギルド職員が管理を誤れば、スカリーは冒険者やギルド職員を見境なく襲うのは間違い無い。



「ギ……ギルドマスター!!大変です!!……ひぃ!?……」



「ノ……ノックをしてから入る様に言っておったでは無いか……。むぅ……見てしまった物は仕方ない……どうした!?ビビってないでさっさと要件を言え!」



「お……鬼蜘蛛一家のゴッパが来ました。それも悪辣貴族………ゴホン!!……貴族タカリー家のご子息ブーン様とボーン様もです。ギルドマスターを今すぐ呼べと……」



 ギルド職員が慌て気味でギルドマスターを呼びに来た……


 どうやら逃げた悪辣冒険者から、主要人物へ情報が行き届いた様だ。



「面倒事が更に増えたか………お前は今行くと言っておけ。絶対にこの部屋にはタカリー家のボンクラとゴッパを入れるな。部屋に通す様に言ったら執務室へ連れて行け!今俺は『会議中』だ分かったな!!」



「は……はい!!」



 テカロンギルドマスターが職員へそう伝えると、女性のギルド職員はゴーストになったスカリーをチラチラ見たあと、部屋を出て伝えに向かう。



「想定内の事ではあるが、まさか黒幕のタカリー家のボンクラ兄弟まで来るとはな……」



「仕方ないですよ……余り考えて行動してる様には見えませんからね?あの兄弟は」



「じゃが言う事は分かりきっておるぞ?殺人の証拠品である短剣とタリスマンを回収に来たに決まってる……」



 僕はギルドマスターの言葉には相槌程度で済ませたが、ガルムの言葉には疑問を感じた。



「どういう事ですかね?凶器とタリスマンの事はあの兄弟が知り得ない情報じゃ無いですか?」


「むぅ?どういう事じゃ?」



 僕は状況を整理できてないガルムに説明をする。


 遺体を発見したと同時に、僕らは凶器と犯人を特定できる証拠品を見つけた。


 そしてスカリーの遺骸をモルダーが持ってギルドへ向かった。



 その後、再探索中に偶然助けた冒険者が悪質な冒険者だった。


 その時にスカリーに凶行に及んだ事実を掴み、確保した犯人の一人をギルド職員へ引き渡したのだ。



 ならばタカリー家の兄弟は、何時証拠品の情報に行き着いたのか……だ。


 僕達はあの場では、証拠品については一切触れてない。



 あの逃げ切った三人は、僕達が証拠品を持つ事実に行き着く事はない。



 その説明をすると、モルダーが土下座をする……



「すまねぇ!!俺が原因だと思います……犯人が捕まるとは思わねぇもんで……叔父貴に凶器の事を話しちまったんです……。それも裏にはタカリー家が居るとも……すいやせん!!」



「話したじゃと!?ハリスコにか!?………かぁ……大馬鹿もんめ……」



「へい……叔父貴は自分が手がけた冒険者を集めて『鬼蜘蛛一家へ報復する』と言って飛び出したんです……」



「まぁ今更言ったところで始まらん………。既にあの馬鹿共は共だって来ちまったからな!」



 どうやら原因は、ハリスコが鬼蜘蛛一家へぶち撒けた事が原因の様だ。


 モルダーはハリスコを追いかけていったそうだ。


 その際に鬼蜘蛛一家のアジト前で怒鳴り散らすハリスコが、証拠品である凶器とタリスマンの所持を語った。



 当然、鬼蜘蛛一家の親分ゴッパはそれを聞いて、子分共々アジトから飛び出して来たそうだ。


 此処からは僕の推測だが……鬼蜘蛛一家がそうなるのは当然だろう……


 鬼蜘蛛一家とすれば『金のなる木』の存在を、親切に敵側が教えてくれたのだ。



 凶器を手に入れる約束をした上で、タカリー家を強請るつもりだろう……


 鬼蜘蛛一家とすれば、兄弟の愚行を親に報告する事で其れは成り立つ……



 冒険者はハリスコの息がかかっている。


 長い年月をかけてハリスコは冒険者を育てた……その親が怒っているのだ、冒険者が黙っているはずはない……


 ギルドに報告へ来た時は理由が分からなかったが、現にかなりの冒険者が既にギルドに集結していた。



 それが帝国全土に知れ渡れば、貴族という貴族は冒険者に襲われる。



 善悪関係なく、貴族は冒険者から命を狙われるだろう。


 そうなれば完全に帝国の内部崩壊だ……



 それがタカリー家の主人が理解さえすれば、冒険者の殺害の証拠だ……



 高く買ってくれるはずだ……大凡言い値で。



 そして片方のタリスマンは存在を明かさず、闇オークション行きにするのだろう……子分が高く売れると言っていた。


 あの兄弟がどう頑張っても大金貨などは捻出できるはずがない……逆立ちをしても出てくる筈が無い。



 唯一の可能性は、証拠隠滅の為に『馬鹿な息子たちの親が払う』くらいだろう……



「成程どうりで手が早い訳だ。鬼蜘蛛一家は強請りタカリで、あの兄弟を思う様にしたい様ですね……。主に親の方でしょうけど……」



「すまんが話は此処までだ。貴族を待たせていれば此処に入ってくる恐れがある。もしそうなってタリスマンを持ち出されれば……」



 テカロンがタリスマンと遺骸を見た後スカリーを見たので、僕も釣られてスカリーを見る……



『デスクィーン・スカリー・クリプテッド……死霊種幽体系の最上位ゴースト。女性型魔物。非常に強い怨念と狂気を抱き、あらゆる生き物への殺意を持った霊体。死系範囲攻撃と範囲精神汚染が得意。耐性が無い者がデスクィーン目視した場合24H発狂状態になる』



「あ……ヤバイ……」



「だろう?………」



 テカロンはモノクルを使い、タリスマンを見た後スカリーも見ていた様だ。


 抜け目がないとは思ったが……



「テカロンさん……モノクルを返して下さい」



「…………見るつもりはなかったんだ……だがスカリーが只のゴーストだと思えなくてな……」



 そう言ってテカロンは、僕にモノクルを返して来た。


 僕へ謝る必要は無い……返して貰った理由はモノクルで『僕を見られない為』だからだ。



 中級鑑定スキルの効果があるモノクルは、僕のステータスも丸見えになる筈だ。


 僕はそれを避けたかっただけだ。



「テカロンさん平気ですよ。寧ろ自分から問題ごとを抱えただけですから」



「ああ、知りたくなかったよ……。ひとまず貴族対応に行ってくる。お前たちは対処法を考えてくれ。取り敢えずはスカリーについてだ!」



 そう言ってテカロンは貴族たちの元へ向かっていった。


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