第835話「再特訓で壊れるアユニ」
僕は周囲の冒険者の目を気にしつつ、モルダーに注意を促す……
「モルダーさん声がデカイです……道順は僕が調べるんで、魔物が出たらラームさんが盾で防御、アタッカーはアユニとアサヒ後はマナカで。レベル上げが目的なので、他の人は手出し無用で。あと攻撃時の指示役はマナカがして下さい。準備は良いですか?」
僕は魔法の地図でショートカットしつつ、昨日の惨事が起きた大広間へ向かう………
「はぁ………はぁはぁ………アサヒ平気?」
「ゼェゼェ………私よりラームさんが………」
「俺は平気ですぜ?ゴブリン程度の攻撃だったら、こんなもん数に入りませんから……」
それを聞いたアユニは若干キレ気味に………
「ラームさん?キレて良いのよ?……っていうか……ゴブリン三十匹の群れに突っ込まされて、平気って言わないで!!タンクの盾訓練って貴方は言われてたけど、それは絶対嘘だぁぁぁぁぁ!!」
衛兵達が部屋の入り口で立っていたが、僕は『中の魔物を狩らなければ増える一方だ!』と言い張って中に4人を突入させた。
そこからは乱戦だ……当然だが、マナカの明確な指示待ちなどしていたら、ゴブリンでも痛い攻撃を喰らうだろう。
臨機応変に闘う訓練と、的確な指示を出す訓練には良いかも?と思ってやったのだが、ちょっと早かったかもしれない。
エクシアが、ファイアフォックスの銅級パーティーを、魔物の群れを見つける度に放り込んでこうやって戦わせていたのだ。
それを思い出したからやったが……反応は誰でも同じことを言うもんだ……と感心する。
一応、安全のためにモルダーも控えさせているので、危険なことにはならないだろう。
「それで?……ガルムさん……テカロンさんは何て言ったんですか?」
「お前はそれを聞く為に放り込んだのか?エゲツナイのぉ……以前魔法を扱うパーティーが部屋で乱獲をしたそうじゃ……6人全員魔道師で、距離を保って闘う魔導師が一辺に経験値を稼ぐには適した狩ではあったがな……それで同じ事が起きた」
そう言ってガルムはその時の詳細を説明した……
魔導師達は、ゴブリン相手に乱獲をして経験値を稼いでいた……
3人一組になり2箇所に分かれ、部屋を回る様に狩っていたそうだ。
部屋には当然だが他の冒険者もいた。
だが揉め事も無く其々が狩りをしていたと言う。
そしてメンバーの一人は、こまめに倒した魔物の数をカウントしていた……
魔導師達の討伐数が五十匹を超えた時、魔法陣が浮かび上がり仲間3人と周囲の冒険者達も吸い込まれたそうだ。
しかし残念な事にそれに驚いた冒険者達は、部屋から飛び出てしまい様子を伺うことしか出来なかった。
その結果、魔法陣は約一日で消えて、仲間3人と他の吸い込まれた冒険者達もダンジョンから出てくる事は無かった……
それから僕達が開くまで、あの部屋は現れることはなかったと言う。
この件の共通点は『魔法で大量に狩りをした事』そして倒した魔物の数だ。
此処からは僕の推測だが、このダンジョンでは特定の数の魔物を倒した場合、あの魔法陣が出ると思われる。
それも累計の数ではなく、極めて短時間の間にそれを行う必要がある。
あの時やったのは、アユニによる部屋の魔物を纏めて狩る『エリア魔法』だ。
2発撃った事でそれに該当する行為になった可能性がある。
過去にあのゲートを出した魔導師達は、どのくらいの時間で五十匹を狩ったのか……それが分かれば条件をさらに絞れるだろう。
しかし3階層のあの部屋が再度開くとは考え辛い。
なぜかと言えば、理由は至って簡単だ。
ゲートが閉じたのではなく、部屋そのものが『消滅』したのだ……
しかし、開ける条件が分かったところで、冒険者にとてはとても危険な事なのだ。
そのゲートは間違っても開くことは出来ない。
「ガルムさん……その頃の3人の魔導師は今どこで何をしてますか?少し聞きたい事があるんですが……」
「残念じゃが聞く事は永久に出来ん……既に死んだよ。ダンジョンで仲間を探し歩き、帰ってきておらん。低層階でギリギリなのに3人で中層へ降りたと思われるんじゃ……仲間の遺体だけでも持って帰ると言って、聞かなかったんじゃよ……と言ってもわしがまだ駆け出しの頃の事じゃからな……」
それを聞いてビックリする。
ガルムが駆け出しと言う事は、少なくとも10年以上は過ぎているだろう……
ちなみに10年でも銀級冒険者として結果を出せれば早い方だ。
そして、その魔導師達が問題を起こしたのは、それよりも前となる。
「なんじゃ?何かあの事件に結びつく事がわかったのか?…………じゃがそれを解決する前にアイツ等を何とかせんとな?死んじまうぞ?」
「あ!?………あれ……ゴブリン・チーフテンですね……チーフテンも湧くんだ。だからゴブリンの動きが良くなったんですね。ちゃんと指示通りにゴブリンが戦ってるし……」
僕はガルムと話しながら呑気に状況を読み取る……
しかし僕の『ゴブリン・チーフテン』の言葉を聞いて、ガルムは急いで立ち上がる……
「なんじゃと!?……ゴブリンチーフテンじゃと!?………お前……『指示通りに戦ってるし……』じゃねぇぞ!……おい、クレム!アンガ!チーフテンじゃと……片付けに行くぞ!駆け出しじゃチーフテンを仕留めるのは無理だ!」
ガルムの言葉に反して、アンガとクレムは状況を見て言葉を発した……
「ガルム………そうでもなぇみたいだぜ?」
「ああ、アンガの言う通りだ……あ!頭吹っ飛ばされて死んだ……あのアユニって子はヤベェな……。もうほぼ間違いなく、ピンポイントに撃ち込むぞ?でも相手が吹っ飛ぶ度にケタケタ笑ってるけど……大丈夫か?アレ?」
それを見たガルムは頭を抱えて………『ギルマスが言ってたのはこれか!!………しくじったわい』と言って戦闘中の全員に指示を出す。
「おい!全員帰ってこい。休憩じゃ!!………ケツに噛み付くゴブリンは、アンガとクレムが後始末せい……」
急に指示を出されたクレムとアンガは重い腰を上げる……
「はぁ……行くかアンガ……」
「ボスの命令だ……仕方ねぇ……」
◆◇
「はぁはぁ……尋常じゃねぇ……ヒロの旦那!こりゃ何ですかい?……宝箱の山ってもんじゃねぇですよ?……ゲホゲホ……それにしても休む暇もねぇってのは、こう言うことですね……よく娘達は………ってか一人既に壊れちまったな……」
そう言った先を見ると、アユニがゴブリンを威圧していた……
「ゴブリンなんかなんぼのもんじゃ!私の魔法で全部倒してやるわ……」
「アユニ!わかったから……今は休憩だからしっかり休みなさい!」
「ヤダヤダヤダ!!マナカ早く行きましょう!?休憩なんか勿体無いわ……経験値が群れでいるのよ?」
ガルムはそれを見て『経験値が群れているわけじゃねぇぞ?アレはれっきとしたゴブリンじゃ……よく目を開けて……!?……うぉ危ねぇ……俺はゴブリンじゃねぇぞ!?』と言いかけた途中で……アユニにぶん殴られそうになていた。
人間を殴っても経験値にはならないだろうから、是非やめてあげて欲しい……
これ以上変な事をしでかす前に、僕達は下層階に降りた方が良さそうだ。
「じゃあ……レックさんが宝を回収したら、4階層へ降りましょう……今日は5階層へ降りるのが目的ですから。一応5階層へ向かい魔性石を届ければアイテムが貰えて3人は装備が増えて助かるし、何より1発クリアですから!」
僕は同じ駆け出しの3人に今日の目的をハッキリ伝える。
「で……でも……お師匠様!私はもっとしっかり闘い方を伝授してほしいです!特に魔法を!………」
「………アユニさんの魔法の師匠になった覚えはありません!弓を持ってなかったので、最低限の遠距離を教えただけですから。それに、魔術について知りたいのなら魔導師ギルドに行きましょう……。僕よりもっと詳しい扱い方を専門家が教えてくれます!」
僕はアユニにそう言いつつ『自分もこの機会に行こう!』と思った……
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