第833話「ダンジョンについて来た男」
クレムは僕の視線を追いかけて、気になったのか話しかけてきた……
「おうヒロ……周りが気になるか?……残念だがオメェさんが昨日関わった奴は、もうダンジョンに行っちまったぞ?あと3階層にいってた奴はギルド会議室だ……。報酬契約の話で大変なんだとよ!」
「がぁ!?ダイバーズのクレムさん!!オレはラームって言います!!……アンタはオレの憧れなんだ………スゲェタンクだよ!アンタマジで……」
「お?そうか?だが俺よりオメェの方がタンク的には素質あるぞ?そのパヴィースを軽々と装備してんだからな。タンクはパワーと筋肉だ。脳味噌は要らねぇ……オメェが死んでも仲間は守れ!!いいな?ラーム」
憧れているクレムがそう言うと、ラームは少しだけ自分に自信が持てたようだ。
僕はダンジョンへ行く準備をして事務処理をするクィースに話しかける……
「クィースさん、今日は5階層に行く予定です。ギルマスはそう言っておいて下さい……」
「はぁ……昨日の今日でもう5階層?貴方達はまた問題を起こしそうですね……。テカロンギルドマスターへは取り敢えず伝えておきます。今会議室なので後でですけど……」
「クィースさんにクレムさん……じゃあ、行ってきます!」
「おう!後でガルム達と様子見に行くぜ!無茶させんなよ?ヒロ……」
「クレムさんの言う通りですよ?無理は禁物です……。アユニさんはそれはもう……。誰かさんのせいで今まで話に付き合わされたんですからね?……魔法剣士に憧れて、それはもう大変だったんですから!!」
クィースの顔には若干疲れが出ている。
アユニがした熱弁の賜物だろう……
僕達は二人に見送られる形でダンジョンの入り口へ向かった。
◆◇
僕達はダンジョンの入り口に立つ。
「はい、らっしゃい!!らっしゃい!!このダンジョンに潜るならウチの地図を買うといいよ!昨日起きた『三階の事件』詳細が書いてある羊皮紙付きだよ!」
「!?」
僕はその売店のオッチャンの言葉に釣られて側に行く……。
「お!?坊主気になるのかい?だが坊主はまだ早いなぁ……その成りじゃぁ3階は厳しいぞ?まぁ地図はあった方がいいがな?」
「その羊皮紙だけ見たいんですが……幾らですか?」
「おっと!これは売り物じゃない。地図を買わないとオマケにはつけないぞ?」
僕は仕方なく買おうとすると……
「ラーム!お前がついてて何故地図を買わせる!」
僕達は急に後ろからそう言われる……
振り返るとそこには両手剣を装備したモルダーが居た。
「モルダー親分!………何故此処に?」
「親分って言うな……ヒロさんに迷惑が及ぶだろう?いい加減頭を使え……今日からは『モルダー』と呼べ!」
「ええ!?………親方まで何を………あ!……」
ラームはモルダーに睨まれて仕方なく『モルダー』と言い直すが、表情からしてどうもしっくり来ないようだ。
「ラーム……それはそうと、地図を購入させそうになるなんて……お前持ってるだろう?」
「え?……ああ……そうでした……」
「そうでした……じゃねぇよ!ヒロに無駄な金使わせんな………」
僕は二人の……と言うか一方的なモルダーの話に割って入り、羊皮紙に話をした。
「成程………それならオレに任せてくれ……」
そう言ったモルダーは、地図売りのオッチャンの所に行く……
「おう!売上はどうだ?地図売りのカジィ……実はちょっと頼みがあんだ……その羊皮紙だけ分けちゃくれねぇか?昔からの知り合いだろう?」
「おお!モルダー!……なんだよあの小僧はお前の知り合いか?この羊皮紙が読みたいって言っててな……お前から………うん?寄越せって?……お前まで何を………ちょっと待てよ………此処に書いてある冒険者ってまさか……オマエか!?マジかよ!モルダー!!オマエすげぇな?……」
「あ?………ああ……まぁそう言う事だ。あの小僧にオレの偉業を見せてぇんよ……」
「そう言う事ならいいぜ!ちゃんと死なねぇ様に面倒見ろよ?オマエ小さい時からハリスコさんに世話になったんだから……後輩育てるのも必要だぜ?」
地図売りのオッチャンの言葉を聞いて、アユニがカチンとときた様で、文句を言いに行きそうになったのを僕は引き留める。
「此処は人が多いです。皆は既にギルド会議室でカンヅメなんですよ?此処で何か話すことになったら……二日の猶予が無くなるから!……それに他の人が目立てば、僕は自由に動けるんだから!ついて来られて困るのは三人でしょう?」
そう言うとアユニは………
「あ!そうか……最大6人パーティーでしたね?……でも……ラームさんが入って問題ないんですか?」
「アユニちゃん……ギルド職員は『何処の誰と組みなさい』とは言ってないでしょう?……駆け出し2名マッチングのまま組むなら4名もしくは最大6名だから……。ラームさんは駆け出しはクリアしてるんだよ?そういう事なんだよ……使えるものは誰でも使うのが冒険者だから……」
「なにそれ!?……引っ掛け問題?……くぅ……また引っかかったなぁ……私……。そうか……言われて見れば確かにそうでした……」
そう話してしていると、モルダーが羊皮紙を持ってきてくれた。
「コレが読みたかったんすよね?……何か問題なんですか?」
僕は簡潔に昨日起きた事件を話す……
そして『誰が情報を漏らしたか』そして、転移陣の中の試練の間の事が書いてあるのか……それを確認する為と言う。
「マジっすか?……昨日3階層に降りてれば……クソ……運がねぇな……」
僕は話半ばで羊皮紙の内容を読む……
どうやら書いてあるのは戦闘終了後の状況らしく、内容は全て衛兵目線だった。
「これは衛兵が調査した内容を一部抜粋で書いたものですね……。あの叔父さんはその情報を買い取ったのかな?……まぁ内容が知れて一安心です……」
「ヒロは一体何を危険視してたんで?……その羊皮紙読んでも、現場を見ていないオレには、イマイチわからねぇんですけど?」
モルダーは率直な質問をして来たので、僕は少し考えてから彼等の安全のために話す事にした。
彼等は武器を探して彷徨う武器商人なのだ……
失ったメンバーの補充をして中層に再度トライした場合、今までとは違う危険が伴うと思ったからだ。
モルダー達が運悪く、あの試練の間の洗礼を受ける可能性は捨てきれない。
「此処に書いてある『アレ』は3階層の試練の間って事っぽいんです……。だからもし牛鬼組でこのダンジョンを探索する時は、絶対に6人でして下さいね?……じゃないと死にますよ?低層階でもパーティーが分断されたので……。それに早く助けに行かないと中に飛ばされた側は間違い無く全滅です……魔物の数が尋常では無いから……」
僕がそう言うとモルダーは……非常に真面目な顔をして……
「そう言う事なら……オレも今日は同行させて頂きます!……って言うか……オレ含めて6人ですよね?……言っている側から、5人で行こうだなんて……危険すぎやしませんか?」
モルダーの言う事はごもっともだった………
「昨日は3階層まで階段で降りて、事件が起きたので転移陣を使ってませんでした……今日も結局階段で降りるしかないですね……」
僕がアユニ達にそう言うと、モルダーは『俺たちが案内しますよ……でも4階層は通った方がいいですね……』と言った。
どうやら5階層へ降りる迄は、各階層にギルド職員の監視がある様だ。
ギルド職員の監視は当然だが不正対策でもあるが、危険な状況に陥りやすい駆け出し冒険者救済の要素が大きい。
僕達も何かあれば、いつでも助けてもらえる環境という事だ。
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