第832話「ハリスコとモルダーの過去」
テッキーラーノ商団のハリスコは、幼かったモルダー達を奴隷商から買ったそうだ。
ガルムの説明では、ハリスコは幼かった彼等を見て見過ごせなかったそうで、大金を払ってまで彼等を引き取った……
そしてモルダー達は実力を養い、ダンジョン中層を闊歩できる程の冒険者になった。
その後ハリスコを父親と呼んでいたモルダー達は、やがて店を任される様になった……
店を任されたその理由は、ハリスコの王国への店舗拡大の為もあったそうだ。
店の改名もその時で、牛鬼組はテッキーラーノ商団傘下になった。
そして冒険者の気持ちがわかるモルダーは自分の店を使い、駆け出し限定に格安で武器を卸して『駆け出し冒険者の帝国武器庫』と呼ばれるまでに至ったと言う。
当然お礼として冒険者はモルダーに店で武器を売る。
自分が世話になった店なのだ……そうする冒険者は多かったと言う。
冒険者にとって、素晴らしい循環が出来た訳だ。
それからハリスコは王国へ旅立ったが、帝国の皇帝が病に伏した事でハリスコが帝国という自分の古巣へ帰った。
そして牛鬼組諸共スラムに飲まれ現在に至る。
因みにこの一角はハリスコ達の息がかかった区画だったそうで、その恩恵がまったく無くなったので、たった二年程度で急速に衰えたそうだ。
その裏に悪辣貴族達が居るのは、言うまでもない。
テッキーラーノ商団が衰えたのは、現在の仕組みに問題があった。
帝国内で手に入れた武器を国外に持ち出すにしても、帝国の許可がいる。
小国郡国家と王国は戦争状態だからだ。
近隣諸国もどう動くか様子を見る必要があるので、国外への武器販売も確かに考えものだろう……
現在は皇帝が病なのを良い事に、悪辣貴族がやりたい放題で、その皺寄せが商団への圧力だ。
悪辣貴族に賄賂を渡さなければ、現在の帝国内では店を構えて満足に販売さえできないと言う。
武器商をしているハリスコは今が一番のかき入れどきだが、問題の悪辣貴族達が邪魔をしたせいで儲けどころか赤字に転落。
そして財産の全てを失った。
問題の牛鬼組は、何とか立て直そうと無理にダンジョンアタックを繰り返し、パーティーメンバーを失ったそうだ。
その事もありダンジョン中層へ潜り武器調達が出来なくなった。
満足な武器卸しが出来なくなった事で、彼等は自堕落な生活を余儀なくされた。
低層階では大した稼ぎにもならず、ゴブリンやホブゴブリンを相手に小銭稼ぎをする様になったのだ……
「成程……でも鬼蜘蛛一家と牛鬼組は別ですよね?何故牛鬼組が悪者扱いされたんですか?何か理由でも?」
「簡単じゃ……。悪辣貴族の差金じゃよ……。金払いが悪いから思い知らせる為に悪漢を雇って名を語らせたんじゃろう……そもそも鬼蜘蛛一家の後ろ盾は貴族という話じゃからな!」
成程……と思ってしまう……
どうやら悪辣貴族はこのスラムになった区画を面白く思っていなかった様だ。
言い換えればハリスコは悪辣貴族の注目を買ってしまった。
多分問題は『ガラスの靴』ではないだろうか……
娘を貴族へ嫁がせると言っていたのだ……それも『王国貴族』の方に……
帝国の出身なのに献上先に『王国貴族』を選んだ事で、ハリスコは帝国貴族達から悪意を集めてしまった事になる。
そしてその本人が帰って来たのだから、悪辣貴族の矛先は当然彼とその周りに向かうだろう……
そう思った僕は……『また悪辣貴族問題か……厄介なバカが沢山集まりそうだ……』と思ってしまった。
◆◇
「まぁ……ヒロも帰って来て、この一画も消し飛ぶ事がなかったのは良い事じゃ!さぁ帰って寝るかのぉ………はぁ散々な一日じゃった……」
「それは私も同じですよ!ガルム騎士団長」
「今の第一師団の騎士団長はお主じゃろうが!……ワシはもう只のガルムじゃ!」
「おっと………つい前の呼び方で………はははは。さぁ、帰りましょう!元騎士団長殿!」
多分そうじゃないかと思っていたが……やはり只者では無かったガルムだった……。
「遅くなってすいませんでした……じゃあおやすみなさい!ディーナさん」
僕はそう言って漸く眠りに着く。
夜のスラムは危険だが、僕には睡眠が必要ない恐怖のスライムがいる。この家に何か悪さをしようとすれば、窒息して失神するのがオチだ……
『ムグ………グガ……ブ………ムゥ……』
どうやら今日も誰かが釣れた様だ……スライムも朝まで暇しなくて済むので、この場がお気に入りな様だ……
そう考えていたら深い眠りについていた……
◆◇
「お兄ちゃん!!起きなさーーーい!!」
「桜〜もうちょっとだけ………ってか今何時?お兄ちゃんゲームしすぎて寝るの遅かったんだよ。母さんには朝ご飯いらないって言って〜登校時間までもうちょっと………」
「お兄ちゃん、ゲームとトウコウジカンってなーに?」
「!?」
つい夜更かしをした所為で、僕は寝ぼけていつもの様に答えてしまった。
メルルは聞いた事のない言葉に、朝ご飯の最中は質問だらけだった……
僕は返答に困り、誤魔化しながらもご飯を大口で喰らうと、ディーナが作ってくれたお弁当をリュックに詰め込んですぐに家を出た。
「ヒロさん!おはよう御座います……随分早いですね?半刻近く待ち合わせまでありますよ?」
「あれ……アユニさん?どうしてこんなに早く?」
僕がそう言うと、アユニは昨日のスパルタで魔法が使えるようになったので、魔力回復薬を多目に買いに来たと言った。
カウンターを見ると、アサヒとマナカもいて何かを買っている。
「大旦那様………じゃ無かった……ヒロ……さんお待たせしました!!ラーム只今到着です!」
大きな声でラームがそう言った為に注目を集めてしまう。
しかし冒険者達は遠巻きでラームを見て、笑っていながら小声で何を話している……
「ああ、ラームさん。貴方も早いですよ?半刻前ですからね?集合は……」
僕はそう言いつつ、風っ子の風魔法で周囲に冒険者の言葉を拾って貰おうと思ったが、その必要はなかった……
「すいません。ヒロさん。自分は指示もろくにこなせない冒険者の出来損ないなので……ギルドに来ると毎回こうなんです。モルダーの旦那にも、毎回不愉快な思いをさせちまってたんで……もし気になるなら置いていってください。自分は平気ですから……」
僕はラームの言葉に『成程……』と思ったが、そういう事には慣れっこだ。
だから問題ないと伝えようとすると……アユニが
「ラームさんっていうんですね?私はアユニと言います。私も同じですよ?ヒロさんが昨日出来損ないの私を、初心者講習の会場から連れ出してくれたんです!そして……なんと!!一日で魔法が使えるようになりました!でも此処だけの話……心の底から覚悟しないとダメですよ?精神的にぶっ壊れますから!」
「それならもう自分も分かってます!ヒロの大親分はもう……尋常じゃねぇくらい強いですから!モルダー親分の、二連撃を初撃で止めちまうんですから……それも暗闇でですぜ?」
「「「大親分!?」」」
3人が声を揃えてびっくりする……なので僕は適当な事を言って誤魔化した……
「ラームさんはね、自分より強い人を親分っていう傾向にあるんだ……。だから3人がラームさんより強ければ、呼び方はアネさんか姉御か……ねぇさんだね……」
そう言うと、三人は笑い始める……
「私はアサヒのアネさんよ!よろしくね?ラームさん」
「私はマナカの姉御よ?貴方その盾は……タンクね?よろしく同じ戦士系だから頼りにしてるわよ?」
「アユニねぇさんにアサヒのアネさん、そしてマナカの姉御ですね!宜しくお願いします!」
この言葉を聞いて周りは更に笑い声を大きくする。
中には昨日乱獲を見ていた冒険者も居るのでは?と思ったが、なんと……全く居なかった………
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