第823話「望まぬ来訪?帝国の騎士団」
ギルマスは周囲を見回し、装備に大量の血痕が付いている冒険者を見ては目を潤ませる……
「成程………あの魔法陣の中はそうなっていたのだな……お前が飛び込んでなかったら……。アイツら全滅だったな……礼を言う。まさか……あの少女狙いの犯罪者が此処まで役に立つとはな……」
「ちょっと、テカロンさん………狙ってないって言いましたよね?もうそんな事言う人をギルマスとは言いませんよ?僕は……」
「わっはっはっは………スマンスマン!お前は当分『幼女好き』って事で弄るつもりだから!……まぁ気にするな。ギルドは気性が荒い奴が多い。俺が弄ってる間は誰もては出さんだろう!……それに……まだ小さい子供がソロでやっていくには難しいからな……お前が頼れそうな年上の仲間を早く見つけろ!そうしたら幼女好きって言うのは辞めてやる!」
バカな事を言うギルマスは、どうやら僕の事も気遣っている様だ。
ギルマスが人格者であり、そんな事を本気で皆に言う気など無いのは、今回起きた死者の件を話した時の表情で分かっている。
……だがそれでも、僕は『歳を取らない異世界人』なので、不必要な問題を起こすべきでは無い。
此処の街では秘密にした方が良い事が、今の僕には多すぎる。
第一に、異世界人としてこの世界で暮らす『唯一の地球人』としては……あまり周りに知られてはならない情報だ……
此処は既にそれを知っているエクシア達がいる王国ではない。
僕に加勢してくれる仲間が居ない帝国領土では、黙っているべきなのは当然のことだ……
例え苦しくても、故郷へ戻るその時までは帝国領土では絶対に秘密にするべきだ……守ってくれる仲間が居ないのだから。
僕はそう思いつつ、皆と一緒に一旦ギルドへ戻る……
「全員、今から階層移動をする。無駄口はやめて聞く様に!宝と羊皮紙の件は口が裂けても言わない様に!いいか?貴族に知れればお前達は無事では居られない。それを絶対に狙ってくる筈だ……使用した者も無くなったからと言って安心するなよ?アイツ等は他の階層を探す筈だ……お前達を案内役にしてな?」
全員がギルマスの言う事を理解した。
自分達は階層を降りた際に見つけるまでは重要視されるが、見つかった後は捨て駒になると……
「分かったな?今日お前達は魔物と戦ったが『何も得ていない』……以上だ!では階層を移動して速やかにギルドへ向かうぞ?」
「「「「はい!!」」」」
◆◇
「今戻った!何か異常はあったか?クィース報告を………」
『バタン!!』
ギルドマスターがギルドの扉を開けて、一直線に受付カウンターへ向かい先に帰っていたクィースに質問をしようとしたその時、西側大扉が豪快に開かれた。
「我々は王国騎士団である!!帝国へ所属しているギルドにあるポーション類は只今を持って全て接収する!……後日改めてギルドへは必要分を吟味して、物納するので速やかに供出願いたい!」
それは突然起きた……僕達がギルドへ帰ったと同時に帝国騎士団が現れたのだ……
「何ですと?……接収と言いましたか?……騎士団が何故ポーションの独占を?」
「テカロンギルドマスター。よくぞ聞いてくれました!我々帝国騎士団はこれよりそのポーションを持ち、ここのダンジョン踏破を致します。これが帝国宰相の勅書です、ご存分に確認されよ!帝国民であれば誰でも、皇帝陛下が病で伏せられているのはご承知だと思います。その病を治す為の『薬』を得る為に、我々はダンジョン踏破を繰り返す予定なのです!」
「な!?………皇帝陛下の病…………まさか悪化して?………く!!…………もうそんな状態になられたのか!?陛下は………」
「我々は皇帝陛下の為に何としてもこの遠征を成功させねばなりません。しかし、ポーションを帝国軍から持ち出せば有事の際に諸外国からの圧力には耐えられないのです!なのでギルドから徴収と相成りました!これは冒険者への皺寄せになりましょう……ですが皇帝陛下無くしては国は成り立ちません故!」
騎士団隊長がそう言った後に、騎士団員はギルドショップへ行きありったけのポーションを持っていく。
僕は『そんな情報を漏らして良いのか?』と思ったが、周囲を見回すとこれと言って目立つほど騒いでいる様子もない……
どうやら冒険者側は全員周知の上だった様だ。
僕は一応、周囲の冒険者の話し声に耳を澄まして見る……
「1天前に遠征を失敗してからと言うもの王の容体は悪いと聞くからな!……傷が深いとか……」
「俺が聞いたのは……階層主との戦いで武器を壊したと聞いたぞ?」
「私が聞いたのは伝染病を移されたと……家族にも移ってしまうから帝都から避難させたとか聞いたわ……」
其れ等を聞いた僕は、ガラスの靴事件で帝国に急ぎ帰った、帝都の鑑定士の『ホームズ・ドイル』の話を思い出した。
どうやらそこから1天以上も悪い状態が続いているのだろう。
「テカロンギルドマスター殿、御協力大変恐縮であります!この接収したポーションは後程1/4の数量になりますが、ギルドへ返却致します。残りの3/4に関しては市場価格の2割増しで買い取る事になります。ご協力を感謝します!」
そう言って騎士団員は足速にギルドから出て行った。
「こ……困ったなぁ………さっきまでポーションが溢れかえっていたのに……今は完全に品薄だ………チージョン、サブマスター!!おい!チージョン居るか?」
「ギルドマスター!………困りもんですぞ?ポーションだけで無く、傷薬に回復薬も既に朝方に帝都へ治めているんです!回復できずに困るのは冒険者ですよ!……回復系は既にもう何もかもが枯渇状態です!!」
それを聞いてしまった駆け出し冒険者はザワメキ立つが、それに拍車をかける事が起きる。
多くの冒険者達がギルドショップへ走り込んできたのだ……
「ポーション!ポーションをくれ………くそ!ねぇ………ああああ!遅かったか……くそ……街の在庫を頼る前にギルドだったか………ああ!くそ!……どこもポーションが売り切れって……冒険者辞めろってか?」
「バーバン!!………はぁはぁ……買えたか!?………」
「駄目だ…………もう帝国騎士団に買い取られた後だ………ダンジョン前で売り専を狙おう!……まだこの状況をしらねぇ筈だ……今のうちに買い取らねぇと、回復師がいねぇ俺たちは、明日から中層潜れねぇ!………」
「ああ!行こう!!………金はあるか?」
「ああ、全財産持って来た!………大丈夫だ10本は最低買える!………行くぞ!……」
そう言って男達は走り出し、ダンジョン入り口へ向かう……
すると、それを見た他の銀級冒険者も慌てて跡を追いかける……
「くそ……ヤベェ……全部買い取られる前に俺等もダンジョン前に行くぞ………」
「ああ………くそ……その手があったか……ベスパー金貨は持ったか?」
「400枚はある!値が釣り上がっても2本は最低買える筈だ!」
その金貨400枚の言葉に、事もあろうにアユニとアサヒが食いついてしまった……
「あります!今さっきポーション手に入れました……ダンジョンで。もう……今すぐ売ります!私宿代の為に、纏まったお金欲しいです!!えっと……2本は間違いなく……あれ?3本だったかな?アサヒちゃん幾つだっけ?同じ数だったよね?」
「わ……私もあります!2本……あっと………違いました!……3本あります!」
「「「「「買ったぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
「ふざけんなよテメェ!俺が先に言ったんだよ!」
「馬鹿言うなよ!俺が言ったぞ?絶対!!俺だし!!それにお前よりあの子に近いのは俺だろう?みろよ!」
「ちょっと君はそれで何本あるのかな?……よく確認して?本当に3本あったら……金貨500枚で売らないか?何だったら、このスパイクレザーアーマーもあげるよ!今日ダンジョンで出たんだけど女性物だから俺着れないしさ!」
「お前抜け駆けすんなよ!……ってか何勝手に金貨袋渡そうとしてんだよ!ってか何だよ!そんな装備だったら、こっちのメタルコルセットの方が良いぜ?女性限定装備品だし、なんせ鉄製だから腹刺されても平気だぜ?」
しかしその阿鼻叫喚の、年末セールの様な地獄絵図は一瞬で終わる……
「お嬢さん!それは我が騎士団で買い取りましょう!ポーション3本、金貨600枚で!第一師団、百人長!今すぐ彼女の採寸をして、帝都から装備一式を届けなさい!………うん?そのポーションは何かね?見た事が未だ嘗てないな………上級のさらに上か?それとも……まさか……秘………ゴホン………誰か!誰か急ぎ鑑定スクロールを持て!」
何故騎士団長はが来たかと言うと、ギルドへの依頼と伝言を忘れた為に急いで戻って来たのだった……
しかし青ざめる一行……そして頭を抱えるギルマス……
その理由はポーションを出そうとして、アサヒもアユニも『蘇生薬』を出し手に持っていたのだ……
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