第821話「討伐報酬と謎の声」


 僕は巨大な魔物を駆除するのに向いた、最終兵器を投入する……



『水槍撃!!』



「グゲ!?……何だこの魔法は……我が瘴気を突き破って………ゴバァ!………グベェ!?」



 水魔法が発生させる衝撃波は、瘴気に当たり弾けるとその周囲の具現化された穢れや瘴気を吹き飛ばす……そして次の水槍が本体に刺さり弾ける。


 弾けた衝撃波で魔物の生み出す瘴気がまた破壊されて、次の水槍が刺さる……



 それを繰り返す事10本目の水槍が爆散すると、イーブルフェイスの本体は再生不可能な状態にまでダメージを負っていた。



「魔物は……流石に動かなくなったな……。あれだけの爆散する水槍を喰らえば当然か……」



『そうね……若干やりすぎな感じもしたわ……。水や氷達と話していたのよ?レベル15の魔物に馬鹿にされたからって、あれは流石にやりすぎじゃ無いか?ってね……』



「レベル15だったの!?そこまで余裕がなくて、スキル部分と生態の鑑定に絞ってたよ……まぁそれでも危険なスキル持ってたけどね。毒なんか特にそうだったよ?レベルに関係ない継続ダメージだから下手すると死ぬし……」



 僕は風っ子の念話に応えつつ、魔物が本当に死んでいるか確かめる事にした。



 イーブル・フェイスを鑑定すると、簡易ステータスには『死亡』の文字が出ていたので、この空間のヌシは倒した事になる。


 しかし此処からが問題だ……残っているイーブルブラウニーを駆除してから帰り方を捜して、遺体を担いでダンジョンへ帰らねばならない。



 そして後始末としては、この空間に出入りできる魔法陣の周囲に、ギルド職員か衛兵の派遣をしなければならない。



 理由は6Hすると空間は自然消滅すると書いてあった。



 その場合中に居た冒険者や魔物はどうなるかわからない……


 一緒に消滅する恐れもあり、魔法陣から外へ放り出される可能性も捨てきれない。



 ひとまず僕は来た道を戻って3人の元へ向かおう……と思い振り向くと、周囲にいたイーブル・ブラウニー達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。



 ◆◇


「皆さーん!大丈夫ですかー!」



 僕は、まだ敵が無数にいる部屋の中で大声を上げる。


 その理由はタリスマン効果の外側で、囲みを作るイーブルフェイスを牽制する為だ。



 イーブルフェイス達は僕が此処のヌシと戦う様を見ていたのか、僕を見ると逃げるようになっていた。



「皆さん大丈夫ですか!?……一応ボス戦は無事終わりました。避難させて良かった!皆さんが居たら凄く苦戦するところでしたよ。同士討ちスキルは持ってるし、毒の息を吐くんでまぁ皆さんが居たら誰か死んでたはずです……」



 僕はそう大きな声で言いながら、魔物避け効果のある場所を一人歩き、皆の元へ向かう。



「ヒ!ヒロさん!!」



「無事だ!!あの少年……なんて奴だ!」



 皆と合流した僕は、敵の話をする。


 鑑定に話はできないので毒の息をメインで話して、同士討ちさせる視線効果は、ソロで戦っていたので効果がなかったと誤魔化す。



「私達が一緒に行っていたら本当に迷惑かけるところだったんですね!いい勉強になりました……」



「マナカさんの気持ちもわかりますけど、まぁ偶然此処のボスより僕のレベルが高かったんで、ぎりぎり勝てただけです。さっきも言いましたが、かなり危険な攻撃だったんで毒の息は……レベルに関わらず特殊耐性が無ければ、効いてしまう系統の毒だったようです」



 そう話すが、冒険者達の表情はあまり浮かない……


 それもそうだろう……犠牲者が出たのだから手放しでは喜べない。



 引き摺り込まれた冒険者は、総勢21名で7個のグループだった。


 情報をまとめた結果、部屋で狩りをしていたパーティーの中から、それぞれ3人が引き込まれたと言う。



 僕達は偶然女性達3人パーティーで狩りの訓練をしていたので、魔法陣に丸々引き込まれた形になる様だ。



 そしてこの戦いで戦死した冒険者は先ほどの女性を含めて、戦士とタンク4名が帰らぬ人となった。



 しかし僕達は此処でうかうかしてられない……時間制限があり、やがてこの部屋が消失するのだ……



 元の場所へ帰る魔法陣が出ていない以上、何かの情報を見逃している可能性がある。



 僕は思い切って、敵の群れに斬り込むしかないと考えていた。


 ここの部屋の魔物を殲滅しなければ、帰れない可能性があったからだ。



「僕が最前線で戦うので、全員戦闘準備を!一斉に襲ってくる可能性もあるので……」


 そう話しを仕掛けた瞬間、念話が全員に届く……




『試練の間、主の討滅を確認……。生き残った英雄には、それに相応しい褒章が与えられます。部屋内部の生存者共通経験値10,000と其々に討滅報酬箱の進呈です。この試練の部屋は残り6刻で消失します。その際、中に留まることは許されず、部屋にあったものは階層や位置を特定せず個別に転移されるでしょう……生存者に幸があらんことを……』



 念話が終わると同時に、目の前の地面に宝箱が現れる……


 宝箱は個人別に用意されているようで、生存者全員がその様にビックリしていた。



「これって……全員報酬なんですかね?……えっと……ヒロさんで良かったですっけ?………」



『ガチャン…………』



 名前も知らない男性冒険者がそう言った瞬間、『ガチャン』と音をたてて勝手に開封される宝箱に僕達は二度驚いた。



 鍵いらずで自動開封なんて聞いた事もない……


 そう思いつつ僕は自分の前に置かれた中身を見ると、1本のポーションと丸まった羊皮紙が入っていた。



 皆の前なのでモノクルを使うしかない僕は、クロークの内ポケットから取り出す様な仕草をする。



「皆さん、触らずに暫く待っててください。いま特殊なアイテムで安全か確認します」



 僕は仕方なくモノクルの存在を明らかにして、そのポーションと羊皮紙を鑑定する。



『蘇生薬………如何なる死を迎えた者でも一度だけ蘇らせることが可能。外傷(主に傷で大小の差は無し)は直ちに塞がり回復される。過去に受けた古傷も回復可能。欠損部位等の身体的欠如及び、記憶の一部欠如、記憶喪失などには対応不可。精神異常、疾患の対応は不可』



 羊皮紙はどうやら、ポーションの説明書代わりの様だった。



 僕は見た感じかなりの代物を手に入れた様だ………


 ひとまず僕のそれは保留にして、横に居たアユニとマナカ、そしてアサヒの箱を確認する。



「嘘だろ………全部一緒?」



 僕はついつい声に出して驚いてしまう。


 次々と箱の中を見ると、全て同じ物だった。



「皆さん、これは全部同じ物です。中身は『蘇生薬』で、羊皮紙は説明書です。僕は未だ嘗て使った事がないので、効果の程は分かりません。ですが、死んだ人を生き返られることができる、とんでも無いお宝ですね……それも一人に1本です!!価値は………計り知れないでしょう」



 それを聞いたパーティーは余りの代物に、驚き歓喜する……



 女性冒険者のパーティーメンバーと思わしき男性が、遺体の側で咽び泣いていたのだが、僕の説明を聞いた途端、近くの箱からポーションを引っ掴む。



 そして遺体の元に戻り『ゴポゴポ』と丸々一本を口に流し込んでしまった………


 その男性の動きは、非常に素早く無駄が無かった。


 一瞬の出来事だったので、誰もが動けない程だったのだ。



「ンブ!?…………ブボ!?ブボ………べべ……@¥%#*@!………ゲホゲホ………ゴホゴホ…………て!テメェ!!ロイズ!!ゴホゴホ……オエーーまじぃ……なんだ?コレ……馬の小便か?くせぇし……まじぃし……………何しやがんだロイズ……………ゲホゲホ……あ………あれ?……誰だい?アンタ達…………」



「メリッサ!!メリッサーーーー!!………………い………生き返った………あぁぁぁぁぁ!神様!有難う御座います!!ああ………メリッサ………メリッサ!愛してる!お前無しじゃ………俺はもう………どうにかなってしまそうだった………」




「ちょ………はぁ!?…………馬鹿か!!…………お……………お前…………何頭とっ散らかってんだよ!!………こんな沢山の人がいる前で………イカれたか?とうとう………昨日オメェと喧嘩したばかりじゃねぇか!!……ば………馬鹿言ってんじゃないよ………」



「メリッサぁぁぁぁぁぁぁ…………」



「だ……抱きつくな!ってか男が泣いてんじゃねぇよ!単に気を失ってただけ……………あれ!?なんだこの装備に空いた穴は………買ったばかりのおニューの革鎧がたった1日でおじゃんじゃねぇか!!………ってなんだ?この血痕………おお?………ええ!?……まさか………アタイの!?…………ええ…………えええええ!?」



 その様を見た他のパーティーメンバーも、手近な箱からポーションを引っ掴み遺体に駆け寄る。


 死んでいた四人は、突如嘘の様に湧いて出た蘇生薬のおかげでその命を拾ったのだ……

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