第794話「デキル女グレナディア」
『我、原理の間の主グレナディアなり……我と因果の関係で結ばれし旅人に、祝福と試練を与える。供物は記憶なり、この者に力を与え試練を課せ。ヴリエーミァグロースヴァロータ』
グレナディアは全てを終えてから、僕に向かって話しかけた……
「ヒロさん、これで儀式は終了です。貴方のスキル『倉庫』の中で『ヴリエーミァグロースヴァロータ』と詠唱すれば、門が開かれます。ですが今のレベルと実力では魔力も知識も足らず、満足な扉は開けません。開けても長くて2秒でしょう……此処から出たら試しに開いてみると良いでしょう」
そう話し始めたグレナディアは、契約を終えた僕に注意点を説明する。
当然ながら、僕の今の状態では実力不足であると……
移送系呪文は凄い量の魔力を消費する様で、門の内部の移動中も常に魔力を消費するらしいのだ。
当然だが魔法についての知識も必要だ。
その点を重点的に鍛える様に二人から言われた……
今無計画に呪文を使い中に入れば、同じ場所には二度と戻れない事も説明を受けた。
その為、最低限1時間以上は門を開いた状態に出来なければならない。
特訓無くしては家には帰れないのだ。
しかし僕は念願の力を手に入れた……ギールに色々としてやられたが、結果的に言えば不幸中の幸いだろう……
「新しい力は貴方自身戸惑うことが多いでしょう。ですが私たちと出会えた事、それが全てを物語っています。道は険しく長いでしょう……貴方はそれを踏まえて一歩ずつ前に進むしかありません。運命の導きがあれば私達はまた出逢います。その時貴方が自力で記憶を手にしている事を祈ります……」
グレナディアがそう言って、リツが僕にニッコリ笑うと……
「グレナディア名残惜しいけど、もう終りの時間。彼は扉を選ばなければならないわ……」
リツがそう言うと僕の後ろを指さした。
そこには先程から凄く気になっている、扉があったのだ。
単純に扉が何枚も立っている……しかし僕が倒れていた場所の扉は、上半分が焦げて無くなっていた。
僕の疑問に答えてなのかリツがその扉の正体を教えてくれた。
「それは試練の魔法陣から続く祝福の扉よ?貴方はあそこの焦げた扉から来たの。本来なら来たところから帰るものだけど、もう向こうには帰れないわ。理由は分かってるわよね?もう魔法陣が溶岩に溶かされ存在しないから、物理的に帰れないの……」
彼女はそう言うと、他の扉を指し示す。
「戻れない場合は、貴方に他の場所を選ばせる決まりよ。でも、私達は行き先は教えられない。もう此処の扉を潜る時点から試練は始まっているの。なんの因果で貴方はその扉を選ぶのか……そんな所ね?……」
僕はかなり多くある扉の中から、何故か一番僕を惹きつける扉を見つけた。
形は石造のアーチ型、扉は何故か海賊帽子の様な絵が描かれている。
「コレにしてみます……」
「本当にそれで良いの?他にも扉はあるし、中には貴族の使いそうな綺麗な扉まであるのに……ちなみにそれを選んだ理由は?」
「僕は元の世界では海賊映画が大好きで、それに出てくる帽子にそっくりな絵なんです。冒険モノなんですけどね?歴代の海賊が出てきて、この世界にいる様な化け物も出てくるんです。なので世界観が似てるなぁって思って……コレにしました」
そうこたえたあと、最後に僕はどうしても気になっていた事を質問する。
「すいません。最後の質問なのですが……」
「ん?ああ……言わなくてのいいわ……精霊の事でしょう?大丈夫よ。此処は精霊力が無いから化現できないの……狭間と言ったでしょう?精霊力が及ばない空間と言うべきかしら。同じ造りではあるけど別の物、お互いが反発し合うせいで両者が出逢うことが無い世界よ……だから安心して良いわ。精霊達は今貴方の精霊核に封印されている状態よ。強制休眠状態と言うわけよ……」
僕は助けてくれた精霊に、少しでも早くお礼が言いたかった……
しかしどう頑張っても呼び出せなかったのだ。
そして場所を移動する以上、会えない可能性もあるのでそれを聞いたのだ。
だが精霊は魔法陣を潜る時点で、皆僕の中に収容されたそうだ……
「それを聞けて安心しました。なにせ助けて貰ってまだお礼も言ってないので……」
「貴方は精霊に愛されて、貴方も精霊を愛してるのね?良いことだわ……」
グレナディアがそう言うと、リツは手を差し伸べる……
「さぁ、もう向かいなさい……こうしている間にも貴方の時間は過ぎているのよ?……ちなみにもう凄い日数が経過してるから……貴方の言う浦島太郎にならない為にもお行きなさい。また私達の運命が絡むのであれば逢えるわ」
そう言って彼女は何かを詠唱する……
『ギィィィィィ……………』
すると軋む音を立てて扉が開く……
扉の中は真っ暗で非常に不安だが、僕は意を決して飛び込む……時間も与えられなかった……
「じゃぁねバイバイ!」
「ハイ!どーーーん!!」
グレナディアは『どーん!』と言って、背後から僕を突き飛ばしドアの中に押し込んだ……
「ちょっと………嘘でしょう!?別れが雑すぐぇ…………………………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………舌噛んだぁぁぁ……」
◆◇
扉の中の暗闇は突き飛ばされて分かったが、奥へ奥へと引っ張る力があった。
脚がもつれながらもなんとか脚を前に出す。
倒れそうなのに何か不思議な力が働いているのか、僕は倒れずに前に走って進む……気がつくと目の前に灯が見えて来た……
「どうわぁぁぁぁぁぁ…………………あ……灯ぃぃ?……うぉぅ……ま……眩しい!!」
光に吸い込まれる様に走り込むと、今まで身体を支えてくれていたモノがなくなる感覚に襲われる。
そして勢いよく前にコケた……
『ズテン…………………』
『ブモォォォォォォォ!!』
「新手だよ!!ガルム!!…………な……に……え!?……人間!?」
「気を抜くな!レイラ……アンガの二の舞になるぞ!!……」
「クレム!!レイラの前に入れ!盾でカバーだ、俺がナイフで牽制する!!」
目の前にはミノタウルス系の魔物が居て、それと相対する形で戦闘中のパーティーが居る。
しかしメンバーの一人が僕とは反対側の壁付近で座り込み、グッタリしている。
それを見た僕は、即座に状況を判断した……『戦闘中だ!』と……
すぐに立ち上がり後ろを振り返ると、そこには不思議な魔法陣が書かれた壁画があった。
どうやら僕は、この壁画に描かれた魔法陣から飛び出した様だ。
暗闇の中では周囲は見えなかったが、出口付近は明るかった。
だから確認が出来たのだが……確かに飛び込んだモノは僕が選んで入った石造の門だった……
扉は無かったので、灯がそこから入って周囲を照らしていたのだが……
しかし、現状としてそれを考えている余裕など今はない。
すぐさま僕は、倒れている冒険者を鑑定をする……『状態・気絶……HP69 状態異常……出血(-1HP継続ダメージ)』
僕は『ヤバイ!彼は死ぬ!!』と思い、すぐに傷薬をボディバックから取り出して男性冒険者の元に走る……
『瞬歩!!』
「な!?………き……消えた!?」
「レイラ、奴はアンガ狙いだ!!魔法陣から飛び出したところを見ると、ドッペルゲンガーかも知れない……。なんとか足止めしろ!!俺は気付け薬と傷薬をアンガにかけたらひとまず担ぐ。ブルミノタウラーとドッペルゲンガーは同時に相手は出来ん。すぐに逃げるぞ!!撤退だ……」
「ダメ!私のスキルでは捉えられない!!ガルムかクレムがカバーに入って!!アンガがこのままでは……」
「レイラ……儂がカバーに入る!クレムは傷薬だけでも奴に……レイラはブルミノタウラーを牽制しろ!!ペムは魔法で狙える方を!レックは逃げ場所を確保じゃ!」
見知らぬ冒険者一行は、必死に状況を立て直そうとするものの……上手く連携が取れていない様だ。
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